第7章
デイヴィッドはアサルトライフルの残弾と予備弾倉の確認をした。
もう何度目の戦闘になるだろう、10回超えるあたりから、数えるのをやめた。
ミニガンが高温で停止したため、空からの襲撃にも気をつけなければならない。今まで倒した怪物の数はどのくらいになるんだろう。2個中隊分は優に超えているはずである。
いくら一方的な戦闘とはいえ、数で圧されれば持ちそうにない。
住民達の避難を優先させているため、武器弾薬の補給がうまくできていなかった。
二時間から三時間に一度は戦闘をする状況になって来ていた。
「これはいよいよ本気で撤退しないといけないな」デイヴィットはぽつりとつぶやいた。
住民の撤退は後4クールもすれば終わりのはずだ。そこかからは一気に全隊撤退になる予定ではあるが、流石に兵士たちの疲弊が激しい。敵性勢力の数も増えているため、いつ戦傷死者が出てもおかしくない状況だ。
その時無線から聞きたくない声が届いた。「ワンダウン。アルファ分隊、1人死亡」分隊長の声だった。
「アルファ退け、早く遺体をポータルを越えさせろ」と戦闘指揮官
戦闘は30分ほど続き、結局遺体はポータルを越えさせることができず、粒子となって消えていった。後に残ったのは服と装備とドッグタグだけだった。
戦死者が1人出るとチームの雰囲気は一気に変わる。
戦場で何度も見た光景だ。
ハンドグレネードを投げようとして、疲れからか、積まれた土嚢より上に一瞬身を晒してしまった。それが仇となり、胸に投擲槍が刺さって死亡したということだ。投げ損ねたハンドグレネードで負傷者も多数出ていた。
戦闘が続くと普段しないミスを犯すことが多くなる。
「やばいな」デイヴィッドは呟いた。胸の中で早く家族がポータルを超えてくれることを祈った。
デイヴィッドの家族は、避難者を支えながら、一番最後の組でポータルを超えることを決めていた。
父親は、かつて海軍の特殊部隊員だった、家にいることは少なかったが、「人に恥じるようなことをするな」が口癖だった。
母親は、任務で家にいないことが多い父親の愚痴を言いながらも、母親と父親の役割を背負い、子供を育てた。彼女が日本人とのハーフであったのもあって、デイヴィッドは子供の頃から日本に興味を持っていた。
妹は勝ちきな性格であり、誰に似たのか、男まさりと言うか、日本で言う姉御肌というか人の面倒見が良い真面目な性格だった。その容姿も相まって、学校ではファンが多かった。
今回の異変での住民の避難に際しても彼らが率先して誘導していたお陰で助かった命も多かったようだ。彼らの働きにより助かった知人やかつての同級生に会うたびに君の家族のおかげでと言われて、デイヴィッドは誇らしくもあり、照れくさい感情が混じって苦笑いを返すだけだった。
もうすぐ戦闘が終わるかと思った矢先、続け様にドドンと大きな地震が起きた。
地震の間隔が1時間切ってきた。
「まだ続くのか」と指揮官が呟いた。「迷っている暇はない、戦闘中でも構わない、住民達を順次ポータルを越えさせろ。全軍撤退用意」
牛馬顔の怪物達の侵攻は落ち着いてきたが、空からの襲撃は激しかった。
酷使しすぎたミニガンが全て止まり、ブローニングも弾が尽きていた。
防空任務を負っていた部隊は、アサルトライフルで応戦していた。地上より空を飛んでいる物に当てるのは難しい。「ショットガンが欲しいな」上空を狙いながら兵士が呟いた。「おい」と言ってもう1人の兵士が匍匐しながら、銃を渡した、ショットガンだった。「いいねえ。考えることは一緒か」と言ってお互いにやりと笑い、上空に向けてショットガンをぶっ放した。
翼竜のような怪物ワイバーンの羽や胴体に無数の穴が空き、力を失い墜落してゆく。
「イエス!! 弾はまだあるのか?」
「ケースの中に100発はあったから持って来てるぜ」
「さすが」
ショットガンが唸る独特の音を耳にしながら、レンジャー達は住民の左右を守るようにして、ポータルまで護衛していた。
「今のうちにどんどんポータルを越えろ、安全確認をしている余裕はない、後ろを見るな、急げ急げ」ブラボー班指揮官が退避する住民達に向けて叫んでいた。
残り200人近い住民が並んでポータルへ進んでいく。
ポータル手前で躊躇する者も多々いたが、その者達を兵士が笑顔で「大丈夫ですよ」と行って手を引いて、後押ししていた。
その時、一際大きな咆哮が響いた。
兵士たち皆がここに来て新手かよと思い、声の方を向く。
今までと全く大きさの違う怪物が50体ほど行進していた。それぞれ、5mから6mはあるだろう。それぞれに大斧や大戦槌を持っている。先頭には大楯を持った怪物が並んで行進しており守りを固めていた。怪物は全て倒していたはずだが、どこかに偵察しているものがいるのだろう。こちらの武器を分析して、進行してくるたびにその対策をとってくるが、流石に彼らの盾では、銃器の攻撃を防ぎ切ることはできないでいた。それでも、怪物達はあの手この手で対策して来ており、しだいに拠点防御陣地に肉薄して来ていた。
「なんだあれ、冗談じゃないぞ」
誰かが無線で「トロール接近 南東及び東幹線」と叫んだ。
その瞬間、その怪物の呼称はトロールになった。
「グスタフまだあるか?」戦闘指揮官がいった。
「10はあります」と誰かが答えた。
「拠点陣地、グスタフで固めろ」
「了解」
「前衛の兵は順次後退しポータルに集合」
科学者組は、地球に持ち帰るデータを格納していた。
そこかしこで銃撃音が響き、彼らが研究室に使っていたドラッグストアの建物も時をり、爆音で揺れた。
「いよいよ限界ってところね」ドニーがいった。
「結局、私は何も貢献できていないよ」とライオネル。「ベールの外はどうか分からないが、ここは地球と同じだから化学分析しても変わりはないし、常に誰かのお手伝いだった。兵士達が持ち帰った土壌の分析データに何かしらのきっかけがあればいいがなあ」
「分析機器が限られていたしね」
「てかレコンの人たちってよくこんな状況で戻って来られたわね。私だったら戻って来られる保証がないからベールなんて怖くて越えられないよ。しかも1日以上向こうにいたんでしょ?飲み食いどうしてたんだろう」とマギー。「しかも怪物達が。押し寄せる中を気づかれずに行き来するなんて、まるで忍者みたい」
「そういや未だに彼らの素顔見てなかったな」とライオネル。
「いつ見てもマスクしてるか、黒塗りしてるかどっちかだもんね。目だけが爛々としてて怖かった」
「彼らが持って帰ってきた、土壌サンプルや植物サンプルはそのまま地球に持ち込んでしまって良いのか?」イが聞いた。
「完全密閉していれば問題ないはずだ。密閉容器の表面は丁寧に消毒してくれよ。とりあえず、必要なものはケースに入れて、小型トラックに乗せてくれ、時が来たらそのままポータルに突っ込ませる」とメイヤード少佐。
ドラッグストアの入り口ではデイヴィッドが応戦していた。
「彼だけに任せてて大丈夫?」
「他の者が行けば足でまといになるだけさ。ここにいる兵士の誰よりも戦場慣れしている」とメイヤード少佐は、他の隊員を見た。
その視線に気づき皆が頷いた。
アッシュフォード大尉だけは手伝いに行きたそうにそわそわしている。
「心配なら行って来なよ」とマギーがアッシュフォード大尉を小突いた。
「梱包が終わったら手伝いに行くわ」とアッシュフォード大尉。「予備弾倉渡すくらいしかできないでしょうけど」
「少佐、そろそろ移動したほうがいい。兵が拠点に集まり始めているから、防衛力が薄くなって来ている」デイヴィッドが叫んだ。
「仕方ない。残りはまたここに来られることを祈って、置いていこう」とメイヤード少佐。「皆ミニトラックに乗ってくれ」
皆が乗ったのを確認すると、メイヤード少佐はミニトラックを発進させた。
その後ろをUGVが付いてくる。その上に、デイヴィッドとアッシュフォードが乗って周辺を警戒しアサルトライフルを構えている。
上空では無数のワイバーンが飛び交っている。ミニトラックを追いかけるように飛んでいる物もいて、すきあらば襲い掛かろうと構えている。
ポータルを囲んでいる拠点に着くと、すでにかなりの部隊が集合していた。
住民の避難は順調に進み、最終の組みが、最後の武器弾薬の補給を待って待機していた。
ポータルに怪物達が近づかないように威力射撃が続いていた。
ここに来て気づいたことだが、ワイバーンと地上の怪物は連携しているわけではなさそうだった。もし、連携しているなら、人数が限られている派遣部隊をあっという間に圧倒し、制圧していただろう。ともするとワイバーンは、地上の怪物達にも襲いかかっていた。
「なかなか混乱しているな」メイヤード少佐がつぶやいた。「住民の避難が終了したら、このトラックごとポータルを超えてくれ」とシン中尉とフセイン中尉に言った。「民間科学者組もトラックの後に続いて避難を。軍科学者は派遣部隊と連携しつつ撤退する」
科学者チームの皆が頷いた。
とりあえず戦闘はどうにか落ち着いた。
デイヴィッドは、避難住民の最終組の中にいる家族のもとに向かった。なぜかアッシュフォード大尉も付いてくる。
「ダッド」と言ってデイヴィッドは笑顔で父親の元に向かった。「銃撃ちたくてうずうずしているんじゃないか?」
「何を言う。俺はそんな無分別ではないぞ」と笑いながら父親はデイヴィッドをハグした。「向こうに戻っても家がないから不安ではあるがな」
「とりあえずは、軍が面倒見てくれると思うよ」
「戻ったら、また軍籍離脱するのか?」
「また日本に戻りたいからね。本来であれば、もう休暇も終わって、日本の学校で教師してるはずなんだ。軍がうまく連絡してくれてるといいけど。行方不明扱いになってないか不安だよ」
「行方不明、お前らしいじゃないか」と父親はいたずらな笑みを浮かべた。
父親は、軍をやめるきっかけになった作戦での出来事を知っている。細かい内容は話していないが、自分自身も特殊部隊員だった経験もあるので、少しの内容で、経験的に状況を理解したのだろうと思われる。
「マム、ダッドの面倒見るのが大変じゃない?」
「相変わらず頑固だからね。とりあえず、お酒与えておけば大人しいから大丈夫よ」と母親は冗談めかして言った
「トリシャ、頑張ったな」と言って頭を撫でた。
「もう、子供扱いしないで」とトリシャ。救助された時は、かなり疲労が見えたが、とりあえず炊き出しでまともな物が食べられたのが良かったのだろう。顔色も良くなって、今から地球に戻れるといこともあってか表情は明るい。
「戻ってからも家のこととか大変だろうけど、ダッドとマムの面倒を頼む」
「長男ならもうちょっと家のことも考えてよね。いつまでも日本で羽を伸ばしてないで、早く帰ってきて。代わりに私が日本に行くから」
「永住する気なんだけど」
「ダメ次は私の番」と言ってトリシャは舌を出した。「私だって、日本の友達に会いに行きたいんだから」
「俺たちは夫婦水入らずの方がいいからトリシャも日本に行けばいいさ」と親父
「そんなこと言って、いざいなくなれば愚痴愚痴言うくせに。てか、隣の人は彼女?」とアッシュフォード大尉を見てトリシャが言った。
「アッシュフォード大尉だよ。科学チームの班長をやってる」とデイヴィッドは紹介した。
「レイチェル・アッシュフォードです」両親と妹に笑顔で挨拶した。
ヘルメットに戦闘服でも美人であることがわかるその姿に、皆が彼女はありえないでしょうという目を向けている。
「とりあえず同僚です」と意味深に笑みを浮かべてアシュフォード。
「お兄ちゃんこう見えて奥手だからガンガン行っていいと思うよ」とトリシャ。
「そのようね」とアッシュフォード大尉はチラッとデイヴィッドを見る。
好意を寄せられるのはありがたいが、そのきっかけが分からないデイヴィッドとして困惑するだけである。
デイヴィットは、機会があれば、アッシュフォード大尉のその好意がなぜなのか聞いてみようと思っていたが、今のところはそのチャンスはなかった。
刹那、立っていられないほどの地震が起きた。
悲鳴が至る所で上がっていた。
それが、5分くらい続いたかと思うと断続的に小中規模の地震が連続して起きた。
父親は母親を庇うように屈んで覆い被さる。
デイヴィッドは妹とアッシュフォードを庇うように、屈んだ2人の上に体を被せた。
建物の壁やガラスが割れて飛散する。
ポータルの姿が、歪みはっきりと見えたり消えそうになったりしている。
「トリシャ、地震が落ち着いたら、残りの住民を皆ポータルに飛び込ませろ。躊躇させるな」とデイヴィッド。
「わかった」叫ぶようにトリシャが答えた。
「いまだ!」ポータルの揺らぎが落ち着いたのを見計らってデイヴィットが叫んだ。
「皆、ポータルに急いで入って!!」とトリシャが立ち上がって、皆に指示をした。
地震の恐怖に慄きながらも住民達はその声に従う。
立ち上がれない者は、デイヴィッドの両親が介護したり、トリシャが背中を押したりしてポータルに飛び込ませていた。
「デイヴィッド!!」父親が叫んだ。「向こうで待っているぞ!」母親と妹をポータルに入らせた父親は、拳を握った腕を上げて戦線に戻ろうとするデイヴィッドに笑顔で叫んだ。
デイヴィッドもそれに答えて腕を上に上げる。
父親は、笑顔でポータルの中に消えた。
「無事に地球にたどり着くように」とデイヴィッドは呟いて、隣にいるアッシュフォード大尉に「民間科学者の退避を急がせてくれ」と言った。
アッシュフォード大尉は頷いて、科学者チームが待機している場所に向かった。
デイヴィッドはそのまま部隊指揮官の元に向かう。
指揮所テントには指揮官とメイヤード少佐がいた。
作戦画面には今まで見たより多くの紅点が光っている。
UAVがAIオートパイロットで上空を旋回し、動体を検知して投影された情報だ。
その中に大き紅点がいくつもある。まだ認識されていない物体もしくは生体という意味だ。識別されているものの横にはその種類が表示されているが、その大きな紅点にはアンノウンを示すUNKと表示されている。
「大詰めですね。住民の避難は終えました」とデイヴィッドが言った。
指揮官が頷いて「よし、支援部隊から随時撤退させろ」と命令した。
青と緑の点が一斉に動き始める。
「メイヤード少佐。撤退の指揮をお願いする」と指揮官
「了解」とメイヤード少佐は言って敬礼した。そしてデイヴィッド肩を叩いて「幸運を」と言って笑顔で指揮所テントの外に出て行った。
「デイヴィッド大尉。レンジャー小隊の指揮をとってくれ」
「小隊長は?」
「先ほどの地震で瓦礫の直撃を受けて負傷した。重体だ。君は殿戦をお願いすることになるが」
「了解です。軍籍復帰て言われた時にこうなるんじゃないかと思っていました」
「支援、後方部隊の撤退を確認したら、この指揮所も撤収する。それまでの防衛を頼んだぞ」
「Hooah!」とデイヴィッド。「レンジャー小隊。デイヴィッドだ、今から俺が指揮する」と無線で伝えた。
無線から喝采の声が聞こえる。
「待ってたぞ」とアルファー分隊長。
「会敵予想時間10分」とオペレーター。
指揮官とデイヴィッドはお互い見合って頷き。デイヴィッドはテントの外に出た。
レンジャー小隊は今まで怪物の侵攻が激しかった。南東幹線道路のポータルから400m先に陣取っている。
そこに向けて、歩いてゆく。
民間科学者チームがたくさんの荷物を持ってポータルに歩いて行くのが見えた。
彼らもデイヴィッド気づき手を振る。
ミニトラックとUGVがポータルに消えて行くのが見えた。
一連の現象を解明する手掛かりになれば良いがと思いながら、デイヴィッドも皆に手を振る。今後、この探索に関わった彼らは、先端の研究を担う重要なポストに就いて行くことだろう。
「状況は?」デイヴィッドがファルファー班隊長に聞いた。
「兵の1人が斥候のような奴を見かけたと連絡があった。仕留めたそうだが、ボロい布切れを羽織った120cmほどの豚のような奴だったらしい。もしかしたら、そこかしこに隠れている可能性がある」
「指揮所には伝えたか?」
「もちろん」
デイヴィッドは頷いて、要所要所に遮蔽物に隠れている兵士たちの配置を見た。
通りを包囲するように、隠れている。建物上からの射撃できるように配置されている。アルファーとブラボーのニ分隊がいるチャーリーは拠点防衛の支援をしている。
「こちらの配置は敵に筒抜けだと考えた方がいいな。それで死傷者が少なく済んでいるのは、こちらの武器の威力のおかげと言ったところか」
「まあ、剣や弓や槍なんかと比べればな。ただしあいつらの個々のパワーが半端ないからあの力で、槍を投擲されたり、矢が撃たれると、こんな遮蔽物なんか簡単に貫いてしまう。破片で負傷することが、多い。小隊長もそれでやられた。だから皆、遮蔽物にくっつかないように隠れているんだ」
「そろそろ残弾が厳しくなってくる。後方支援組が退去し始めるタイミングで全員下がるぞ。無駄死にするなよ」
「Hoah!」
無線から「会敵予測3分」と聞こえてきた。
怪物達の足音が近づいてくる。
先ほどのトロールよりさらに大きい怪物が近づいてきていた。二階建ての建物ほどの高さだ。
建物の屋上に隠れていた兵士が、怪物と目が合ったような気がして、恐怖に焦って、無反動砲を撃ち放った。
弾頭は、その怪物には命中せず、地面に当たって爆発した。
その衝撃波と破片で、盾を持った怪物達が吹き飛ばされた。
「ミニミを掃射!」デイヴィッドが無線で言った。
通りの左右で5.56m mのミニミの銃撃音が響く。
「止め」数秒の射撃で止め、敵の動きを見た。敵は物陰に隠れる風もなく、その身体を壁にして隊列を組んで前進してくる。味方が銃弾で倒れるのもお構いなしだ。
「ナポレオン戦争みたいだな」とアルファー隊長。
「だが、数で圧されれば確実にこちらがやられる。それに倒れても後方が気にせず前進する姿は兵士たちには恐怖でしかないだろう」
「確かに」
「クレイモア地雷でどれだけ減らせるか」と言った矢先に地雷が爆発する音と振動が響く。
やはり、怪物達は地雷で仲間が倒れようと気にせず、怯まず、前進してくる。
血まみれで、四肢が引きちぎられて横たわる味方の死体に怯むことなく前進するのそ姿は、彼らの鎧兜の装飾ともあいまって、悪魔の行進とでも形容した方が良さそうな光景だ。
「屋上にいる者達は、取り残されないように合流しろ。チョークA、Bの皆、いつでも撤退できるように準備しろ」と無線で伝える。
無線からわざわざ返事は無いが、皆が従って動き始めたのが遮蔽物の隙間から見えた。
撤退戦であるため、弾薬の補給はなく今ある武器で戦わなければいけない。
寄せる怪物達の多さを考えれば、10分も戦えば、弾薬は尽きるだろう。早いうちに、拠点まで下がって、ある程度補給を受けながら戦った方が良いなとデイヴィッドは思いながら、周囲を確認した。
思ったより、空からの襲撃が少ない。
もしかしたらこの無謀な戦いで、敵の総数も減ってきているのか?
そもそも敵の思惑が分からないので、ふと何かが間違っているような感覚にとらわれる。「いや、今は生き残ることだけを考えよう」とデイヴィッドは呟いた。
とりあえず、今の位置では補給もままならないので、ハンドグレネードや榴弾の爆弾で、数を減らしてからの銃撃しつつ後退というのが現実的だろう。
「タイタンに銃弾が効くか確認したい」と無線で呼びかけた。
トロールより大きな怪物をタイタンとデイヴィッドは呼んだ。
「S1タイタン狙えます」と屋上に1人残っていた狙撃手が言った。
「S1のタイミングで撃て」とデイヴィッド
一発、撃発音が響いた。
「命中、タイタンダウン」
流石に、大きな怪物が倒れると怪物達に動揺が走った。足並みが乱れ、ついには停止した。
「よし、今がチャンスだ。皆退がるぞ!」
隊が流れるように後退していく。
デイヴィッドが殿を務める。
先ほどタイタンを狙撃したシューターが横の通りから合流してきた。
デイヴィッドはよくやったという風にシューターのヘルメットをコンコンと軽く叩いた。
「みんなに続け」と言ってデイヴィッドはシューターを前に行かせた。
どんと大きな地震が起きた。立っていられないほどの揺れで、デイビッドは仰向けにそのばに倒れてしまった。
空を見た一瞬、デイヴィッドは村を覆おているオーロラのベールも大きく揺らいで一部薄れてこの世界の空を見た。
一瞬思考が止まる。
怪物の咆吼で我に返った。
あのオーロラのベールは、ポータルと連動しているのか?もしそうなら、もうすぐポータルは消失するんじゃないか?そんな不安がデイヴィッドの頭を過ぎる。
「撤退はどうなってる!」デイヴィッドは、拠点指揮に無線で問うた。
「支援部隊の撤退完了、順次防御部隊の撤退に移行している。レンジャー中隊は、敵を牽制しつつ、拠点に戻れ」
「そのつもりだ」
拠点に戻り指揮官に目配せすると、メイヤード少佐とアッシュフォード大尉が指揮所の支援をしているのを見つけた。
「撤退したんじゃなかったんですか?」とデイヴィッド。
「ギリギリまで状況を確認しておきたくてな」とメイヤード少佐。
「物好きな」とデイヴィッドは苦笑いした。「先ほどの大きな地震の時、空の障壁が一部消えるのを見ました。おそらく、もう時間がないでしょう」指揮官とメイヤード少佐に聞こえるように言った。
「防御部隊で敵の半数以上が殲滅できた。侵攻が遅くなっている今のうちに急いで撤退しよう」とメイヤード少佐。
指揮官が頷く。
指揮官の指揮の下、総軍撤退が開始された。
小隊、部隊毎に号令に合わせて流れるようにポータルの中に消えてゆく。
「俺たちは、リアガードだ。いくぞ」デイヴィッドが言った。
それに皆が「Hooah!!」と答えた。
ポータルを中心に、円形に陣を張る。それぞれに、ハンドグレネードや擲弾、アサルトライフルの予備弾倉を配置して、敵を待ち構えることにした。
ポータルの近くで、メイヤード少佐が何か装置をいじっているのが見えた。
ギリギリまで観測機器を動かすつもりのようだ。
近くで雷が落ちるような音がした。
地震というよりも地鳴りのようなものが響く。
そして怪物達の咆哮。
何が起きているのか全く理解できない、デイヴィッド達はパニックを抑えながら、敵を待ち構えている。
「命令するまで発砲するな」デイヴィッドは叫んだ。
「指揮所撤退する」と無線から聞こえた。普通なら指揮所はすでに撤退し、撤退先で陣地を確保しているのが段取りだが、ここでは向こう側から通信ができないため、ほぼ最後まで残ることになってしまった。
そろそろ最終段階だ。
怪物達の姿は見えない。だが、近づいてくる威圧は感じる。
地鳴りは依然続いている。
「メイヤード、何か観測できているか?」デイヴィッドは無線で聞いた。
「電磁パルスか何かが観測され始めた。だが、これが何を意味するのかは不明だ」
また、雷のような音が、数カ所で聞こえた。
「まさか魔法なんて言わないよな」とデイヴィッド呟いた。




