第5章
ポータル付近ではミニガンが活躍していた。
空から来る怪物を6台のミニガンが次々と薙ぎ倒してゆく。
空からくる謎の生物は、ワイバーン(ウィーヴ)
牛頭をミノタウルス(ミーノー)
馬頭をマスタング(マーフィー)
山羊頭をゴート
分類し難いものはビースト
とそれぞれ呼称することが決まった。
この世界に来て怪物の奇襲は4回目だ。ほぼ4時間の感覚で奇襲してくる。それと同じ回数地震も起きていた。
発見された住民が、次々とポータルに輸送されてくるタイミングでの奇襲もあり、混乱が続いた。ただし、銃器などの武器が効果を発揮しているので、こちら側に死傷者はいない。部品工場でも600名近くが発見された。
救出された住民は拠点近くの建物で健康診断を受けていた。
地震と銃撃があるたびに怯えたようにしている。
軍医3名とイそして看護師6名で手分けしながら住民の健康状態を確認していた。
その片隅で、家族に付き添っていたデイヴィッドとメイヤード少佐がこそこそ話していた。
「おそらく、このポータルは安定していない。地球側にも何かしら影響が出ているはずだ」とデイヴィッド
「では、ポータルとこの村を覆うオーロラのようなものは、消える可能性があると?」
「その結果、何が起きるかは予想もつかない。誰も経験したこともないことだから。この世界と地球に決定的な破壊をもたらさないとも限らない。できる限り速やかに、住民を地球側に送る必要がある」
「私としては可能であれば、こちら側のサンプルも持ち帰りたい」とメイヤード少佐。
「科学者としてそれは俺も同じだが、そんなこと言っている余裕はないかもしれない。レコンの話では、地震の時に一時的にはベールの外に出られると聞いている。土壌や植物などの採取は可能だろう。それで我慢するしかない。ポータルが閉じてしまったら、我々には再度それを実現できる技術も知識もない。この世界に取り残されないようにすべきだ」
拠点のテントで会議が開かれていた。
「工場勤務の職員の話だと、従業員などを含めると日中の人口は2000人近いということだ。全ての救助とはいかないだろう。怪物との戦いで、死んだものいるらしいから総数が把握できない。車両で呼びかけているが、村庁舎周辺施設で現在500名近く、工場で600名が発見された以外は、未だ要救助者の発見に至っていない。村庁舎周辺施設で見つかった要救助者うち100名は地球側へ送り届けている。残りの住民も順次こちらへ搬送しているが、健康診断に時間がかかり、なかなか地球へ送れていないのが現状だ。それに地震の間隔が確実に短くなってきている。怪物との戦闘も激化している状況だ」指揮官が言った。
「現在、怪物の侵攻は四方からに広がっています。特に最初、侵攻が確認された南部からが多く。現在、何頭倒したのか把握が難しい状態です。幸い、鎧などが残存するためある程度の数は把握できますが、ワイバーンに至っては総数の把握はできません」と戦闘責任者。「このまま、侵攻が続けば、弾薬等の物資の確保が難しくなります。また連続した戦闘で兵達の疲弊が蓄積されていっています。できるだけ早く撤退するか、地球側に後退して体制を立て直す必要が出てきます」
「ジョーンズ大尉の話では、ポータルは安定していない。いつ消えてもおかしくない状況だというがどうだ?」
「ポータルは安定していないのは確かだ。それは、気象観測班も地震の折に確認している」とメイヤード少佐。「そもそも、物理法則上、この規模のワームホールが安定して定置することは、それこそ天文学的確率というもの。今、ポータルが消えてもおかしくない状況だ。いつまで、保つかなども予測ができない。今見つかっている住民だけでも連れて撤退すべきだ」
「健康診断は、地球の隔離施設で行った方がいい。設備が整っていない上に、ポータルが安定していないのであれば、負傷者や衰弱している者だけでも早めに越えさせた方が良いと思います」と軍医が後押しする。「それに現在は優勢に戦闘を進められていますが、敵の数や戦闘回数が増えてくれば確実に、兵士達は疲弊し、死傷者が出るでしょう。傷病者が出た場合に住民と兵士を診るには確実に人間も機材も足りない」
「皆、即時撤退で意見は一致しているわけか」指揮官は思案しながら禿げた頭を撫で、「中央からは、未知の世界を探索できないか要請がきて居るんだが」
「レコンで確認できる情報でとりあえず満足してもらうしかありません」
「今確認されている生存者を地球側に送った後はUGVなどを使って探索に切り替えた方が無難だ。こちらに取り残される事態が起きないようにしなければ」
「とりあえず、上にはそう答えるよ。地球側で探索機器が使えないから、政治家達はこちらでの活動に期待している。しかし、生存者が確認されたからにはそちらが優先だ。皆も早期撤退のため奮闘してほしい」
皆が「了解」と言って会議は終わった。
「メイヤード少佐」と指揮官が呼び止めた。
「何か?」
「ここはフロンティアとして活用できると思うか?」
「無理だろうな。物体の移動できるほどのポータルが持続するためのエネルギーはとんでもない物になるはず。しかもほぼタイムラグがなく別世界を繋ぐなど、それに星々は常に動いている。それを定位置に固定するなど、どんなに技術が発展しても無理だろう。我々には、自然の脅威としてなされるがままになるしかない。ジョーンズ大尉が言うには、地球側でこちらと同じ異変が起きていないと言うことは、おそらくこちら側の世界の何かが、ワームホールの生成に関係しているのだろうと言っていた。それに地球側の何かが条件に適合して繋がれた物だと推測しているようだ」
「何かが多いな」
「この状況は、奇跡という言葉だけでは片付けられないのさ、それに科学者としては、とりあえず“何か“と言うしかない」
デイヴィッドは気象観測データや各種データをラップトップで見ながら、「やっぱり、地球で作った観測機器はこれが限界か」と呟いた。データはほぼ地球と同じで異常なしなのだ。地震という不確定要素にしても、それがなぜ起こっているのかわからない、音波地殻データは、深部までたどり着くことはなく跳ね返ってくるので、まともなデータは取れない。おそらく、地面の下にもあのオーロラのような物の影響があるということなのだろう。気象データもオーロラのベールで覆われたこの空間の中しか観測できていなかった。物理的な何かしらの兆候が見受けられないか、探していたが、そもそも正体不明なものを観測することはできないし、この現象を観測するための機器もない。何らかの物質波が検知できるのであれば、将来的にそれをヒントにこの現象を説明できる物理を構築できるかもしれないが、それは現在得られたデータをさらに詳しく分析した将来の話だ。今、この事態に対応できる物を提供してくれるわけではなかった。
今日の昼の地震と同時に、レコン5名がベールを越えた。ベールの向こうとは通信ができなかった。
彼らが持っていった簡易観測機が機能して、無事に戻って来られたら、何か新しい発見があるかもしれない。彼らには、観測ついでに、土壌と植物、小動物もしくは昆虫を採取してきてくれと頼んでいた。
もしかしたら、村に侵攻してくる怪物たちが屯しているかもしれないので、極力、そいつらに発見されないように注意するようにも伝えてある。まあそこはプロなので注意するまでもなかったろうが。
デイヴィッドは彼らが無事に戻ってきますようにと心の中で祈り、データの中に有用な雑音がないかを再度探し始めた。
ミランダとドニーは、怪物達の着ていた鎧などの遺品の意匠から何か発見できないか調査していた。
鎧は、鉄でできており、何かしらの図形と文字らしきものが刻まれている。鉄を精製し加工する技術と何かしらの文化を持っているのは確かだろう。
「彼らの目的って何だと思う?」とドニー。数学の知識を活かして図形の分析や鎧などの形状を調べていた。「私たちと同じ探索じゃない?」ミランダは細かく刻まれた文字のようなものが解読できないか調査している。「もしかしたら、地球側にあるあれって、彼らにとって大切な物なんじゃない。侵攻してきた 時、何かを探しているようだったって言ってたから」
「“あれ“、って岩みたいなやつ?」
「こっちでは全く違うものに見えるのかもしれないわ。何か神聖なものとか」
「そういえば、ポータルだけに気を取られて、あの岩ってそんなに真剣に調べられていないような気がするわね」
「後でメイヤード少佐に進言してみましょう」と言って3Dスキャナーで取り込まれれAIで処理された、文字列をラップトップ上で見ながら唸り声を上げた。文字の頻出度などもAIで解析され、そのデータを見れば見るほど訳がわからなくなるのだ。「ああ、もう!どうしてこんなにも意味不明な並びなの?」
「何かの願掛けでおまじないみたいなものだからじゃない?それに思い出してみなさいよ。彼らの顔。言葉が喋れたとしても、到底、私たちと同じような音が出せるとは思えないわ」
「その通りね。イにアドバイス貰った方が良さそう。そっちは何か進展が?」
「進展なんてないわ。空間認識は、私たちのとそんなに変わらないというところかしら。おそらく彼らに数学的な知識があるとしたら、図形に関してはさほど違わない。物の数え方とか進数的に私たちとは違うかもね。消失まえの写真を見る限り、指の数が違うから」
「まさか馬だから指一本とか」
「とりあえず、3本ね。2本に1本が対向してる」
「じゃあ、3進数?」
「予想的にはそうだけど、実際は違うかも。肝心な足の指の写真がないから。もし普通の馬と一緒で一本だと2進数とかになるかも。それとも全く予想していなかった物を数の基準としているかも」
「お二人さん、まっずいレーション見つけたあの、3人で女子会しない?」とマギーが部屋に入ってきた。レーションの袋とビール缶を買い物かごに詰めて持って来ていきた。ビールかんはこのドラッグストアで売っていたもののようだ。「メイヤード少佐って、これを目的にドラッグストアを私たちの拠点にしたんじゃない?」と言ってドニーとミランダにビール缶を渡した。「レーションだけだと嫌気がさすから、それなりに食べ物が置いてあるところを選んだだと思うの」
「まあ、あの人何考えているか分かんないからね。映画なんかに出てくる、権力バカで科学バカの悪役キャラかと思っていたけど、私たちのこと考えて、色々準備してくれてたみたいだしね。てか、なぜ態々、まっずいヤツ持ってくるのよ」とドニー。
「いいじゃない。滅多に食べられる物じゃないし、消費しないと、こいつばっかり残るし」
「無邪気ね」
「ありがと」
「褒めてないわよ」ミランダは苦笑いした。
「レイチェルから聞いたけど、完全撤退でみんな動いているらしいよ」マギーは、レーションの袋を開けてドニーに渡した。
ドニーは嫌そうに、それを受け取り「新たな生存者も見つかっていないし、こう頻繁に戦闘があれば退くしかないわよね」と言った。そして、マギーから渡されたものをそのまま、ミランダに渡した。
「こう頻繁に、銃声が響くところで落ち着いて研究なんてできないよねえ」ミランダはドニーから受け取ったスティック状の何かを一口食べた。「うわ、まっず。何これ?」とミランダは口に入れたものをまた袋の中に戻して言った。
「分かんない。ターキー肉と何かの肉をスティック状にしたヤツじゃない?」
「何かの肉って何よ?」
「その他としか書いてないわ」とマギーは悪戯そうな笑顔で答えた。
「それで、気象分析はレイチェルに押し付けてきたの?」とミランダ。
「彼女はデイヴィッドのお手伝い。私の知らない物理の専門用語で議論してたわ。それにレイチェルさん目がハートマークなので気を利かせてあげたのさ」
「え?レイチェルってそうなの?」
「デイヴィッドってイケメンだしね。頭が良くて、荒事もできるって、なんかずるくない?」とドニー。
苦笑いしながらミランダが「でも多分、変わり者よ。陸軍から大学行って博士号とって、海外に移住してって…」
「盛りすぎよね。しかも日本で大学の先生やってたのかと思ったら、ジュニハイの英語の先生だもん。何かあるとしか思えないわ」
「何かって?」
「スパイとか」
「さらに盛るかって感じね」
三人はそんなたわいもない話をしながら、ビールを飲み笑いあった。




