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第9章

 UAVの観測データに、かなり高速で村外から近づく一団が観測された。

「何か動物に騎乗した一団ですね」とUAVを操作している兵士が言った。

「馬でもいるのだろうか?」

 その一団はすぐに、怪物達の包囲陣に辿り着き、そこで止まると、しばらくそこに止まり、数人が集まり何かしている様子がUAVの映像から確認できだ。

「UAVの燃料は?」

「あと10分ですね」

「5分経ったら、着陸させて燃料補給してくれ」

「燃料補給中は小型UAVに切り替えて、あの一団だけ監視してくれ」

「了解」

「ブラボー偵察に2名出せるか?」とデイヴィッドは無線に問うた。

「慣れたやつがちょうどいる、そいつらをだす。観測位置は?」

「こちらから南東の敵包囲陣。新たに合流した一団がいる。それがどんな奴らか確認したい。無理に包囲は抜かなくていい。遠目からでも映像を送れれば良い」

「了解、派遣する」


 怪物達に新たな一団が加わったおかげで、しばらく戦闘は行われていなかった。

 怪物達はじわじわと包囲を狭め、100mほどの距離まで詰めてきていた。

 戦闘で盾を持つ、割と小柄な怪物が、体全体を隠す縦の横から、チラチラとこちらの様子を伺っているのが見える。その度に、叱責を受けるような怒号と共に、おずおずと縦に隠れる怪物の姿を見て笑いそうになる。

 デイヴィッドたちは、建物の瓦礫や拠点防衛のために積まれた土嚢などに隠れて相手の様子を伺っていた。


 突然、南東の包囲が開放され、左右に分かれた怪物達の間を、件の騎乗した者達が並足でこちらに向かってきた。小型ドローンの映像では、姿かたちも人間に似ているような鎧を着た者達だった。

 彼らは、4本足の動物(馬のようにも見えるが、軽装の鎧をつけているためわからない。)に跨り、中世の騎士のような姿で、悠々と旗をたなびかせこちらに向かってきた。武器は、腰の剣だけで、先頭の一人以外は、皆が旗をかざしていた。その旗には黒い鳥のような紋様が描かれていた。翼が円を描くように広げられ、足が3本書いてある。

 デイヴィッドはどこかで見たことあるような…と思いながら、その一団が近づいて来るのを遮蔽物の隙間から見ていた。


 20mくらい手前でその一団は停止し、リーダーであろう物が何か叫んだ。

 何を言っているのかは分からない。

「おそらくこちらに投降を促しているのだと思いますが、出ますか?」とデイヴィッドは隣にいるメイヤード少佐に聞いた。

「その方が良いだろう」

「俺が行きます」とデイヴィッド。

 デイヴィッドはライフルを頭上にかざし両手をあげて、前に出た。

 相手が激しく何かを言ってくるが、その意味は分からない。

 デイヴィッドは、ゆっくり動き、上空に向けてライフルを一発撃った。

 馬のような動物が一瞬暴れそうになったが、すぐに騎士達はコントロールを取り戻し、平静を装う。

 デイヴィッドはもう一度、ライフルを頭上掲げて、それを手前に差し出し、ゆっくりと地面に置いた。

 そして数歩下がった。

 その所作を騎士は鎧の奥に光る目で見つめていた。


 騎士は1分ほどデイヴィッドを見つめ、二言三言、仲間と会話したのち、馬のような動物から降りた。

 そしてデイヴィッドに近づいた。

 騎士はデイヴィッドが置いたライフルを拾うと、繁々とそれを眺め、それをデイヴィッドに渡した。

 わざわざ武装解除したのに、その武器を返す意味が分からず、デイヴィッドは戸惑いながら受け取った。

 騎士が何かを話しながら、兜を脱いだ。

 その顔は人間そっくりだった。黒髪で、肌はやたらと白い、細面で、鼻は低く、目はアーモンド形でやや吊り上がっている。瞳がやや大きく茶色というかオレンジ色に近いかもしれない。唇は薄く横に長い。全体的なイメージは、西洋人というより東アジア人に近いかもしれない。身長は5フィート5、6インチ前後だろう。

 ただ人間と言うには、なぜか違和感がある。

 騎士は兜を脱ぐとそれを左脇に抱え、右手を胸元にやって、こちらにお辞儀をした。

 その手の指は3本に分かれていた。バルカン人が挨拶する時のような指だ。手甲がそういう作りなのか、なかの指がそんな形なのかは分からない。

 デイヴィッドも右手を胸にやりお辞儀した。

 何やら騎士が話しかけるが何を言っているか分からない。

 騎士は困ったような顔をして、胸をポンポンと叩いて。

「ワ タークスハーヤ スーサ」と言う感じのことを言ったと思う。

 多分それが名なのだろう。

「スーサ?」とデイヴィッド。

 一瞬、周りの騎乗した騎士達が、腰の剣に手をやり警戒した。

 正面にいる騎士が右手をあげ、他の騎士達を宥める。

 騎士は、右手で胸を叩いて頷きながら「スーサ」といった。

 やはり彼?の名前らしい。

 デイヴィッドも彼を真似て、右手で胸をポンポンと叩き「デイヴィッド」と言った。

「ダイビエド?」

 デイヴィッドは頷き「デイヴィッド」と繰り返す。

「ダイイビイード」と騎士。どうも発音が安定しないが、気にせずデイヴィッドは頷いた。

 デイヴィッドは右手を差し出し、握手の構えをしたが、相手は首を傾げて動かない。一瞬して、挨拶のポーズだと思ったのか相手も右手を出してきたが、デイヴィッドの手は取らなかった。

 デイヴィッドは差し出された、右手を掴み「nice to meet you」と笑顔で言った。

 騎士は口真似しようとしたが諦めて、とりあえずニコリと笑った。


 一通り挨拶の儀式が終わったので、デイヴィッドは皆に武器を頭上に掲げ立ち上がるように言った。そしてゆっくり地面に武器を置くように指示した。

 その様子を見てスーサは満足そうに頷いた。

 デイヴィッドは自分の後ろに皆整列するように言った。ゆっくりと慎重に行動するようにと。


 騎士は、それに倣って、騎兵を騎乗のまま整列させた。

 さてここからが問題だ。

 言葉が通じないのにどうやって交渉する?デイヴィッドそう考えながらスーサを見た。

 相手も考えていることは同じようで、スーサが味方に何かしら声をかけた。

 小間使いのような、軍装ではないゴブリンのような怪物が、忙しなく何かを持ってきた。

 椅子とテーブルだった。

 それに座るように、スーサがデイヴィッドを促した。

「何かあったらいつでも逃げられるようにしておけ」とデイヴィッドは無線につぶやいた。

 後ろの皆が緊張しているのが伝わってくる。

 スーサは笑顔で対応しているが、それが自分たちと同じ意味の笑顔とは限らない。

 デイヴィッドは、ヘルメットを脱ぎ椅子に座ると向かいの椅子にスーサが座った。

 小間使い達が忙しなく行き交いおそらくお茶だろう、テーブルにティーセットのようなものが置かれていった。

 カップではなくゴブレットのようなものだ。それを優雅にスーサが手に取りひと口飲んだ。

 そして、デイヴィッドにも飲むようにジェスチャーする。

 デイヴィッドも「Thank you」と言ってひと口飲んだ。なにかの草を煮出した飲み物には違いない。やはり紅茶や緑茶に近い物だろう。熱くも冷たくもない。

 一時、向かい合ってお茶を飲んだ。

 見つめあったまま会話はない。

 しばらくして、スーサが手招きして何かを持って来させた。何やら大きな本のような物だった。A3用紙くらいの大きさだろうか?見開きでA2くらいになる。

 それに合わせてティーセットが忙しなく片付けられる。

 その本が開かれるとそこには何やら絵が書いてあった。

 スーサが絵の一つを指さす。

 そこにポータルのような絵が描かれていた。

 そこから出てきたような人とも何とも言えない黒いシルエットを指して、デイヴィッドを指差した。

 おそらく、自分たちのような事が前にもあったのだろうと推察する。

 デイヴィッドはスーサを見て頷いた。

 人間のような絵や今まで戦ってきた怪物達のような絵があった。

 スーサは、その絵を指して自分たちや後ろに控える、怪物の軍隊を指した。

 これが自分たちだという事だろう。

 次に町のような絵とそれにつながるクネクネした道のようなものを指して、スーサ達はそこから来たのだと言いたいようだ。何かしら喋りながら指差しているのだが、言葉が分からないので推察するしかない。

 ただ、時折、聞き慣れたように思える言葉が発せられることがある。

「アガ ターク・マ・ハール キタリル」

 指差した町?都市の名前だろうか?「ターク・マ・ハール?」デイヴィッドは繰り返した。

 スーサは頷いて「サぅ ナリ ターク・マ・ハール」と言って、それなりに話が通じているように感じて満足げだ。

 そしてデイヴィッドを指差し、ポータルから町までの道をなぞった。

 おそらく、この町に連れて行くという事なのだろう。待遇的に捕虜なのか客人なのかそれとも奴隷なのかは分からないが。

 とりあえず、彼らは、戦う事を放棄したデイヴィッド達を拘束することも、報復で傷つけることもなかった。

 あたりが少し暗くなり始めた頃、スーサが部隊に野営の準備を命令した。

 なぜ命令したと分かったか。彼の言葉の後に、多くの怪物達が、規律よく、それぞれの役割の行動を始めたからだ。

 それと同時に、デイヴィッド以外の兵士達にも飲み物が小間使い達によって配られていた。

 本のページを捲り、スーサは、テントなどが並ぶ野営の絵を指した。

 そして大勢で食事をしているような絵を指して、デイヴィッド以外の兵士たちも指した。

 デイヴィッド頷き「彼らと話をさせて欲しい」と身振り手振りを交えて言った。

 スーサは頷いて、行けという具合に手を振った。こう言ったジェスチャーは似ているなと思いながら、デイヴィッド後ろで、緊張が緩んで人心地ついている兵士達の下に歩み寄った。

「どうだ?」とメイヤード少佐が訊いてきた。

「我々の立場がどう言ったものかは分かりませんが、彼らは、我々を彼らの町へ連れて行こうと思っているようです。攻撃する気もないようです。とりあえずここで野営をするようです。おそらく、我々を夜宴に招こうと考えているようです」

「それであれば、こちらの食べ物も提供しよう」

「レーションは当たり外れがありますからね。大丈夫でしょうか?」

「支援部隊が残していった生鮮食品や冷凍食品がまだあるはずだ、それを振る舞えばいい。ドラックストアにあった酒なども振る舞おう。まあいずれにしても彼らの口に合うかわ分からないが」

「取り残されてパニックを起こす兵士もいるはずです、観察が必要でしょう」

「とりあえず兵皆を完全武装解除して、彼らに危害を加えないようにしなければ、つい先ほどまで戦っていた連中だ。姿かたちも異様であるし、恐怖は拭えないだろうからな」メイヤード少佐はそう言って、デイヴィットに力なく微笑んだ。


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