276、ノントロ村にて
それなりに楽しくお喋りしながら歩くこと数時間。そろそろ日没かという頃に村が見えた。あれがノントロ村か。
「あの村って宿とかあるのか?」
「一応な。まっ安宿だけどよ」
「その宿って風呂はどうなってんだ?」
「あるわけねえだろ……」
やっぱないのか……
そりゃあ別になくても不自由はしないけどさ。自前のピラミッドシェルター内はマギトレントの湯船完備なんだぜ? でも、まいっか。贅沢すぎるのもよくないしな。たまには安宿に泊まるのもいいだろう。本当にたまにだけな? アレクを何度もそんな場所に泊めてたまるか。
「お前らもそこに泊まるのか?」
「おお。そこしかねえからよ」
「メシはそこそこいけるぜ?」
「酒もな? まっ、ほんとにそこそこだけどよ?」
どうしよっかな。酒は魔力庫に樽でどっさりあるが、やっぱ旅先で飲む酒は格別だしね。旅ってほど離れてないけどさ。
「ピュイピュイ」
はは、たまには安酒もいいって? コーちゃんたら人生経験豊富そうなこと言うんだから。蛇生経験か?
「ねぇアレク、僕らもそこにしよっか。たまには安宿で安酒飲むのも面白そうだし。」
「ええいいわよ。カースと一緒ならどこだって楽園同然だもの。」
「アレク……ありがとう。嬉しいよ。」
「カース……私こそ。こうしていつまでも、ずっと一緒に歩いていたいわ。」
「アレク……」
「カース……」
見つめ合う私とアレク。近づく唇と唇。あいつらがめっちゃ見てるけど知ったことじゃないね。このままアレクの可憐な唇を……
「ガウガウ」
なんだよカムイ……邪魔すんなよ。腹がへったぐらいで……
「なんだあ? せっかくいいところだったのによお……」
「かーっ! 若えもんはええよなあ!」
「早く帰りたくなったんじゃねえか?」
「狼ちゃんが腹へったとよ。お楽しみは食後のデザートだな。ねっ、アレク?」
「えっ、え、ええそうね……食後の……」
あからさまに残念そうな顔してるよ。そんなアレクもかわいいんだよなぁ。
おっ、村に着いた。周囲は簡易的な柵がある程度。盗賊や魔物が攻めてきたらあっさりやられてしまうぞ?
「そんで魔王さんどうすんだ? 俺らと同じ宿にすんのか?」
「まあそこしかねえけどよ」
「でもよ? こーんな小さな村に魔王が来てんだぜ? こりゃあ今夜はお祭りかあ!?」
「うちの狼ちゃんが腹をすかせてるからさ。さっさと宿に行こうぜ。」
「ガウガウ」
こんな小さな村に宿泊するのもたまにはいいよな。どんな料理が出るのかな。
うーん……腹は膨れた……
うまくはなかった……酒も、まあ飲めないことはなかった……
酒はともかく、飯はそこそこいけるって話じゃなかったのか?
部屋に行ってみると……うん、布団が汚い……むしろ藁や筵じゃないだけマシなのか? バランタウンができたばかりの頃を思い出すなぁ。スパラッシュさんと泊まったよなぁ。ノミだらけの布団にさぁ。
『浄化』
『浄化』
『浄化』
ふぅー。布団どころか床から壁から全部きれいにしてやったぜ。最後にしっかり換気して終わりっと。
では次。
『風壁』
『水滴』
「たまには蒸し風呂なんてどう?」
「いいわね。すっきりできそうだわ。」
部屋は狭いけど二人用サウナぐらいならどうにでもなるね。
『換装』
私は魔法で一瞬にして裸になったが、アレクは一枚ずつゆっくりと脱いでいく。私に見せつけるように。悪い子だぜ。
ふぅ……
いやぁいい汗かいたな。熱いサウナで熱い行為。食後だとハードだな……気持ちよかったけど。あー、冷たい水が旨い!
これで今夜もぐっすりだな。
「おう魔王さん。よく寝れたかあ?」
「おはよ。まあまあだな。そこまで悪い宿じゃないな。」
「マジかよ? こっちの部屋あノミが酷かったってのによお」
その割に痒そうにはしてないし噛まれた跡もさほど見えない。冒険者ならその程度の対策はしてるか。ごっついおっさんのくせに……ほんのりいい匂いがする。ミントっぽいな。それが秘訣ってわけだな。
「あ、あの、冒険者のお方……」
「なんだあ?」
私ではない。宿の者はおっさんの方に話しかけている。
「お力をお貸しいただけないものでしょうか……」
「言うだけ言ってみろよ。やるかどうかは分かんねえけどよ?」
それにしても元気のない話し方をする奴だなぁ。私達には関係ないし、さっさと朝飯食ーべよっと。
麦粥に漬け物、それから何かの汁。うーんまずい。残したりはしないが、お代わりなんて絶対しないね。麦粥なんか少しすっぱかったし。やっぱ安宿なんか泊まるもんじゃないな……私も贅沢になったもんだ。
さて、出発するかな。あいつらは何やら宿の者から相談されてるみたいだし。さらばだ。いつかまた会う日もあるかもね。
「うおおおおい! 待てよ魔王さん! なあにしれっと出発しようとしてんだよ!」
「ベルグ領まで一緒に行くんじゃなかったんかよ!?」
「ちょっと待てってえ!」
目ざといなぁ。やっぱこいつら腕利きなんだろうね。ちなみに一緒に行く約束なんてしてないぞ。
「なんだよ? 先行くぞ。」
後からこいつらが追いかけてくるのは自由だからな。
「だから待てってえ! 依頼だからよお! 一緒にやんねえか!?」
「依頼?」
宿の者がギルドを通さず冒険者に直接依頼ってか? 後でもめても知らんぞぉ?




