290、雨中の馬車にて
「女神殿の伴侶……伴侶ですと!? 確か噂では……魔王がどうとか……この不埒な男が、ですか!?」
「どーも魔王でーす。」
さて、信じるかな?
「ば、バカな……かの魔王がこんな所にいるはずが……ましてや雨の中をわざわざ走るだなんて……」
さすがに魔王は知ってるのね。
「たまには雨に打たれたい日だってあるだろ。人間だもの。」
さっきアレクも似たようなこと言ったのに。やっぱこいつ人の話を聞かないタイプか?
「信じないのはあなたの勝手だけど、間違いなく魔王カースその人ですわ? ご納得いただけないかしら?」
「な、なぜ魔王ともあろう方が雨の中を……い、いやそれよりもアレクサンドリアが魔王の怒りに触れて破壊されたというのは!?」
おっ、ようやく話を聞く気になったようだな。
「説明して差し上げますわ。」
外は大雨。馬車は進む。だが車内はうるさいなんてことはない。こいつが消音を使ったんだろうな。
アレクの説明が淡々と続く。私が話した内容をかなり脚色しちゃってるけど……私が破壊したのは体感で二割なのに、アレクサンドリアの半分を何もない更地にしたことになってる。再開発しやすそうだね……
「なんたることを……魔王! やはり貴様は不埒な存在で間違いないようだな! かくなる上は! 一騎打ちを申し込む! 返答や如何に!?」
えー……なんでそうなるんだよ……
「一騎打ちは構わんが、六なんとかの奴らでも相手にならなかった話は聞いてたよな? それでもやる気か?」
「六魔騎将だ! 我が師は六魔騎将の一人! リムザ・ド・ガルネクドアンブル! 貴様は師の仇だ! いざ尋常に勝負せよ!」
あらま。それなら仕方ないね。
「いいだろう。相手してやるよ。今すぐか?」
「当たり前だ『狙撃』っ……ぉ……なっ……」
額に穴を空けた。だから今すぐかって聞いたのに。なぜ一言「外に出てからだ」が言えなかったんだろうね。こんな狭い馬車の中で向かい合って座ってるってのにさ。
私も自分を甘いと思うけどさ。こいつほどではないよな。わざわざ確認してやったのにさ。仇をとれなくて残念だったね。あ、急にうるさくなった。うわぁ、さっきより大降りになってるのかな?
『消音』
うん。静かになった。
「この馬車はどこまで行く予定だったのかしら?」
「へいっ! ボルドラまでです!」
御者席後ろの窓を開けてアレクが問いかけた。
「ボルドラのどこへ?」
「へいっ! 領主邸です! もう少し急げば夕方までには着くと思いやす!」
「そう。ならこのまま進みなさい。あなたは何も見ていない。分かってるわね?」
「へ、へい! もちろんでさ!」
へー。ボルドラか。ちょうどいいね。というかこの街道を西に進んでるんだからそりゃあボルドラに決まってるわな。でも領主邸とは……何の用だったんだろうね? もう分からないけど。死体は私の魔力庫に収納しておいた。後はロキサーヌ達に丸投げだな。あいつまだ三女に化けたままなんだろうか。あれこれと大変だねぇ。
あ、ついでだからボルドラでは領主邸に泊まろうかな。食事だって期待できそうだしね。
あ、そう言えばコーちゃんとカムイの姿が見えないんだよな。どこに行ったんだろうね? まいっか。そのうちひょっこり姿を見せるだろ。
「ピュイピュイ」
ほら来た。車内でアレクとイチャイチャしてたらどこからともなくするりと帰ってきた。
カムイも一緒かい?
「ピュイピュイ」
あらら。カムイったら脇に逸れて山方面に行っちゃったの? だからコーちゃんが知らせに来てくれたんだね。分かったよ。この馬車は道なりに進むから適当に追いついてくればいいってカムイに伝えてくれる?
「ピュイピュイ」
ふふ、ありがとね。コーちゃんもカムイのお守り大変だね。
あ、またするりと出ていった。コーちゃんは偉いね。カムイが自由すぎるもんだから。
ん? 馬車が止まった。着いたかな? いや、それにしては早すぎるような。
「すいやせん。仲間の馬車に何かあったみたいなんでさぁ。少し見てきやすんでお待ちいただけないですか?」
「いいわよ。行ってきなさい。」
おや、事故かな? 大雨だし色々とアクシデントはあるもんだよな。それにしても乗客を放ったらかしかよ。これ私達が横暴な貴族だったらぶち切れだぞ? まあ、そうじゃないから仲間を助けに行ったんだろうけどさ。馬車引きには馬車引きの仁義があるんだろうね。見逃してやるさ。




