280、街道の女たち
村へ帰って巣を見せて、ゴネられることもなく報酬を受け取った。退治する現場を見てないんだから信用できん! ぐらい言うかと思えばそんなことはなかった。私ってもしかして人間不信を拗らせ気味? そんなことはないと思うけどなぁ……
あいつらは念書的な何かを書いているようだった。ただし紙にではなく、そこらの板切れに。書いた後で半分に割って各々が持っておくのね。割り符ってわけか。
「よっしゃ待たせたなあ魔王さん! 行くとするかあ!」
「今からだったら夕方にはベルグ領まで行けんだろ」
「ちいっと急ぎゃあベルグ領のベルグラックまで行けんじゃねえ? いい宿あんぞ?」
ベルグラックとはベルグ領の中心地だったか。ある意味領都だな。
「どっちでもいいさ。適当に歩いて日が暮れた時に居る場所に泊まるとするわ。ね、アレク。」
「ええ、それがいいわ。歩きたいように歩くことこそが贅沢だわ。」
時間に追われないって最高だよな。寿命という時間には追われてるかも知れないが、私もアレクも寿命が倍になってるし。あ、でも私は五年ほど縮まってるんだよな。寿命と引き換えのコーちゃんの牙ブーストか……二度と使いたくないもんだわ。いや、使わなくて済むように立ち回らないとね。
「そういや聞いてなかったけどボルドラまで何しに行くんだ?」
「いや、特に用はないぞ。前回立ち寄りはしたんだけどさ、あそこの料理を何も食べてなくてな。少しばかり気になってるだけさ。」
「なんだそりゃあ……確かにあそこら辺は酒も食いもんも旨えけどよお……」
「特に用がないんなら俺らと一緒にアジャーニ領まで来いよなあ……」
「そうだぜえ? こっちはこっちで旨いもんがあんだぜえ?」
うーむ。それも悪くはないんだけどな。
「悪いな。ボルドラの次は王都に行くもんでな。アジャーニ領もそのうち行くこともあるだろうさ。」
たぶんね。クタナツ代官の生まれ故郷と考えると少しは気になるかな。どう育ったらあんな国王ラブの堅物代官になるのやら。あ、もう先王だったか。
「王都に何しに行くんだあ? いいから来ればいいのによお」
「たんまり歓迎してやんのによお?」
「まったくだあ。あの魔王が来たとなりゃあ大騒ぎだぜえ?」
「悪いな。国王陛下にお会いする約束があってな。」
嘘ではない。いつ行くとは言ってないけど王都に行ったら顔を出すと言ってあるし。
「なっ!? こ、国王陛下にい!?」
「マジかよ……さすがだなあ……」
「そう言われちゃあ仕方ねえな……やっぱ魔王さんてすげえんだな……」
誘われて悪い気はしないんだが、ただでさえ遠回りしてるんだからな。これ以上の寄り道は避けたいところだ。
「悪いな。この先のベルグ領だったか? そこまで楽しく歩こうじゃないか。」
「おうよ! そんならやっぱ今夜はベルグラックまで行こうぜ? そんで派手に飲もうじゃねの!」
「おお! それがいいぜえ! もちろん奢るからよ! そうしろよ! なっ?」
「そうと決まりゃあ少し早歩きすんぜえ! 行くぜえ魔王さん!」
返事してないのに。別にいいけど。
「じゃあアレク。付き合うとしよっか。いいよね?」
「ええ。もちろんいいわよ。奢りなら私スペチアーレが飲みたい気分だわ?」
はは。アレクったら。
「か、勘弁してくれよお……今回の稼ぎがぶっ飛ぶじゃねえか……」
「冗談よ。ベルグの名産を楽しむとするわ。」
まっ、そうだよね。せっかく旅をしてるんだからさ。
それよりさっきからちょくちょく気になってることがあるんだよな。
「ところでさ、ぽつぽつ街道の横に座ってる女がいるよな? ありゃあ何者だ?」
ここまでで三人見た。見窄らしい服装をした若い女だ。
「あー、獲物がかかんのを待ってんだあ。スリだったり美人局だったりすんだけどよ。鼻の下伸ばしたバカな男を狙うバカな奴らってわけよお」
「そこまでバレてんのによくやるよなぁ……」
「ぎゃっははあ! やっぱ初めて通るって奴もいるからよお? 意外と若い冒険者なんかが引っかかるんだぜえ?」
「そんで獲物を引っかけた奴あしばらくここらに顔を出さねえってわけよお。どっか他所で似たようなことすんだろうぜ?」
「バカばっかだぜなあ?」
「ふーん。」
おまけに山越えルートなら盗賊が出るって話だったか。盗賊に比べればこいつらの方がマシなのかねぇ。盗賊かぁ……もしかしたらガストンの野郎は山の中に逃げ込んでたりしてね。もしそうならさすがに見つけられないな。山ごと更地にするならともかくね。
「お前らちょっと先行ってな。」
「あんだあ?」
女に用ができたからね。
「アレクもごめんね。ちょっと待っててね。」
「ええ、いいわよ。」
ターゲットは……あいつでいいか。
「よう。ご機嫌どうだい?」
「あぁっ、さぞかし名のある方とお見受けしました! 実は私、王都はボワモルティエ子爵家のブレンダと申しますが……先ほどそこで足を挫いて困り果てていたところなのです……どうぞ哀れと思っていただけるなら王都まで、いえベルグラックまでで結構です……お送りいただけないでしょうか……」
うわぁ……こいつさっき私が通ったのを見てないのか? しかも一生懸命覚えたセリフをがんばって喋ってる感バリバリだし。どこが子爵家だよ。
「あー、そういうのいいから。率直に聞くぞ。お前このままでいいのか?」
「えっ? あ、あの、それはどういう……?」
「だからさ。こんなクソみたいな生活してて楽しいのかって聞いてんだよ。」
楽しいわけないよなぁ?
「は?」
おーおー。一気に憎々しげな顔になったね。
「ちっ! お説教なんざたくさんなんだよ! なんだあ偉そうに! 助ける気もないくせに一丁前な口きいてんじゃないよ!」
「ああ。助ける気なんかないぞ。代わりに助言をくれてやるよ。」
「は? 助言だあ!? 結構なご身分だねえ! あんたごときの言葉にどんだけ価値があるってんだい! 舐めたこと言ってるとぶち殺されるよ!」
それは無理だな。お前にも、こっちに近づいてくる男にも。




