第11章
村とこの世界との境界ははっきりと分かれていた。
そして、すぐに大きな森と接していた。
村を出るとすぐにワイバーンの群れが襲ってきた。
やはり、ワイバーンは彼らと協調して、進行してきた訳ではなかったのだとわかった。彼らにとって害鳥のようだ。
威嚇して追い払ったり、矢で射ったりしているが、致命傷を与えれれず苦労しているようだった。
デイヴィッドは、大きな荷車に3台に分譲して輸送されていた。
歩きを覚悟していたが、どうやら、捕虜や奴隷といった類の対応でないことだけは分かった。
しかも、自分たちで武装解除したものの、すぐにライフルなどを返され、そのまま携行していた。
デイヴィッドは、怪物達がワイバーンに苦慮しているのを見かねて、ライフルで撃った。
見事に命中する。
それに呼応して兵士たちが、それぞれに狙いを定め辺り飛び交っているワイバーンを撃ち落としていった。
見事に撃ち落とされていくワイバーンを見て、怪物達が歓声を上げていた。
昨日までは、このライフルの餌食になった仲間が沢山いるいるというのに、どういう神経をしているのだろうとデイヴィッドは恐ろしくなった。
しばらく森の狭い道を進んでいくと3時間ほどして平原に出た。
そこからは移動スピードが増していった。
自分たちからしたらずっと走っているような速度だ。徒歩であったなら彼らに追いつくことはできず、あっという間にへばっていただろう。
2時間ほどして、土舗装の大きな道に出た。
幅9mから10mと言ったところだろう。
道があるということは、都市間の流通もあるということだ。
そこからさらにスピードが上がる。
それでも街までは数日かかるようだった。
昼を過ぎ、午後三時(手元の時計の時間この世界の時間ではない)くらいになると全隊が停止し、野営の準備が始まった。
デイヴィッド達は何か手伝いたいが、言葉も通じず、テキパキと準備が整って行くので何もする事がなく、仕方ないので、周辺に危険な生き物が接近したときに対応できるよう、怪物達を守るように適度に展開していた。
それを満足そうに馬上(馬と言っていいのか未だに分からない)からスーサが見ていた。
スーサが隣にいた騎士と何やらコソコソと話している。
ひと通り、野営の準備が整うと、小間使い達がデイヴィッド達を昨日と同じテントに案内した。
外では昨日と同じく、怪物達の夜宴が始まっていた。
「怪物達の言語とスーサ達の言語は違うようですね」とアッシュフォードが言った。「共通語として、スーサ達の言葉を話しているようですが、怪物達はその言語を発音するのが苦手なようです」ここに来るまでの怪物達の様子を伺っていての感想だった。
「種族間での対立的なものもなさそうです。それぞれの役割を全うしているという感じでしょうか。まあ、これだけあからさまに姿形が違うななら、人間のように肌の色などで対立する気にもならないでしょうが」
「我々への干渉も少なく。ほぼ野放しっていうのはどういうことでしょう?」
「あくまでも客人ということだろう」
「あれだけ、一方的にこちらが殺しまくったにも関わらずですか?」
「死生観が我々とは全く違うということなのかもしれない」
「そこも極端に日本人みたいだな。大戦で、日本中無差別爆撃されて、原爆など落とされたのに、自分たちが反省しますって感じだしな」
「言葉については、日本語だろうと思われていたのですが、なかなか解読が難しいです。彼らの文字などが見られれば、言語学者が残していってくれたデータベースと照合ができそうですが。おそらく、かなり発音やイントネーションが違うので、方言的というよりも全く違う言語ということもあります」
「日本の中でも方言は外国語並みに違ったりしていたからなあ」
「まあ、焦る必要もない。この行軍で得られる情報もそんなにないだろうからな。彼らの街についてからが本番になると思う。そのための予行演習だと思えばいいさ。科学チームが残していったPCのデーターベースが命だ。ソーラー発電器やバッテーリーのチェックは適宜行なってくれ」
「了解」
お互いの情報共有が進む中、小間使い達がきて、彼らはまた夜宴に呼ばれていった。
「スーサ達、騎士を見ていて思い出したのですが」と夜宴で騒いでいる怪物達を見ながら1人の兵士が言った。
「何を?」と何の肉だかは分からない肉を頬張りながらデイヴィッド。
「えっと、何から説明すればいいか、僕はあの顔の感じ見たあ事があるんです。ただ、僕の記憶にあるものより完全に人間に近いのですが…」
「構わないよ、続けてくれ」
「ディノサウロイドに似ているようなきがするんです」
「ディノ…なに?」
「ディノサウロイドです。恐竜が絶滅せず進化したらどうなるかという仮説で、そのイメージされた形態に似ているような気がするのです。それに、他の怪物たちも……恐竜のような特徴があるような気がするんです」
「つまり彼らは、哺乳類ではないと?」
「そもそも哺乳類や恐竜といった分類がこの星で当てはまるかはわかりませんが、あの一等大きい怪物の足の作り、竜脚類のような感じです」
「竜脚類が何かわからないけど、詳しく調べたら、もしかしたら恐竜のような形態が見られるかもしれないということか」
「おそらく」
「それは、一つの仮説のして要調査だな。イが残していった解剖データなどの調査を頼めるか?」
「素人なので、期待に添えるかはわかりませんが」
「でも、恐竜には詳しんだろ?」
「子供の頃から、あの映画が好きでしたから」
「じゃあ十分だ」
デイヴィッド達は、科学チームが残していったバックアップデータをこの移動のために持ってきていた。あの地に残して野晒しで風雨や野生生物などに荒らされるといけないからだ。一週間ほどの短期間にしては、未だに分析しきれない膨大なデータが沢山あった。10cm立方の50TBほどの容量だが、それがいっぱいになるほどではないが。
今もデーター収集をしているので、この移動中など動画を撮ったりしているので、容量はすぐいっぱいになるかもしれない。
街につけば、そこで得られる情報量は、この移動で得られるものより莫大だろう。残された兵士達だけで収集するのは無理かもしれない。
それから数日、まさか山脈越えをするとは思っていなかった。
頂には冠雪もありその峠を縫って行軍は進む。
防寒対策をしていなかったデイヴィッドたちは、山脈を越える間、身を寄せ合うようにして寒さを凌いだ。
峠を抜けると広大な景色が広がっていた。
デイヴィッドがいた場所は山脈に囲まれた盆地だったようだ。
草原や丘が緩やかに続き、遥か遠くに海らしきものも見える。その海の近くに街というよりは都市といったほうが良い白い円形の都市があった。遠いので、実際の規模的なものは分からない。スナイパーのスコープで見ても、はっきりとその規模を確認することはできなかった。
そしてその都市の中心より海側の方に空に伸びる謎の建造物が聳えていた。
この位置からは、まるで天から伸びる糸のように見える。その空の端はぼやけて見えない。
「あれって、もしかして軌道エレベーターか?」と荷車に揺られながらスコープを覗き込んでいたメイヤード少佐。「思っていたより文明レベルが高いのか?」と呟いてデイヴィッドを見た。
デイヴィッドは肩をすくめた。
「とりあえずこの感じだと、あの都市に向かっているようですね。工程的にはあと一週間前後といったところでしょうか?」
「毎日宴会して走り続ける体力がある怪物達に感心しますね」
荷車に揺られて最初は、乗り物酔いしていた者達も慣れ始めていた。
日々目まぐるしく変わる状況に、兵士たちは、この世界に取り残された恐怖を忘れることができていた。
「言語分析が少しは進んだのですが、AIの解答的には大尉の言った通り、日本語の亜種だということです。ただ、現在の日本語より音が少ないようです。古日本語ではないかと回答が出ています。漢字を取り入れる前の日本語ではないかと……」
「であれば、我々に理解できるわけがないか」とデイヴィッド。「日本人がいたらわかるかもしれないのになあ」
「おそらく、文字があったとしても現在の日本語とはかけ離れたものでしょう」
「書物があれば見てみたいな。彼らが持っていた絵本に文字はなかったからなあ」
「鎧の意匠とかには文字含まれているかもしれませんが、解析は進んでいなかったようですね」
「情報が少なすぎるからな。そもそも文字という形態が我々の考えているものとは違う可能性もあるしな。例えば図形の形ではなく、線の結節点の数が単語になるとか」
「ないとは言えませんが、意思疎通の方法としては最悪ですね」と言ってアッシュフォード大尉がにこやかに笑った。
怪物達の歓声が上がった。
また誰かが獲物を仕留めたようだ。
この移動の間、怪物達は時折狩りをしていた。そして獲物が持ち帰られる度に歓声を上げていた。
今日は、あの獲物の肉が供されるのだろう。
猪に似た3m級の生き物が20数匹以上はいるだろうか?いや、もしかしたら50匹を超えているかもしれない。多量だ。彼らの狩りを見ていて気づいたが、食料となっている生き物は哺乳類と似通った生き物のようだった。
しかし、あの量もこの行軍中に数日で無くなる。
スーサが荷台の横に騎馬を並走させて、今日もたくさん飲むぞ的なジェスチャーをしてニコリと笑った。
イタズラっぽく、眼の瞬幕がパチパチ閉じたり開いたりしている。アジア系の顔立ちの割に眼がアーモンド型で大きく。まるでネコのようだが、爬虫類(もしくは恐竜類)から派生した知的生命である事は間違いなさそうではある。
都市まではあと1日の行程らしい。
都市を囲むようにある広い森の手前でキャンプ設営が始まっていた。
今日の夜宴で、デイヴィッド達は、ある推測の検証をしてみようと思っていた。かねてから時折り日本語のように聞こえるスーサ達の標準語?というのだろうか、それが本当に日本語に近いものなのか幾つかの単語を選んで話しかけてみようと思っていた。
その候補は、PCのデータベースから自分たちでも簡単に発音できるものに限って、メモに書いてポケットに忍ばせていた。
ゴブレットのような盃にスーサが地球人皆に酒を注いで言っていた。
最後にデイヴィッドの盃に注ぎスーサもグラス掲げた。
それが乾杯の合図のようで、怪物達はそれぞれに飲み食いを始めた。
いつものように、スーサがデイヴィッドの隣に座った。
デイヴィッドはスーサに盃を掲げ「乾杯」と日本語で言った。
スーサはキョトンとしてデイヴィッドを見た。いつもは「チアアーズ」と言っていたのに今日はどうしたのだろうという感じだ。
デイヴィッドも乾杯は中国語からの外来語らしいので通じるとは思っていなかった。
続けて「かたじけない、いただきます」とデイヴィッドは言った。
その言葉にスーサがピンときたのか「カタシーナシ?」と言った。
デイヴィッドにはスーサが発した言葉が同じ意味なのかは分からない。少なくても“いただきます“は通じなかったようだ。
スーサも何か仕切りデイヴィッドが話しかけてくるので訝しそうにしているが、時々、単語に反応していた。
そして何かに気づいたのか「アリ、ワーがーのコトノハウアー シらベラウ!」とスーサが全員に向かって叫んだ。そして酒を飲んでいつもの大笑い。
皆がまじまじとデイヴィッドを見ている。
見世物の動物になった気分だ。
「シラセ、シラセ」とシーサが言う。
もっと話せと言うことなのだろうとデイヴィッドは思った。
「こんばんは、わたしはデイヴィッドです」と立ち上がってデイヴィッドは日本語で言った。
怪物達はお互いに顔を見合わせ何を言っているのか当てようとしているようだ。
「イサヨイ アーがデヴィッド」小間使いをしている怪物が手を上げて言った。
「シタリ!」と皆が言う。
なんとなく通じているようだった。
そうしてるうちに、お互いの体の部分の言葉の紹介になった。スーサが目を指して「メ」と言った。
次に耳を指しって「ミー」と言った。
次々の指し示す身体の部位は、微妙に発音や単語が違ったが、基本的に日本語と同じだった。
連日の夜宴で、兵士たちも怪物達と和んだのか、一緒に踊ったりしている者もいる。
「ターク・マ・ハルにイタリば、シラス、シラヘをアテル、ココロタイラカセシ」とシーサが言ったが何のことかは分からなかった。
シラスというのが"話す"とか、"知らせる"と同じような意味だとは分かるが…。
それが、言葉を教える教師をつけるから安心してくれという意味だとわかったのは、数ヶ月後であった。
この都市への移動の間の会話はある程度、コンピュータに取り込んで分析していた。
次の日の移動からスーサとデイヴィッド達の面倒を見てくれる小間使い達が仕切りに話しかけてくれるようになった。デイヴィッド達が彼らの言葉を理解しようと頑張っていると思ってくれたようだ。
代わりにデイヴィッドは自分たちの言葉をスーサ達に教えて上げていた。
都市を囲うように広がる森を抜けると都市の城門があった。
日本のように、木造の都市かと思ったが、木材、草、石、土など多様なものが使用されて、どちらかというと、エジプトやシュメールの遺跡が健在ならこんな姿だったのではないかと思わせるような、都市である。ギリシャローマ的と言っても良いかもしれない。それをさらに近代的な技術を入れたらこんな感じになるのではないかと思う。
二十mほどの高さの城壁が都市を囲い、外敵から守っているようだ。
森が第一の防壁になり、さらにこの城壁で守っているといかんじだ。
幅広の街道が城門まで続き、その入り口をデイヴィッド達が“タイタン“と呼称した巨人が守っている。デイヴィットが日本文化に精通していれば、金剛力士像のようだと思ったろう。
予想もしていなかった巨大建築物にデイヴィッドは呆気にとられていた。
「やはり、文明度合いはかなり高いようだ」メイヤード少佐。
「かなり統率が取れた社会のようですね」とアッシュフォード大尉。
城門には扉はなく関所もなくて、中にすんなり入っていけた。
4列縦隊(タイタンは2列)で怪物達は進み、スーサ達の騎馬体が先頭である。
その騎馬隊の後をデイヴィッド達の荷車が付いていく。
通りにいた民衆は軍隊が進んでくると左右に道を開けるが、それぞれの作業をしたり、軍の行進を見たりしている。子供達が走って軍隊を追いかけたりしているが、かしこまってお辞儀をしているとかひれ伏している民衆はいない。
「タークスハーヤ」と子供達が叫んでいる。
それに応えるようにスーサが手を振る。
軍隊は、都市の南方の港近くの大広場に停止した。
そこに白装飾で頭に冠を付けた長髪のおそらく女性が同じような白装の巫女達を伴って立っていた。広場より数段高くなっているステージの上だ。
女性のつけている冠は、丸に放射のついた太陽をイメージしたようなものだった。子供向けの日本の歴史漫画などに出てくる卑弥呼が冠しているもののような装飾だ。
色白で、スーサと同じ種族なのだろう。顔立ちもスーサと似ている。
その立ち姿が美しく、白蛇を日本人がよくやるように擬人化したらこんな感じなのではなかと思わせるほど美しく神秘的な雰囲気を醸し出している。
軍隊はステージの前に並んだ。
デイヴィッド達も荷車を降り、小間使いに促されるままに並んだ。
軍隊が並び終えると、スーサが一歩前に出た。
「アガ アネイモよ タークスハーヤ スーサ ヨりキタリ」とスーサは胸に右手をお辞儀して当てて言った。
中央の冠を被った女性が頷いて「スコヤカでよし モリヲハナテ」といった。声も鈴が鳴るような美しさだ。
それを受けてスーサが軍隊に振り向いて何か叫んだ。
すると軍隊がそれぞれの方向に解散していった。
何が起きているのか分からないデイヴィッド達は呆気にとられている。
そこに残ったのは、スーサとデイヴィッド達、そして今までデイヴィット達の面倒を見てくれていた小間使いだけだった。
「そ マレナーモノター ヨリテ は」と冠を被った女性。
「アリ メヤド アリ ダイイビド」スーサがメイヤード少佐とデイヴィッドの名前をいった。
小間使いが前に出るように促した。
メイヤード少佐とデイヴィッドは一歩前に出てぎこちないお辞儀をした。
「アガ メイヤード」
「アガ デイヴィッド」
メイヤード少佐とデイヴィッドは言った。スーサ達との数日の会話で、アガというのが私という意味であるのが分かっていた。
スーサが誇らしそうに二人を見ている。
「シラセいるのか スーサ マレナーモノナー わ ソガミヨ」
「したり」とスーサがお辞儀する。
冠を被った女性が何かしらデイヴィッド達に話してきたが、何を言っているのかは分からなかった。最後に「タイラカセヨ」と言って冠を被った女性と巫女達は、大きな四足獣がひく、山車に乗ってどこか行ってしまった。
冠を被った女性とその従者達がいなくなると、民衆達が物珍しそうに遠巻きに、デイヴィッド達を見ていた。
海の方を見ると、言葉通り天まで届く巨大な建造物が聳えているのが見えた。もしかしたら、かなり沖合の海上にあるのかもしれない。
見つめていた先に気づいたのかスーサが「アミーノ・ミ・ハシラ」と言った。「カムヨノイニシリ ヨリ アリ」と続けた。
遠巻きに見ていた民衆達が、デイヴィッドたちに近づいてきて、ペタペタと身体を触っていく。見た目は似ているが、違う生き物に興味津々のようであった。
スーサが何か言って、民衆を退かせた。
しばらくすると新たな山車が広場にやってきた。四足獣も2匹繋いである。
小間使いが、その山車にデイヴィッド達を案内した。
中はゴザのようなものが敷かれており、草の匂い(日本家屋ではよく匂う畳の匂いに似ている。)がただよい。香も焚かれていた。よく考えたら、シャワーも浴びてないし、かなり臭うだろうなあとデイヴィッドは思ってアシュフォード大尉を見た。流石に軍人だから気にし、お互い様かと思いながら、彼女の手を引いて、山車に乗るための階段を上がった。




