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10話

「ってなことがありまして」


 翌々日、大学は休日だったが除霊の仕事のために駅ビルへと赴き、準備作業の中で千代田さんに件の話を話す。

 茶化して言ったので、てっきり笑ってくれると思ったのだが、思った反応とは異なった。


「よく頑張ったわね」

 

 全てを慈愛で包むような笑顔が映る。女神か何かか。頭とか撫でてくれないかな。


「結局、除霊って儀式の場に連れ出すまでが勝負なのよ。連れ出してしまえばあとはもうウィニングランね。……中には私の手に負えない幽霊もいるけど」


 あの幽霊を拳で殴るやつか。もし幽霊に悪意が無いのであれば、少し同情してしまう。


「幽霊なんて、普通の人には見えないですもんね。道端で憑かれている人を誘っても、新興宗教かマルチの勧誘と思われるのがオチですかね」

「そうねぇ、幽霊の存在を何とか科学的に証明できないか、って今の学科を選んだのだけど……」

「えっ」


 まさか、入試前にそこまで考えていたとは。学年が1個違うだけでなく、高校の時点で2歩も3歩も先を行っていたのか。俺なんか就職率と就職先の給与といった分かりやすい数字しか見てなかったのに。

 ……いや俺だけじゃないな、柳生もそうだった。あとどうせ橋本もそうに違いない。それが普通というもんだ。


「残念ながら、まだ糸口すら見つからないわね。学部生のうちなんてそんなものでしょうけど」


 はぁ~、と互いにため息を吐き、机を拭く。

「考えても仕方ないわね。そう言えば今日、柳生くんのお友達が来ると言ってたわね」

「ですね。と言っても数回話したくらいの人らしいですけど」

「ま、会ってみれば分かるでしょう!」


 一体、どんな人が来るのやら。そう言えば名前も性別も聞いていなかった。いや別に、性別なんてどっちでもいいけど。

 千代田さんと談笑していると、仕切りであるパーテーションをノックする音が届く。


「来たみたいね」


 そうして入ってきたのは———。


 銀色のショートボブで薄い眼鏡をかけ、スッとした目の形とえくぼが特徴的な美少女。身長は千代田さんより一回り小さく150㎝くらいだろうか。千代田さんの様な快活なタイプとはまた違う、可愛げな雰囲気を纏った美少女だ。

 いや、それよりもこの髪色、そして微かに青みがかった瞳。当時とはまた違った印象を受けるけれど……。


「初めまして、霊山美雪と言います。よろしくお願いします」


 千代田さんと挨拶を交わした後、顔がこちらに向く。


「お久しぶりです。覚えてますか、陽一さん」

「うん、覚えてるよ美雪ちゃん。久しぶり……」


 小学校の頃(頭の中で)デートしていたとのたまっていたミユキちゃんだ。確か、小学生の時に転校してしまったと記憶しているが、こんなところで再会するとは。


 それにしても、どうやら美雪ちゃんは俺がここに居ると知っていたようだ。柳生の奴、知っていて黙ってたな。あいつは小学校が違うから、元々面識がなかったはずなのに。

 小学校時代から可愛かったが、大学生になってとても奇麗になっている。けど、どうして敬語を……?


「なんだか、仲が良さそうね。知り合いだったのかしら?」

「はい、小学校の頃近所に住んでて、頼りになるお兄さん、みたいな感じで……。小学校の途中で引っ越して以来、ですけど」

 

 あっそうか。よくよく思い出したら学年が一つ違ったな。どうりで教室での思い出がないわけだ。


「そう。良かったじゃない? 今はタメになれたみたいだし」

「そ、そうですね……」


 俺が思い出に耽っている間に、何故だか千代田さんと美雪ちゃんはちょっぴり険悪ムード……というか美雪ちゃんが千代田さんに叱られてるような空気になってる気がするが。まぁ、昔話に1人だけ話に入れないのは面白くないか。


「美雪ちゃん、依頼があるんじゃなかったっけ?」

「あ、そうでした!」


 無理やりにでも話を戻して、この雰囲気を落ち着かせる。ちらと横を見ると、千代田さんも直ぐに仕事モードへ移ったみたいだ。


 しかし……両手の花というのはこういう状況のことなのだろうか。前にうなじが癖だといったが、眼鏡っ子も好きだ。というか、美雪ちゃんは小学校の頃から眼鏡をかけていたが、美雪ちゃんが可愛かったから眼鏡っ子が好きになったのか、眼鏡っ子が好きだから美雪ちゃんをより可愛いと思ったのか、卵が先か鶏が先か論争に一石を投じる問題なわけだが……。


「ちょっと、聞いてる? 陽一くん」

「え? も、もちろん聞いてますとも」

「それなら良いけど。何だか霊山さんを見てぼんやりしてる感じだったから」


 そう言って、千代田さんは少し怒ったようにぷくっとほほを膨らませる。くっ可愛。


 だが当然、話にはちゃんと耳を傾けている。依頼の内容としては、どうやら母親に幽霊が取り憑いてしまったらしい。美雪ちゃんの4つ下である弟が反抗期を迎え、母親がその対応に疲弊している中、変な会合に誘われたという。

 その会合に何度か顔を出すにつれ、単なる疲れとは思えない心身の変化が現れている、とのことだ。そして、その会合の話をそれとなく聞いてみると……。


「……『降霊術』ねぇ。そう言えば、前ここに来たお客さんも同じことを言っていたわね。その人自身ではなく同僚が、って話だから本当に霊が取り憑いているのかは分からないけれど」


 断定はできないが、と千代田さんは言うものの。十中八九、取り憑かれているだろうとでも言いたげに美雪ちゃんを見つめる。

 それは俺にも分かっていた。美雪ちゃん自身には幽霊が取り憑いている訳ではないものの、霊の『残滓』の様なものが、微かに見える。


「見るからにお母さんは体調が崩れていってるんですが、元気だけは増しているんです。ただその元気もどこか無理しているような気がして……。お父さんが心配して病院に連れて行って薬も貰ったんですが、変化はないし、何なら薬を飲むのも止めちゃうしで。そんな中、友人からここの除霊について伺ったんです」


 そう言って、美雪ちゃんは俯きながら声を絞り出した。

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