275、世は情け
まいっか。
「ノントロ村ってのはここからどれぐらいかかるんだ?」
「このペースで歩きゃあ夕方には着くんじゃねえか? つーかお前らその後どうする気だ? ノントロ村あたりから西に向かうと山越えだぞ?」
「そんなもんノントロ村まで行って泊まりゃあいいじゃねえか」
「そんで明日の朝イチで出発すりゃあ夕方にゃあどうにかボルドラぐれえ行けんだろ」
こいつら親切だなぁ。冒険者にとって情報は命だってのに。ほいほい教えてくれるじゃないの。そりゃあ私やアレクにとってそんなことは知らなくても関係ないけどさ。
「無理に山越えしなくてもよー? ベルグ領まで行きゃあボルドラまで街道のびてんしよ? ちっと遠回りにゃなるけどなあ」
「おー、それがあったか。そうしろそうしろ。山越えなんてろくなもんじゃねえや」
「急いでんなら別だけどよ。でもお前ら別に急いでそうには見えねえよな?」
本当に親切だな。私が何も知らないお子様だったら信頼度上がりまくりだよな。
「アレクはどっちがいい?」
「街道かしら。山歩きも嫌いじゃないけど、私達ってむしろ街道を歩く方が珍しいじゃない?」
そりゃそうだ。別に急ぐ旅じゃない。多少遠回りしようが関係ないもんな。
「それじゃあベルグ領経由でボルドラに行こうか。」
「決まったか。つーかお前ら街道を歩くのが珍しいってどういうこったあ? まさかそんな顔して闇ギルドに足つけてんじゃねえだろおな?」
お尋ね者じゃねーよ!
「そんなわけないだろ。普段は空を飛んでばっかりでな。だからたまにはこうして歩きたい気分になるのさ。」
「マジかよ……七等星のくせに? ろくに魔力感じねえぞ? そっちの姉ちゃんは大きめだけどよ……」
「だから道に詳しくねえってことか? それなら納得だがよ……」
「お前らよ……どこの冒険者だ? ここいらのモンじゃねえな?」
飛ぶって信じるのね。やっぱこいつらボンクラじゃないな。真っ当な冒険者だわ。アジャーニ公爵領にはこんな奴らがいるんだねぇ。とうとう核心を突く質問されちゃったし。
「クタナツだよ。フランティア辺境伯領のな。名前はカース・マーティン。」
アレクの紹介はしなくていっか。
「マジか……クタナツかよ……お前見た目通りの腕じゃねえだろ……」
「カースって名前……どっかで聞いたことねえか?」
「俺もだ……なーんか聞き覚えがあんだよな……」
クタナツと言って通じるのもまた嬉しいね。先人達が築き上げてきた金看板ってやつだ。
「あなた達、幸運ね。」
おっ? アレクどうした?
「どうした姉ちゃん?」
「かーっ! 信じらんねえほどきれーな顔してんよなあ」
「あー、いーい女だぜー」
「魔王の名前を知ってるかしら?」
おお、そうくるのか。
「ああ? 魔王だあ?」
「恐ろしいこと言うんじゃねえよ! 現れやがったらどうすんだよ!」
「魔王っつったら……クタナツの魔王カースだろ? ん? クタナツ……カース……んん? お前さっき名前なんつった?」
「俺か? カースだぞ? もちろんクタナツのな。」
ほれほれ。こんなにヒント出してんだぞ。そろそろ気付いてもいいんじゃないの?
「な、なあ、お前って昨日アレクサンドリアに居たか?」
「いたぞ。」
「な、何してたんだ?」
それは答えにくいなぁ。街を破壊しました、なんて言いにくいぞ。
「騎士長とお喋りしてたな。」
少しぼかしてみた。嘘じゃないし。
「はあぁ!? アレクサンドル騎士団の騎士長とかあ!? お前いったい何者なん、まさか!?」
「俺……分かった……」
「俺もだ……信じらんねえけどよ……」
おっ、気付いた? アレクがご機嫌な顔してるよ。
「信じるかどうかは知らんが、俺が魔王カースだよ。何ならギルドカード見るか?」
「マジかよ……ギルドカードは……見ねえ……」
「魔王ってこんな顔してんのかよ……」
「えらく普通じゃねえか……」
うるせぇな。
「信じるのか? 意外だな。」
こいつらと話してると意外なことだらけなんだよな。何で冒険者のくせにこんなにまともなんだよ。まるで楽園によくいる六等星たちみたいじゃん。
「信じるに決まってんだろ……落ち着いて見てみりゃその装備……魔王スタイルってやつだろ……」
「今でも真似する奴あ多いもんなあ……冒険者のくせにウエストコート着てる奴……」
「本物は素材からしてすげえそうじゃねえか……」
「おう。ドラゴンの革製だな。お洒落だろ? 見れば分かるがお揃いだぜ。」
今日のアレクは私と同じウエストコートにトラウザーズ。セーラム領にいる間はドレスが多かったが、やっぱ旅をするならこっちだよな。
「そ、そうかよ……」
「ドラゴンなんざ見たこともねえよ……」
「ぜってえ遭いたくねえ……」
「ムリーマ山脈を探せば見つかるかもな。」
「あなた達、自慢していいわよ。魔王カースとお喋りしながら楽しく歩いたって。」
アレクが得意顔してる。かわいいなぁ。
「お、おお、よく見りゃ白い狼だって連れてんしよ……」
「魔王の牙、だったか……」
「白い蛇もいるじゃねえか……早く気付けよ俺ら……」
「分かればいいのよ。よかったわね? 私に不埒な真似をしなくて。」
まったくだ。最初はいつものナンパかと思ったもんね。とっさに方針を変えたって可能性もあるけどさ。
「あ! こ、氷の女神かあ!」
「そ、そうだ! なんで気付かねえんだよおおお!」
「こんな所にいるなんて誰が思うかよ! マジかよ!」
面白い奴らだなぁ。楽しい道中になりそうだわ。こいつらがいるせいか、人通りはそこそこ多いのに誰も絡んでくる様子がないし。
アジャーニ公爵領か。少し興味が湧いたかな。




