第10章
キャンプファイアを中心に、輪を作って、皆が思い思いに座り、スーサが何やら演説していた。
話の内容は、分からないがところどころふと聞き覚えのあるような音節が聞こえる。
それが自分の知っている言葉と同じ意味なのかは分からない。
デイヴィッド達が提供した解凍しただけの冷凍食品や酒に彼らはおおいに満足したようだった。
スーサはウィスキーのボトルを掴みながら、演説していた。
そして一通り話して満足したのか、デイヴィッドの隣に座り、ニコリと笑った。
炎に照らされた、その頬に唇から耳元にかけて何か薄く線が見えた。刺青かと思ったがそうではないようだ。
スーサは酒に酔っているのか、デイヴィッド肩を仕切に叩き何か話しかけてくる。
デイヴィッドが戸惑っていると、スーサはデイヴィット達が提供したウィスキーのボトルを眼前に突き出して飲めと勧めた。
それを受け取り、ひと口飲む。
それをスーサに返した。
スーサも一口飲む。スーサは、しわがれた大きな声で笑った。
スーサは、ウィスキーのアルコール度の高さに驚きながらも、呆れているようだった。お前らいつもこんなバカな飲み物を飲んでいるのかというような感じだ。
「トモヨ」と言って、皆にボトルを掲げ、再びスーサはウィスキーを口にした。
そしてまた大笑い。
それに合わせて、怪物達も大笑いしている。
地球で想像される多種多様な怪物がここにいた。彼らが夜宴を模様し、騒いでいる。その光景に、まるで自分たちが生贄にでもなったような錯覚を覚えどこの地獄だと思わないでもないが、取り残された兵士達も戸惑いながら愛想笑いしている。オークのような生き物と肩を組み酔っ払っているものもいる。デイヴィッドは、その兵士を尊敬しながら、しきりに何かを言ってくるスーサの方を見た。
ゆらめく炎のあかりに照らされて、スーサの首筋に何かキラキラと光るものを認めた。
何だろうと思っているとスーサは見つめる視線に気づいたらしく、長髪をかき揚げ触ってみろというふうにジェスチャーする。
近くいた小間使いが慌てて制止しようと動こうとしたが、スーサがそれを止めた。
デイヴィッドはスーサの首筋のキラキラ光っている部分を触って見た。
鱗だった。
触り心地は、日本で学校の子供達と遊んでいるときに、初めて触ったニホントカゲの腹のようだった。 硬い訳ではなく皮膚のように柔らかい。
デイヴィッドが驚いていると、それに気分をよくしたのか、次にスーサが取った行動にさらにデイヴィッドは驚いた。驚きすぎて椅子から滑り落ちてしまった。
スーサは、デイヴィッドに向いて、口を開けたのだ。
しかも顔の半分が大きく開くくらいに。
あの頬につながる薄い線は、口のラインだったのだ。
開けた大口は、デイヴィッドの頭を飲み込みそうなほどだった。
デイヴィッド隣に座っていたアッシュフォード大尉も珍しく女性らしい悲鳴をあげた。
皆がスーサとデイヴィッド見た。
一瞬どよめいたが、スーサがまた悪戯をしているのかという感じで、すぐに大笑いになった。
デイヴィッドは意味がわからなかった。一番人間らしい姿をしていたスーサさえも人類ではなかったショックに何も考えられず、ポカンとするだけだった。
口を戻したスーサが笑顔で、デイヴィッドに手を伸ばし、立ち上がるのを助けてくれた。そして何か言いながらデイヴィッドの肩を叩きながら、尻餅をついてしまったことを慰めてくれているようだった。その顔には悪戯そうな笑みが見える。普段は大口をあ開けなくても喋ることができるようだ。
色々考えれば違和感は多くあった。人間だと思って、気づいても無意識に見落としていたのかもしれない。
スーサが立ち上がって再び演説を始めた。怪物達の雰囲気を見ると何となく宴の締めに入ったのだと分かった。こういうところは人間とあまり変わりはないようだ。
小間使いが、酒の入ったカップを持ってきてスーサに渡した。
スーサがそれを受け取り、なにやら呟いて、カップの中の酒を一気飲みした。
そして、大きな声で何か叫ぶと、怪物達もそれに呼応して叫んだ。
それが宴の締めのようだ。
その後、騎士達や怪物達はそれぞれのテントに別れ始めた。
スーサが小間使い達に何かしら促すと、小間使たちは、デイヴィッド達を用意したテントに案内してくれた。
30人が悠に眠れる広さのテントだった。
テントは長方形の奥行きがあり、何かの皮を使ったようなテントで、軍で使っているものよりも品質が良さそうだった。
地面には毛織りのマットが敷いてあり、左右に分かれて寝具が置いてあった。
小間使いは身振り手振りで、おやすみくだいみたいな事を言った。
デイヴィッド達は、ありがとうと言いながら、テントの中に入っていった。
テントの中で、とりあえず落ち着くと、デイヴィッドと残された兵士たちは、膝を突き合わせて、今後どうするのかを話し合った。
おそらく明日以降、彼らの街に連れて行かれる事だろう。
あまりにも言葉が通じないため、どのような待遇を受けるか分からないが、今までのようすを見ると、 彼らは敵対する気は全くなさそうだった。
そもそも最初の戦闘が偶発的なものであったために、お互い誤解が生じてしまった。いやこちらが一方的に勘違いしてしまったのかもしれない。デイヴィッドはそう思い始めていた。
相手がとんでもなく寛容なお陰で、とりあえず皆生きていられるのだ。
「なんか数時間前まで、彼らと戦闘していたのが嘘のようですね」1人の兵士がいった。
言葉なく皆が頷く。
「おそらく明日は移動だろう。かなり歩くことになると思う。無理だとしても、できるだけ寝ておけ」とメイヤード少佐がいった。
「デイヴィッド、君はかなりあの指揮官に気に入られたようだな」
「スーサですか?厳格な騎士かと思いましたが、どちらかというと悪戯小僧的な感じですね。しかし、立ち振る舞いからかなり高貴な身分の者だと推察されます。おそらく王族的なものでしょう」
「言葉が全く通じないのがネックだな」
「そのことで気づいたことがあるんです」デイヴィッドは言った。「スーサが大口を開けたショックで、色々思い違いをしていたことがわかったのですが。そのついでに、頭にピンときたんです。どうも彼らの言葉に覚えがあるんですよ」
「どういうことだ?」
「単語のところどころに聞き覚えのある言葉が混じっているんです。微妙にアクセントや発音が違いますが、あれは日本語の一部だと思います」
デイヴィッドのその言葉に皆あっけに取られている。
「そんな事があるのか?」
「あの騎士達が登場したあたりから、何かしらの違和感を僕は感じたのですが、騎士達が掲げている旗の紋様にも覚えがあります。あれは日本の神社などにあるマークと一緒です。3本足のカラスです」
「日本のサッカーチーム…」と兵士の誰かがつぶやいた。
デイヴィッドは頷いた。
「おそらく、かつて同じようなな事があり、日本にポータルがつながっていたか何かで、文化の交流があったのかもしれません。それもかなり昔の出来事だと思われます」
「この中で日本語が分かる者は?」メイヤード少佐が言った。
3名手を挙げた、皆工兵だ。
「われわれはかつて日本に駐留しておりました」とその兵士の1人が言った。
3名は、長年の顔見知りのようだ。
「デイヴィッド。この3人とチームを組んで、彼らの言葉の分析をしてくれ、サポートにアッシュフォード大尉をつける」とメイヤード少佐。
五人は同時に「了解」と答えた。




