265、さらば領都アレクサンドリア
おっ、いたいた。今となっては城門とは名ばかりの瓦礫広場だけど。
ん? アレクサンドリアの騎士に囲まれてるのか?
「おじい様お待たせしました。何かありましたか?」
騎士達が一斉にこちらを振り向く。
「こ、こいつだぁ!」
「で、出たあ!」
「こいつが魔王だあ!」
今さら何言ってんだ? 囲んでるだけでじいちゃん達に危害は加えてなかったようだが……
「俺らはもう帰るだけだぞ? それでもやるってのか?」
「ふざけるな! これだけ我らの街を破壊しておいて! 帰るだけだと!?」
「どうあっても許せん! 歴史ある領都アレクサンドリアを何だと思っておるのか!」
「かくなる上は! 敵わぬまでも!」
マジかよ……懲りないなぁ。まだ分からないのか?
「いい加減にしろやあ! 何回言えば分かるんかお前らあ! お前らが今やることは何かあ! お前らの領民が困ってんだろおがあ! こんなとこで遊んでねえで助けに行けやあ!」
おお、じいちゃんが吠えた。
「くっ……だ、だが……」
「我らにも意地が……」
「騎士の名誉が……」
「領民は宝だろうがあ! それが分からんで何が騎士かあ! さっさと行かねえとぶん殴るぞおらあ!」
もう殴ってるじゃん。
それにしても、つくづくこのじいちゃんは領民思いの貴族だねぇ。偉いなぁ。
「くっ……この場は引いておく……」
「我らとて領民を思う気持ちは同じ……」
「だがこの恨みは忘れぬぞ……」
「お前ら一応言っておくけどな。仕返ししたかったら俺にしろよ? 少しでもセーラムに手を出してみろ。今度こそアレクサンドリア全域を更地にしてやんぞ?」
魔力を無駄に垂れ流しながら言う。ほぉら、寒気がしてきたろ?
「くっ……」
「きさっ……」
「ぬぅ……」
二十数人いた騎士はこちらを睨みながらもしぶしぶと去っていった。ふっ。今回はじいちゃんに免じて許してやったってことをまだ知らないんだろうな。後で騎士長からじっくり聞いておけってんだ。お前らは勘弁してもらった立場なんだよ。そこんところを弁えておけよ?
「文句があったらクタナツに来い。受けて立つからよ。」
おっと、その時に私がいるかどうかは知らんがね。それにこいつらじゃあクタナツに来るまでに盗賊とか魔物に襲われて死ぬだけなんじゃないかな。着いても同じだけどさ。
「じゃ、おじい様。帰りましょうか。アレクが心配してますよ。」
「おお…… さっさと帰るぞお!」
また何かぼそっと言ってやがる。聴こえなかったけど。
『氷壁』
「乗ってください。もうすぐ日没なんですから。途中で野宿なんて嫌ですよ。」
「お、おお……」
『快眠』
「馬が暴れると危ないので寝かせておきますね。」
「おお……」
馬が二匹。来る時は六匹いたはずなのに、悲しくなるじゃないか。
『浮身』
『風操』
さて、帰るとするか。アレクの待つセーラムへと。
「あ、おじい様。一応下を見ておいてくださいね。アレクがセーラム騎士団を率いて進軍してるかも知れませんので。」
「おお……それにしてもアレクサンドル領はどうなるんやらなあ……」
「おじい様が公爵になって全ての領民を救ってやれば解決じゃないですか?」
もうアレクサンドル家は終わりだろ。じいちゃん的には当代のアルメネストはそこそこやるらしいけどさ。所詮はそこそこだろ。
辺境伯が言ってたよなぁ。広大な辺境伯領を治めるのに、辺境伯に必要な資質は『意地』だってさぁ。果たしてアルメネストにその意地があるのかどうか、私には疑わしいんだよね。単に先代の長男だからって跡を継いだけなんじゃないの?
あ、そうなるとダミアンの兄貴と仲がいいって言う奴。アルメネストの二男なんだよな? 長男は何してんだ?
まいっか。
「ワシが公爵ざなんざ無理に決まってんだろおが。まったくよお……」
さっきは少しだけ乗り気だったと思うが。色々あって落ち着いてしまったのか?
「僕としてはどっちでもいいですけど。でも今回のアレクサンドル家の大失態は取り返しがつかない程だと思いますよ。そうなるとアジャーニ家なんかが嬉々として領地を奪い返しに来るんじゃないですか?」
奪い返すどころか多めにゲットしたいだろうしね。具体的には南側のボルドラとか欲しいんじゃないの?
「知るかあ。来たらやるだけだろお?」
「それもそうですね。おじい様の手腕に期待してますね!」
「そんなこたあジャンポールに言えやあ。うちもそろそろ代替わりせんとなあ……」
あらま。そんなこと考えてたのね。騎士をぶん殴るほど元気なのに。大抵の貴族は死んでから代替わりなんだけどね。でも国王が自らそうでないことを示しまくってるしね。みんな自由だわー。




