11話
家族が負の方向に変わっていく様を見ながら、何もできないのは辛いだろう。俺としても、美雪ちゃんのお母さんには世話になった記憶があるし、何とか手助けしてあげたいが。
俺は横目で千代田さんの顔を見ると、もどかしいというような表情を浮かべていた。
「とにかく、直接会ってみないと何とも言えないわね。でも、貴女のお母さんが協力してくれないと除霊は出来ないわ。そこはどうかしら」
「協力というのは、具体的にどういう感じでしょうか……?」
「別に心の中で何か念じていなければダメ、というわけではないわ。単に私が除霊の儀式を行っている間……15分くらいかしら、黙って動かないようにして貰えれば」
そういや前の除霊もそうだったな。取り憑いている幽霊に対して千代田さんがほぼ物理攻撃を与えて倒すような形だった。だが、そもそも除霊の場に出てくれるかどうか。
「お母さんは幽霊の存在を信じてるってことで良いの?」
「はい。でも、降霊術で守護霊を降ろして貰ったと喜んでいたので、除霊は嫌がるかもしれないです」
俺の質問に答える美雪ちゃんは、不安げな顔色だった。何とか守ってあげないと、と思いつつ俺に出来る事なんてほぼないのだが。
「千代田さん、どうしましょうか。取り合えず会ってみるとして……」
「そうね。幽霊が取り憑いていた場合、やらなければいけないことは2つよ」
1つ目は、除霊に対する抵抗を無くすこと。
2つ目は、そもそもの原因である、反抗期との弟の和解。また会合に出向いて霊を降ろされたんじゃ溜まったもんじゃない。
「どっちも難しそうですね」
1つ目はまぁ、最悪騙してやるしかないとしても……。2つ目は、同じ男として少しわかるけれど、なかなか難しい。今中学3年生だったか、高校受験が終わるまであと1年くらいは厳しいんじゃないか?
「ちなみに反抗期の理由なんですけど、失恋絡みでして」
「失恋?」
中学生にはまだ早いよ恋愛は。しゃあないしゃあない、人は失恋で成長するものさ。受け入れようよ。
「実はそれをお母さんが少し揶揄っちゃって。お母さんは励ますつもりだったらしいんですけど、そこからもう弟は一切口を利かなくなってしまったんですよね」
一瞬、お母さんの味方をしようとしたが、流石にそれは可哀そうすぎる。そんなことされたら反抗期も天元突破だろう。俺でもグレるね。橋本みたいに二次元至上主義になるかもしれない。
確かにそんな家族関係を改善しようとして姉や父が何か言っても、逆効果になる可能性は大だ。高校受験が終わって落ち着くまで待つという手もあるが、幽霊が憑いて1年も、となると今度は母親の体調が心配だ。ともするならば、俺や千代田さんといった外部の力が必要だろう。
「分かったわ。協力はするけれど、お母さんが『抵抗しないよう』にするのは霊山さん、貴女が何とかしてね。あとは、陽一くんだけど……」
「俺ですか?」
「最初ここに連れてくるのは難しいでしょうし、私一人で行くのも不安だし。けど幼馴染とは言え男の人を連れてくのもね」
そうか、いくら昔に会ったことがあるとはいえ、美雪ちゃんが家に男を連れてくる、というのを美雪ちゃんのお母さんがどう思うかという不安要素がある。弟君としても、自分は失恋してるのに姉は、と良い気分にはならないだろう。
それについては、美雪ちゃんも何となく察しがついているようだ。
「でも私に良い考えがあるわ! 準備がちょっと必要だけど」
だが千代田さんの頭の中には秘策があるらしい。残念ながらこの場で教えてはもらえず、美雪ちゃんの家に行く当日に秘策を披露するようだ。内容は気になるが、千代田さんに任せておけば問題ないだろう。妙案を思いつき上機嫌なところを邪魔するのも気が引ける。
千代田さんと美雪ちゃんのわだかまりも解けたのか、連絡先を交換して笑顔を浮かべている。俺も貰っておこうかな。
「そう言えば、霊山さんは幽霊が見えたりするのかしら?」
「いえ、私は見たことはありません。霊感が無いわけではないと思うんですが」
「見えてなくても、霊の存在や除霊のことは信じているのね」
俺が携帯の画面をまじまじ見つめている間にも、2人は談笑している。よかったよかった。
「はい。子供の頃から、陽一さんが幽霊が見えると言っていたので。……私は疑ってません」
「へぇ~。それは良かったわね」
なんかちょっと暗くなったな。そろそろこのビルも閉館時間か。
美雪ちゃんはそろそろ帰る時間だと言って、そそくさと去っていってしまった。




