アルフレートの決断
アルフレートside
まもなく満月の訪れる日の深更、アルフレートはひとり、窓辺に立っていた。
月光は冷たく、執務室の床に細い影を落としている。
机の上には、セレスティーヌに関する報告書が積み上がっていた。
彼女を断罪するには十分すぎるほど証拠たち。
ページをめくる指先が小さく震えた。
「……セレスティーヌ」
名を呼ぶだけで、胸が痛む。
愛しい婚約者。君を信じたい。ずっと守りたかった。
幼い頃は、少しのことで泣いてしまう泣き虫だった。
それでも人一倍努力を重ねる淑女だった。
あの頃の君を知っているからこそ、信じたかった。
たとえ何があっても、君の手を離したくなかった。
だが、積み重なった事実は、彼の願いを容赦なく削っていく。
夜会で見た、あの高慢な笑み。
他国の商人貴族に寄り添う姿。
リリアーヌへ向けられた、あまりにも露骨な敵意。
信じたい。
それでも、信じきれない。
守りたかった。
けれど、今の彼にはもう、何を守っているのかすら分からなくなっていた。
「……もう、決断しなければならない」
王太子として、未来の王として、これ以上曖昧なままにはできない。
彼女を信じたい気持ちは今もある。だが同時に、彼女と共に歩むのは許されないだろうという、事実だった。
アルフレートは、机の上の婚約破棄の書類へゆっくりと手を伸ばした。
「セレスティーヌ、愛しい婚約者」
かすれた声が、静かな部屋に落ちる。
「君を信じたかった。ずっと守りたかった」
そして彼は、震える指で署名をした。




