第6章
撤退に向けて慌ただしくなっている中で、戦闘も継続していた。
地震は次第に大きくなってきており、侵攻する怪物の数も多くなって来ていた。
地震が頻発するため、救助された住民達は、軍に警護されながら、ポータル近く、大きなテントに移動して、医療行為を受けていた。
戦闘が続く中で、兵士達にも疲労が見え始め、負傷するものが増えて来ていた。
ある意味、撤退戦であるため弾薬が制限され始めてはいた。それでも各種武器が怪物に対して、効果を出していたため、十分戦えていた。
また、地震と戦闘が頻発する影響で、UAVなどの精密機器の整備が追いつかなくなってきてもいた。2機あるUAVのうち1機は地上待機になり1機で上空警戒をしている。
監視のために各幹線道路に配置されたUGVは、その数を減らし、20台あったものが10台近くにまで減っていた。怪物に壊されたUGVもあった。
南部からの侵攻に限られていた、怪物の侵攻は、地震の頻発により、オーロラ幕の遮蔽効果が薄れてきているのか、四方を囲まれるまでもう少しという状況だ。
住民達の健康診断も簡易になり重症者を優先にポータルを超えさせ、順次、健常者のポータル越えも始まっていた。
ロイの家族がポータルを越えるということで、デイヴィッドは見送りに来ていた。
「君たちの家族のおかげで、ウチはみんな無事だったありがとう」ロイの親父さんがデイヴィッドに泣きそうな顔になりながら言った。
「特にトリシャが居なければ、私たちは生きていなかったわ。強い妹さんね」とロイの母親。
「俺が強いって言うと怒られるんですけどね。皆無事で帰られるようでよかった」
「家は無くなってしまうからどうしようかしらね」
「しばらくは私の実家で暮らすことになると思うわ。心配しなくても大丈夫」と優しくロイの奥さんが言った。
ロイの奥さんはハイスクールで美人で有名だった女性だった。村の外の牧場主の娘だった。牧場は彼女のお兄さんが引き継いでいるそうだが、ロイにも手伝ってほしいと以前から打診していたらしい。
「とりあえず、戻ったらしばらくは隔離生活だと思う。気弱にならないように気をつけて、ロイが向こうで待っているから」とデイヴィットは言った。
無言で見つめるロイの娘の頭を撫でてやった。奥さんに似て美人だが、人見知りなのかすぐ母親の後ろに隠れた。
「では、先に行って待っているよ」とロイの父親。
「幸運を」と行ってデイヴィッドは手を振った。
ロイの家族は笑顔でポータルを越えて行った。
「さて、まだやらなきゃいけないことは沢山あるぞ」と言ってデイヴィッドはポータルから離れた。
デイヴィッドはメイヤード少佐と派遣部隊指揮官と話していた。
「地震の頻度が増えてきているのは、ポータルが安定していない事と関係しているのはデータから確かだ。もしかしたらポータルが消失する前兆なのかもしれない。先の会議の時も言ったが、その時何が起きるのかは、予想もつかない。異空間を結んでいるそのエネルギーは想像もできない、とんでもないものだろう。核爆発より酷いことが起きることも予想される。地球側の部隊や民間人も含めて大幅に後退させた方が良い。予想に反して呆気なく収束することもありうるが、安全を優先した方が良いと思う」
「レコンが持ち帰った画像はどう思う」と指揮官
「太陽は一つ、月は三つと言ったところか。月は地球の月と比べてかなり小さいか、遠くにあるようだ。三つがバランスすることによって、地球のような環境が維持されているのだろう。山脈も見られることから造山運動もあるようだ。樹木に関しては、地球のそれに近いように思う。サンプルの土と石の感じも分析してみないと分からないが、同様のように思われる」とデイヴィッド。「私の予想としては、過去か未来に現在の地球と同じ場所に位置するであろう惑星と繋がっているのではいかと思います。数光年も離れた位置の星と繋がったとするよりはそちらの方があり得るような気がする。どのような物理理論によるかわかりませんが、たまたまそこに惑星が位置したなんてのはそれこそ天文学的な確率で奇跡としか言いようがない。SFの世界ですね」デイヴィッドは言って頭を掻いた。
「現実的にこの現象が起きているのだから将来的にその物理理論は確立されていくことだろう。100年以上かかるかもしれないがな。映画やアニメみたいにすぐ現象が理解されて、解決されるなんて事はありえないさ」と指揮官。
「魔法の世界とかならありえそうですけどね」デイヴィッドが苦笑いした。
「そいや君はジャパニメーションのオタクだったか」
「日本でハマってしまいました。まあ物理的な若しくは技術的な理解ができるのならば、魔法なんて現象であっても解き明かすことは可能でしょうが、なぜそれが起きるのかの分析や理解がなければ物語のようにはいかないでしょうね」
「話はそれてしまってしまったが、やはり総撤退した方が良いのか?」
「ポータルの持続が約束できない以上それが無難です。上の方は新たなフロンティアと興奮しているかも知れませんが、この世界に人間が取り残されて、その責任を押し付けられるよりかはいいと思います」
「経験者談ってところか」
「戦場への置いてけぼりは懲り懲りです」
指揮官は苦笑いして頷いた。
「それってフラグって言うんじゃないのか?物語のように相互を簡単に行き来できるとはいかんか」
「指揮官も異世界ものはお好きで?」
「孫がインターネットでアニメを見ているのを一緒に見ていたりしたからな。あれほど世の中が単純であればどれほど良いか」
「物語は物語ですから」
「おそらく、極秘の委員会が開かれて、政治家先生達がどうするか決めるだろう。とりあえずは現場の判断で総撤退は行う。地球側に退避して、政治家先生たちの意見を聞くことにしよう」
「こちらに持ち込んだ装備はどうする?」とメイヤード少佐。
「もしかしたら予想に反してポータルが安定することも有り得る。そのまま置いていく。拠点のラップトップや観測データなど以外は、部品や電源を取り外して、使えないようにしてここに置いてゆく。爆破は必要ないだろう。武器弾薬は、残ればそのまま置いて行く。あの化け物どもにこれらが使えるとも思えんからな」
「使えたとしても、地球と縁が切れてしまえば、それを利用して侵略なんてものはできないでしょう。この世界でのパワーバランスは一時期変わるかも知れないけど、メンテナンスができなければ一瞬で終わるでしょうね」
「次の会議で、生存者の捜索は、打ち切り、撤退準備を下命する」
「それが良いだろう」
「物語とかだったら、フロンティアに固執して、混乱させる悪役の指揮官がいるんだろうけどな」メイヤード少佐がにやけて指揮官を見た。
「俺にそんな役をさせるつもりか?そんな奴らは地球にいる奴らで十分さ。どうせもうすぐ定年だし、連中に色々言われようが痛くも痒くもない。よし、さらに忙しくなるぞ、それぞれの任務を遂行してくれ」
「了解」とデイヴィッドとメイヤード少佐は返事した。




