267、カースの善行
うぅーん、昨夜はたくさん飲んだなぁ。あれから酔ったじいちゃんが歌い出したりアレクがバイオリンを弾いたりでかなり盛り上がったんだよな。誰かが空き樽を叩き始めると踊りが始まったりもしたし。いい夜だった。
さて、今日あたりもうセーラムを出発してもいい頃だな。じいちゃんから酒樽もたっぷり貰ったし。何樽あるんだろ。コーちゃんも大喜びだね。
出発するにあたって心残りがあるとすれば……
「おはようカース。起きてたのね。」
「おはよ。アレクは早かったんだね。」
「ええ。少しおばあ様達とお話ししてたの。そろそろお暇するかと思いますって。」
昨夜アレクとも話してたもんな。そろそろ行こうかって。
「うん。いい頃合いだよね。で、少し気になってるのが聖木なんだよね。効くかは分からないけど『成長促進』をかけてみるのはどうかな?」
「あっ! それいいわ! 今ならまだ聖木だって活力を失ってないはずだもの!」
そんなもんなのね。この間魔力を注いだばかりってこともあるんだろうね。思いついてよかった。
「じゃあさっそく行ってみようよ。」
これが本当の朝飯前ってね。
やって来ました聖木の前。現在は誰もいない。もう見張りはやめてしまったのか?
まあいいや。早速やってしまおう。丁寧に詠唱から……
『オーグンソー コーユータ リキショウジョウ シーインユイ シンジンワク ゼンボンワク 大地に根差す か弱き息吹よ 那由他の恵みを受け 往還廻の理を象どれ 成長促進』
ヒイズルで使った時と違うのは、魔法を満遍なく撒き散らすのではなく……聖木に触れて、直接流し込む!
さて……ヒイズルでイグサに施した時はすぐに伸びたが……変化ないな?
「カース、大丈夫? 気分悪くない?」
「うん。平気だよ。」
「本当に? 無理してない? だって……とんでもない魔力を感じたもの……」
あー、それはそうかも。だって全魔力の半分以上注ぎ込んだもん。残りは四割を切ってるし。
「そう? 少し張り切ったからかな。でも見た感じ変化はないし、もう少し待ってみようか。」
「そうね。カースがあれだけ魔力を込めたんだし何事もないわけないわよね。」
「僕もそう思うよ。まあ、のんびり待つとしようか。」
コーちゃんもカムイもいないことだし。アレクとイチャイチャしながら待つのも悪くないよね。
もうそろそろ昼か。日が高く昇ってきた。
「ね、ねぇカースぅ……そろそろ帰らない?」
アレクったら。イチャイチャだけじゃあ物足りなくなってきたようだな。まだ昼だってのに寝室に直行したいんだろ? 分かっているとも。私も同じ気持ちなんだから。
「そうだね。もう帰ろうか。後のことはおじい様やジャンポールさんに任せておけばいいよね。」
「そ、そうよね! 早く帰りたいわ!」
ん? 足音だ。誰か来たらしい。
「ちょっと待ってね。誰か来てるみたい。」
「んもぅ……」
別に無視して帰ってもいいんだけど、一応ね?
「ん? お前ら何やって……ま、魔王!? それにお嬢嬢様!?」
冒険者が二人。
「こんな時間に何の用だ? 見張りはもう必要ないのか?」
「あ、ああ。あ、いや少し違う。俺ら冒険者にも総動員がかかったもんでな。それが今朝解除されたもんだから元々の依頼であった聖木の見張りに来たわけだ」
「総動員? まさかアレクサンドリアに殴り込むための?」
冒険者を使うようなことじゃないと思うが……
「い、いや、攻められるかも知れないって話だった。いつでも動けるようギルドで待機させられたけどよ」
「あー……」
それなら納得。クタナツでも大襲撃が起こった時なんかには冒険者を守備に使ったりするもんな。
「お務めご苦労様。ついさっきカースが聖木に『成長促進』をかけたから、もし変化があったら報告してもらえるかしら?」
「は、はい!」
「わか、分かりましたあ!」
こいつらアレクには敬語使うのね。まあ、これで私達が待つ必要もなくなった。さっさと帰ってイチャイチャの続きといこう。
屋敷に到着。さっさと客室に戻りたいところだが、一応担当メイドに事情を説明しておこう。これで心置きなくイチャイチャできるってもんだ。
「ありがとうございます! そこまでご聖木のことを考えていただけるなんて!」
「気にしなくていいさ。少し疲れたから休むとするよ。夕方まで立ち入らないでくれよ?」
「はい! かしこまりました! ごゆっくり休まれてくださいね!」
ふふふ、きっと休めないとは思うがね。
メイドが部屋を出る。扉に閂をかける。アレクを寝室に引っ張りこむ。
さあ、悦楽の時間の始まりだ……
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