266、帰還セーラム
日が沈みきる前にセーラムに帰り着いた。途中でセーラム騎士団を発見することもなかった。
ベゼル男爵邸、小さな城壁の内部にはかがり火が煌々と焚かれていた。騎士も集まっているようだ。
「今戻ったぞお!」
「お館様! よくぞご無事でお戻りなされました!」
「お館様! ご無事で何よりですぞ!」
「うおおおお! お館様あ!」
騎士達が群がってくる。やっぱじいちゃんは人気者だね。
「カース、おかえりなさい。」
「ただいま。終わったよ。」
「うふふ。さすがカースね。あっさり帰ってくると思ってたわ。だから騎士団の出動を待ってもらってたの。それにこの時間では動きにくいし。」
「さすがアレクだね。いい判断だよ。」
ふふっ。アレクったら。すぐ行く、絶対行くとか言ってたのに。あの後すぐ冷静になれたんだね。私とは大違いだ。偉いねぇ。
「よっしゃあお前らあ! 今夜は飲むぞお! ゲンザとサイドウの分までなあ! あいつらと魔王のおかげでワシらあ生きて帰れたんだからよお!」
「うおおおおお! お館様あ!」
「ゲンザ! サイドウ! よくやったあ!」
「魔王殿もありがとおお!」
二人死んだんだよな……しかも滅多刺しで。そんな状況なのに召喚魔法を使って手紙を届けた。決して魔法が得意でないであろう騎士が、だ。見事だよ……
酒が樽ごと運ばれてくる。私も飲もう。ガストンを捕まえられなかったのは残念だが縁があればまた会うだろう。あの野郎どんな顔してどこに逃げたんだろうな。ローランド王国は広いからどこにでも逃げられるよな。さすがに国外に出るってことはないだろうけど……ないよな? 王都から南の大陸やヒイズルに行こうと思えば行けるけど……
かなり荒稼ぎしたことを考えると国外に出る可能性は低いはずだ。南の大陸ではどうだか知らないがヒイズルで両替なんかできないはずだよな?
他にあり得ることは……金をたっぷり貯め込んだなら使いたくならないか? だったら行き先は……王都か? なんだかんだで国内で遊ぼうと思えば王都が一番だよな? 人口だってぶっちぎりで多いもんな。当然そうそう見つからないだろうし。あれ? もしかしてマジで王都に逃げ込んだ?
「カース、飲みましょうよ。疲れたでしょう?」
「ありがと。そんなに疲れてはないよ。お腹はすいてるけどね。」
「さすがカースね。それで、アレクサンドリアはどの程度破壊してきたの?」
もうアレクったら。昨日の夕食は何だったのって程度のトーンなんだから。
「体感で二割程度かな。色々あって全域を更地にするのは勘弁しておいたよ。というのがさ……」
じいちゃんの言動を説明しておこう。ついでにガストンやモーガンのことも。
「そうだったのね。おじい様がそうおっしゃるなら仕方無いわよね。それにしてもおじい様を公爵にだなんてカースったら最高ね。」
「へへ、そう? だってガストンごときにいいようにやられるなんてさ、アレクサンドル家に公爵たる資格なんてないよね。」
たかが盗賊上がりなんかに遅れをとるなんてアレクサンドル家は公爵四天王の中でも最弱。公爵四天王の面汚しってか。まあ四天王じゃなくてクワトロAだけどさ。
「それはそうね。特にアルメネスト様ご本人が人質にとられて膝を屈しただなんて他の貴族にバレたら死ぬまで笑われてしまうわ。」
「だよね。特にアジャーニ家に知られた日にはもう宮廷に顔出せなくなるよね。」
うーんアジャーニ家か……今回の件で得する奴がいるとすればガストン以外ではアジャーニ家か。邪魔なアレクサンドル家が勝手に凋落していくわけだしな。とられた領地をとり返すどころじゃない、上手くやればアレクサンドル公爵領全域をゲットできたりするんじゃないの?
うーん、いかんな。さっきから妙なことばっか考えてしまうな。私には関係ないことだってのに。
「アレク、おじい様の無事に乾杯。」
「ええ、カースの無事に乾杯。」
「ピュンピュイ」
飲もう。難しいことなんか考えずに。
じいちゃん達は一見盛り上がっているようだが、肝心のじいちゃんにいまいち元気がないように見える。普段の傍若無人なまでの威勢のよさが三割減って感じ? 亡くなった二人にも家族がいるだろうしなぁ……領主は辛いね。
「魔王さん、今回はありがとう。父上の蛮行に付き合わせてしまったね。」
二男のジャンピエールさんか。この人も父親があんな感じで苦労してるんだろうか。
「いえ、大したことでは。それよりアレクサンドル家には気をつけておいてくださいね。もしかしたら自暴自棄になってとんでもないことをするかも知れませんので。」
さすがにないとは思うが。でも追い詰められた人間は何をするか分からないって言うしね。
「アレクサンドル家の自暴自棄かい……想像したくもないね。参ったね。今回の一連の事件で得するのは一体どこの誰なのやら。やれやれだね。」
「わけが分かりませんよね。ガストン以外に黒幕がいるのかいないのか。」
このおじさんは頭脳派っぽいし私が考えなくても大丈夫と見たね。
「いよいよとなったら魔王さんに頼らせてもらうよ。もちろん報酬は弾むしね。」
「ええ。タイミング次第では受けることも可能かと。」
「はは、やっぱり甘くないね。それでも今回はありがとう。もうすぐ料理もできるから楽しんでくれると嬉しいよ。」
「ええ、いただきますね。」
さすがにセーラムの次期領主。よく分かってるじゃないの。私を当てにしたってダメな時はダメなんだからさ。
「アレックスちゃんが来てくれたおかげでもあるね。まったく姉上もすごい子を生んだものだよ。」
「たまたまですわ。母上は叔父様がいればセーラム領は安心だと言ってましたけど、私もそう思いましたわ。」
「はは、昔から姉上に褒められたことなんかなかったけど。それが本当だとすると嬉しいね。」
ジャンポールさんと歓談しつつ領都アレクサンドリアでの出来事を説明しておこう。後でじいちゃんからも聞くだろうけど一応ね。
おっ、料理が来た。今夜もご馳走だな。食べよう食べよう酒も飲もう。




