279、蜂の巣解体
カムイに続いて歩みを進めること十分。時折り復讐刺蜂が襲ってくる。だから風壁で生け捕りにしてやった。いくら猛毒を持っていようとヤバい性質だろうと蜂は蜂だからな。私の風壁を破ることなどできまい。
「ガウガウ」
そろそろ見えてくる頃なのね。
「お前らはここまででいいぞ。そろそろ巣が近いみたいなんでな。」
「おっ、そうなんかあ。そんじゃ悪いがここらで待っとくぜえ?」
「楽すぎて悪いなあ?」
「まっ、後ろの警戒だけはしといてやるよお」
多分その必要はないだろうけどね。でも気持ちだけは受け取るぜ。
さてカムイ。先に行って魔声をぶちかましてくれよ。無傷で制圧するにはそれが一番と見たからな。
「ガウガウ」
いやー、私まで楽できてしまうね。カムイの魔声はかなり強力だからな。いくらヴェンジェホーネットでもこの体格では抵抗できまい。
『グオオオオオオオオオオオオォォーーーーン!』
おっ、やったなカムイ。かなり魔力を込めてるじゃないの。少しも油断してないな。
「僕らも行こっか。」
「ええ。でももう終わったのかしら?」
「たぶんね。動いてる奴がいたら改めて仕留めればいいよね。」
大物でさえ動きを止めるカムイの魔声だからな。たかだか十五センチの蜂では抵抗できまい。
ほーら。ことごとく地面に横たわってる。
『氷壁』
しっかりと冷凍して……っと。
おっと『麻痺』
全ての蜂が巣の周辺にいるわけじゃないのね。異変を察知して外から帰ってきたってところか。十匹単位で襲ってきやがるじゃないか。
しかし、いくら獰猛な魔物だろうが蜂は蜂だ。私の麻痺にも抵抗できまい。一旦麻痺させてから氷壁に閉じ込める。
「ピュイピュイ」
あららら、コーちゃんたら。地面に落ちたヴェンジェホーネットをバリバリ食べちゃったよ。毒がぴりりと効いて美味しいの? うへぇコーちゃんお腹壊さないでよ? もっともコーちゃんが変なものを食べるのは今に始まったことじゃないけど……
さて、次は巣の処理だな。うーんでかいなこれ……直径二メイルはあるぞ。
まずは蜂の子を取り出さないとな……うーん困った。無理矢理取り出すのは簡単なんだが、それをやると巣が壊れてしまう。巣そのものも旨いらしいからな。なるべくきれいに取り出したいのだが……
あ、そうだ!
『終わったぞー! 来てみな!』
ここは熟練者の出番だろ。真っ当な冒険者は解体も上手いってのが定番だからな。面倒なことは任せればいいんだよ。
「マジで終わってやがる……」
「一匹もいねえ……」
「争った様子も見えねえ……どうなってんだこれ……」
呼んでから現れたのが五分後。遠くに姿を見せてから、やけに慎重に歩いてきやがってさ。
「蜂の子を取り出したいんだけど、できるか?」
「おっ? なんだあ魔王さん解体できねえんかあ?」
「ぎゃはははあ! 意外な一面もあるもんだなあ! よっしゃあ任せとけえ!」
「この際だからしっかり覚えとくんだぜえ?」
「おう。頼むわ。」
せっかく来たんだからこのぐらい働いてもらわないとね。
「よっしゃ! そんじゃ魔王さんは他にヴェンジェホーネットの生き残りがいないか警戒しといてくれやあ!」
「こいつら他にも巣があったりするからよお」
「全滅させたと思っても安心できねえんだぜ?」
「へー。それは知らなかったわ。気をつけとくわ。」
「よっしゃ! そんならいくぜ! よーく見といてくれやあ?」
警戒しないといけないんだけどね。
「まず外側はざっくり切っちまって構わねえ。物好きな商人なんかが欲しがる場合もあるけどなぁ。魔王さん別にいらねえんだろ? 食えねえし」
「ああ、いらない。欲しけりゃやるよ。」
旨い部分だけ欲しいんだもん。
「へへっ、あんがとよお。そんじゃ……」
三人が巣の下側にぐるりと切れ目を入れた。
「よおし、そんじゃ魔王さん。こいつを持ち上げてくれやあ」
「おう。」
『浮身』
へー、面白いなこれ。外側だけが浮かび上がって、後には外壁のないビルみたいな巣が残るだけか。すっご。さながら階層に分かれた卵型ビルって感じ?
「どうよ? こうすりゃ後は取り放題だぜ?」
「意外に簡単なんだな。というかお前らやっぱ熟練の冒険者なんだな。びっくりしたわ。実はアジャーニ領随一の冒険者だったりするのか?」
「そんなわけねえだろ! ただ長いこと冒険者やってんだけだっての」
「ぎゃはははあ! アジャーニ領随一かよ! 悪くねえなあ!」
「それにしてもこの巣はでけえなあ。高く売れそうじゃねえのかあ?」
「もちろんそいつは持ってって構わんぞ。」
蜂の巣の解体方法なんて知らなかったからな。外側と内側がほぼ別構造だったとはね。面白いもんだわ。
「マジかよ。悪いなあ。ありがたく貰っとくぜえ!」
さて、ではこっちも収納しないとな。
『風壁』で覆ってから……『氷結』
本来なら氷結は物質そのものを凍らせる魔法だが今回は風壁内の空気を超低温にしてやった。生き物は魔力庫に入れられないが氷漬けにすれば収納できることは海で学んだからな。心臓にあたるものが停止しているかどうかが境目なんだろうか?
では収納っと。よーしばっちり。
「じゃ、帰るとするか。」
森を歩き回りたい気もするが、どうせ次の貴族領まで歩くんだしね。森も街道も散歩することに変わりないよな。
「へへっ、すっかり稼がせてもらったなあ!」
「その若さでえらく金離れがいいじゃねえの」
「まるで五等星並みの貫禄だぜえ」
「そう持ち上げるなよ。利害が一致してる間ぐらいケチなことは言わないさ。それに冒険者は皆仲間だろ?」
もちろん建前だけどね。世の中にはクズみたいな冒険者も多いからなぁ……むしろそっちが多いのが普通なんだが。職人や商人、農民や騎士など真っ当に生きていけない人間の行き先がギルドって面があるんだからさ。そりゃあ腕次第で一攫千金は狙えるけどね。リスクは高いよなぁ。
「マジか……クタナツの冒険者は今どきそんなこと言うんかよ……それとも魔王さんだけなんかあ?」
「さなあ。お前らは違うのか?」
「そ、そりゃあ真っ当な冒険者となら仲良くしてえぜえ? 真っ当な奴ならよお?」
「おお、そりゃそうだあ。だが今どきそんな甘っちょろいこと言う冒険者なんざここらにゃあ居ねえぞお?」
「クタナツみてえに凄腕もいねえけどなあ! ぎゃっははあ!」
うーむ、おもしれー奴らだなぁ。




