第2章
デイビッド・ジョーンズは、久しぶりの帰省で故郷へ向けてドライブしていた。
日本からLAXを経てローカル便を乗り継ぎ、やっと故郷の近くの空港につき、妹が迎えにきているはずであったが、いっこうに迎えに来ないので、空港の近くでレンタカーを借りて、故郷の村まで4時間弱の旅の途中である。
空港に着いてから何度か妹に電話して、メーっセージを送ったが、まったく応答がなかった。
空港に着いた時、村で何かがあった的なニュースを見たが、その後の続報がないため、不安であった。
動画サイトでアップされている、村周辺の動画を見たが、すぐに規制が入って動画は見られなくなっていた。
異様な雲に覆われた村の画像。こんなことが本当にあるんだろうかと思いながら、故郷への道を急いだ。
村の近くの街で情報を集めるためと腹ごしらえするために、ダイナーに寄った。
カウンター席に座ると、見るからにティーンのアルバイトの女の子が、挨拶に来た。「エミリーよ。何にする」彼女は名前を告げて、注文を聞いた。
「とりあえずチーズバーガーセットとコーヒー」とデイビッド。
エミリーは注文を書き留めると「ゆっくりしてね」と言って注文書を置くのキッチンへ持ってゆく。そして、コーヒカップとポットを持ってきて、注いでくれた。「おかわりの時は言ってね」
「エミリー、待って」
「何?」
「エリデュ村のこと知ってる? 久しぶり戻ってきたんだけど、何かニュースになってたから」
「4日前にすごい荒れた天気に覆われて、大災害が起きたらしいとは聞いてるわ。でも、すぐに軍が来て周辺を封鎖しちゃったの。その後の情報もなかなか入ってこないから皆心配しているわ」
「チーズバーガーセットできたぞ」キッチンから声がした。
エミリーがそれを聞いて慌てて、取りに行き、デイビッドに持ってきた。
「軍が救助活動しているってこと?」
「多分、そうだと思うけれど。関係者以外近づけないから分からないらしいわ」
チーズバーガーを食べようとすると。
「あんちゃん、あの村の出身か?」と後ろのテーブル席で、コーヒーを飲んでいた老人が訊いてきた。
「そうだけど。何か知ってる?」
「うちの倅が、消防士でな、救助活動に行ったきり帰ってこないと、倅の嫁さんから電話があったよ。とりあえず、無事で、毎日電話はしてくるそうだが、救助するにも村に入れず難儀しているらしい。それに軍が仕切っていて思うように行動できないとも言っておったらいいよ」
チーズバーガーを食べながら「村人が誰か救助されたってニュースはない?」
「うーん、ワシは聞いていないな。周辺は霧に覆われいるらしいが、中に入った倅などは、軍の隔離施設に入れられて、毎日健康診断を受けているらしい。何かやばいウイルスでもいたんじゃないかって噂になっているよ。詳しいことは、軍から緘口令が敷かれて、契約書にサインさせられたって倅が言っておった」
「契約自体は緘口令の対象じゃないんだ」
「とりあえず、詳細がわかるまで村のことは話すなと言うだけで、他のことに制限はないらしい。隔離されていることとか、毎日でるメシの話とか…」
「軍の行動は?」
「隔離施設でどうせわかりゃしないさ」
「確かに」
「とりあえず、村に向かってみるよ」
デイヴィッドは、食事を終え、食事代とチップをカードで支払って、店の外に出た。
ここから村方向を見ると、霧のドームがかろうじて見える。
「行ってみなきゃ分かんないか」
とりあえず、妹か両親からメッセージが来てないかスマートホンを確認する。
やはり応答はない。
村に近づくと聞いた通り、軍が検問を敷いていて車を止められた。
「ID見せろ」高圧的に兵士が言った。「名前とここに来た目的は?」
「デイヴィッド・ジョーンズ、この先の村の元住人だ。両親に会いに来た」
「見ての通り、現在ナショナルセキュリティのため、封鎖している」
「災害があったって聞いてるけど。救助作業は進んでいるの?」
「鋭意対応中だ。詳しい状況は我々も知らん。この道の先の左手にコンテナがたくさん設置してある場所がある。そこが村の関係者の待機場所兼宿泊施設になっている、そこで受付を済ませて待機しいるように。そこから先は軍関係者以外入らないように警戒網が敷かれいるから注意しろ」
「了解、軍曹」
兵士が道路を塞いでいるゲートを開けてくれたので、デイヴィッドは車を進めた。
しばらく車を走らせると、異様に整列したコンテナ群とこの田舎に似つかわしくない、軍用車両の列とデッカいパラボラアンテナが見えてきた。
門があり、そこにいた兵士たちに誘導されるまま、コンテナ群の前で車を停めた。他にもたくさんの一般車両が停まっており、おそらく村の関係者達の車だろうと思われた。
もしかしたら、知り合いがいるかもしれない。
車の窓をコンコンと叩く音がしたので、そちらを向くと若い兵士が、こちらに敬礼した「サー、車を降りてついてきてください。車の鍵はつけたまま、貴重品は必ず身から離さずにいてください」と兵士は言った。
デイヴィッドは頷き、バックパックを持って車を降りた。
そして、先導するその兵士について行った。
「こちらへどうぞ」兵士は、受付所と書かれたコンテナの扉を開けて、デイヴィッドに中に入るように促した。
デイヴィッドは「ありがとう」と言って中に入った。
コンテナの中は、机や受付カウンターやコピー機などが綺麗に配置されおり、どこかの会社のオフィスと言われてもおかしくない作りになっていた。ただし、そこにいるのは軍の作業服を着た者達である。
三つ並んだ受付の真ん中の女性兵士が手招きをした。デイヴィッドはそのカウンターの椅子に座った。その後ろに案内してくれた兵士が監視のためか休めの姿勢のまま立っている。
「サー、これから受付をします。ナショナルID番号をこのキーボードで入力してください。その後簡単なアンケートが表示されるので入力をお願いします」女性兵士がキーボードとディスプレイを指して言った。
「わかった」と言ってデイヴィッドは入力していく。
入力したのは、名前、職業、村出身者であるか、誰の関係者かと言ったような事だった。
打ち込まれた情報によって、その女性兵士からしか見えないディスプレイに関連情報がリンクされていく。
「あら軍に所属してらしたんですね?」事務的だった女性兵士がニコリと笑顔を見せた。
「昔ね」とデイヴィッド
「レンジャー中隊が中で作業されてますよ」
「見知った顔がいるかもしれないな。それより、家族の情報はないだろうか?」
「すみません。救助の進捗はまだこちらには情報がきていないんです。そのせいで皆さん苛立ってきているようですが、中がどうなっているかもこちらには情報がきていないので、なんとも言えないのが現状です」
「そうか…」
「あ、こちらのカードキーをどうぞ、コンテナ12番が待機兼宿泊所ですので、何かしらの情報が入り次第、備え付けの電話でお知らせします」
コンテナは家族用と個室で仕切りが違い、ドアの数も違った。12番のコンテナは個室が3部屋あり、入り口ドアが三つあった。窓はない。中に入ると簡易ベットとテレビそして冷蔵庫とテーブルと椅子が置いてあった。冷蔵庫の中には水のペットボトルが数本入っていた。トイレとシャワー室は別のコンテナに設置されていた。食事は定時に外の厨房テントに取りに行って、そこで食べるか、コンテナに戻って食べるか自由らしい。
案内してくれた兵士は、簡単なルールを説明した後「外に歩哨がいるので、この区域から無理に出ようとしないよう、村に侵入しようとしないように」と注意して仕事に戻って行った。
とりあえず、荷物を置いて、コンテナの外に出て、誰か知り合いがいないかフラフラと歩いて探すことにした。
「デイヴィッドか?」と名前を呼ばれたので振り向いた。
一瞬誰だろうと思ったがすぐに思い出した。「ロイか?」
「そうだよ。元気にしてたか?」
そこにいたのは、ロイ・シュナイダー。同じ学校に通い、よく一緒に悪さした親友だった。村の雑貨屋の息子である。
「ああ、お前は?雑貨屋継いだんじゃないのか?」
「俺も元気だよ。その買い出しでよそに行っている間にこの有様さ。お前の方こそ日本で英語の先生やっているんじゃなかったのか?」
「ああ、久しぶり帰ってきたら村に入れなかった。何があったか見たかい?」
「いやあ、あまりにありえない光景だったから、いまだに頭の処理が追いつかないよ…」
「お前の親父さん達も中にいたのか?」
「親父もお袋も、後嫁さんと娘が中に…」それまでの笑顔が急に暗くなる。
「そうか、すまない。無理するな……」と言ってデイヴィッドはロイの肩を叩いた。「俺も親父とお袋と妹がいたはずだが、連絡がつかないんだ」
「買い出しに行く前に、お前の親父とお袋さんには挨拶をしたよ。その時は元気そうに見送ってくれたよ」
久しぶりに親友に会えた喜びと家族の心配とでお互い、笑顔である様な泣き出しそうである様な変な表情になっていた。
それから、昔話や近況報告などをして話あかし1日が終わった。
ここに来て3日目、コンテナのドアを叩く音が聞こえた。
ドアを開けると大柄ないかにも屈強な軍人ですという制服姿の黒人男性が立っていた。階級章は少佐だった。
「デイヴィッド・ジョーンズ?Ph D?」と少佐
「そうだけど…」
「ジョナサン・メイヤードだ。私について来てほしい」
言われるがまま、少佐の自らが運転するジープで一般居住区を離れ、村の方へ向かって行った。本来ならお世話係が迎えに来てという感じだと思うのだがと思いながら、デイヴィッドは助手席に座っている。
「あれが見えるか?」
「あれって…村を覆う霧のドームのこと?」
「そうだ。あれに我々は悩まされいる。我々に協力してほしい」とメイヤード少佐
「少佐自らお出迎えで、私に何をしろと。PhDと言っても私の専門は量子物理ですよ。こんなところでお役に立てるとは思いませんが?気象学の専門家の方が良くありませんか?」
「そちらは既に手配済みだ。我々には多方面の知識と知恵が必要なのだ。それに君はあの村の出身だろ?」
デイヴィットは頷いた。
ジープは歩哨が警戒するいくつものコンテナが連結された施設の前で止まった。でかいパラボナアンテの近くのコンテナだった。電源車両や各種特殊車両が周辺に停まっている。かなり大規模な施設で、通路のような物が霧の中まで続いている。歩哨が少佐に敬礼する。少佐は答礼し、IDカードを見せて「客を案内して来た」と言うと歩哨は、指揮所の建物の扉を開けてくれた。
中に案内されると、休憩室の様な場所に通された。白基調の部屋に長テーブルと椅子が設置されていて、飲み物などのベンディングマシーンが置いてある。
そこには先客が5名いた。
「とりあえずここで待っていてもらえるか?」とメイヤード少佐は言うとデイヴィッドを残してどこかに行ってしまった。
残されたデイヴィッドはとりあえず中へ入って「こんにちは」と先客に挨拶した。
それに頭頂部の禿げた小太りで眼鏡をかけた年配の人の様さそうな男が応じて、「やあ、私はライオネル・ハッシュビー。よろしく」と言って立ち上がって右手を差し出した。
デイヴィッドは、その手を取り握手した。「デイヴィッド・ジョーンズ」と名乗った。
ライオネルが「なんだか、皆んな拉致されるように軍にこちらに連れて来られたんだが、ここに着いても、誰も何も説明してくれなくてね。何か聞いてる?」と訊いてきた。
デイヴィッドは首を振った。
「そうか……。とりあえず皆んなの紹介をしよう」とライオネル。「彼女はミランダ・オコーネル」ちょうどライオネルの右隣に座っていた女性を指していった。
「はい、ミランダよ」とブロンドで細身の女優と言われても疑問を持たないような容姿の美女が椅子に座ったまま手を振った。
さらにライオネルはミランダの右手に座っている者を示して、「ドナルド・ドーリットル」と紹介した。
「こんにちは、ドナルド・ドーリットル。ドニーと呼んで」仕草とアクセントからいかにも感を晒している。ミランダよりも女性らしい仕草である。
「私の向かいに座っているのがイ・ハジュン」
「イ・ハジュンです」風貌はKpop男性歌手かと思うようで若々しい感じの好青年がぺこりと頭を下げた。いつも日本人に囲まれていたデイヴィッドには東アジア人と言うだけで安心感があった。
「その隣がマギー・ペレス」
「マギーです。異常が発生してすぐに、ここに来て気象観測していたのだけど、なぜかMPに拘束されてしばらく監禁されてました」ととんでもな状況を明るく暴露するマギー。黒髪で丸メガネをかけたヒスパニック系の女性だ。見た目ティーン見えるが、学者ということはそれなりに歳は言っているんだろう。
「それぞれ、言語学、数学、生物学獣医師、気象学の専門家らしい。私は化学の専門だ」とライオネル。
「私は、量子物理ですが、学位を取得した後は、研究もせずに日本の小中学校で英語の先生をしていました」デイヴィッドは答えて、空いている椅子に座った。
そしてお互いの情報交換をして、過ごしていると、2時間ほどして、別室に案内された。
「この赤い境界線はなあに?」とドニー。
「ここから先が、謎の霧に覆われた空間になります」と案内する兵士。
「大丈夫なのですか?」とライオネル。
「気密は完璧ですので大丈夫です。それに霧自体には何も問題はないと聞いています」
そして案内されたのは、割と広めな会議室だった。
会議室は、木目調の壁と天井そして床にはちょっと高そうな絨毯が敷いてある。楕円形のテーブルでそれぞれの席にディスプレイとマイクが設置されており、奥の壁には大きなディスプレイがあった。今は何かのエンブレムが表示されている。デイヴィッドは見たことのない部隊章だなと思いながら、席についた。
数分して、制服を着た軍人が4名入って着た。
ディスプレイを背にジョナサン・メイヤード少佐が威厳を持った表情で座った。
メイヤード少佐から見て右手に制服組み、左手にデイヴィット達私服組が座った。
「皆さんこんにちは、私は米陸軍で科学部門を預かるジョナサン・メイヤード少佐だ。皆さんがなぜここに呼ばれたのは説明する前に、我が方のスタッフを紹介しよう」とメイヤード少佐が言った。
それが合図だったかのように、メイヤード少佐に近い席に座っていた兵士が立ち上がった。
「レイチェル・アッシュフォード大尉です。気象学が専門です。ペレス博士の論文も拝見させていただいております。ご本人にお会いできて光栄です」と自己紹介した。赤髪の美人だが科学者というよりやはり軍人らしいと言うかきっちりした感じの女性である。
いきなり名前を呼ばれたマギーは、一瞬「え、私?」っという驚きの表情を見せたが、すぐに照れくさそうに眼鏡をいじって誤魔化している。
アッシュフォード大尉が座ると、隣の見た目からインド系と分かるアッシュフォードより頭一つ低い感じの男性が立った。
「クリシュナ・アレックス・シン中尉 情報科学専門です」と簡潔に伝え席に座る。
そして隣の男性が立ち上がって「アーリフ・モハメド・フセイン中尉 医師です」と自己紹介した。
アッシュフォード大尉はいかにも落ち着いた指揮官タイプという感じの大人の女性であるが、シン中尉とフセイン中尉は教育期間を終えたばかりのような新米兵士のような雰囲気がある。
「私の専門は機械工学だ」とメイヤード少佐。いや、見た目詐欺だろとデイヴィッドは思ったが口に出さなかった。メイヤード少佐のその体躯と醸し出す雰囲気はどう見ても歴戦の兵士だ。
「そして、ジョーンズ君」とメイヤード少佐が言った。
突然名前を呼ばれてデイヴィッド驚いて思わず席を立ってしまった。メイヤード少佐がその反応を見てニヤリとした。「やはり、条件反射的に身体が動くようだな」と言って、「ジョーンズ君、君には軍に復帰してもらう。階級を大尉に昇格、我々と民間科学者達との橋渡しをしてほしい。彼は量子物理の専門家だ」
皆の顔がデイヴィッドに向く。反射的に“気をつけ“をしてしまった姿勢のまま、なんと答えていいか思案したが、突然のことで、頭の回転が追いつかず、「はい少佐」というのが精一杯だった。
「さて、君たちをここに呼んだ理由についてだが……まずはスチルを見てくれ」
メイヤード少佐の後ろの画面とそれぞれの席にあるディスプレイに写真が映された。
「原因は不明だが、霧の奥に入ると電子機器は全て使えなくなる。今我々がいる場所は、霧の中でも電子機器が使える境界線近くにいる。そして、これらの写真は、フィルムカメラによって撮られたものだ」
ディスプレイには、静止画のスライジョーが流れている。
兵士たちが、探索しながら撮ったであろう画像で、作業をしている兵士の姿などが映し出されている。
「ご覧の通り、霧でその全体像は掴めない状況だ。ただ、分かっているのは、村が丸ごと消失しているということだけだ。かつて村があった場所は、大きなクレーターができている状況だ」
デイヴィッドの血の気が引いた。
「親父時や妹は? 住人は?」デイヴィッドが震えながら言った。ようやく中の状況が分かったと思ったらこれだ。
「それについては、順を追って説明する。現在、ここでは住民の安否は確認されていない」
そして一枚のスチルで画像が止まった。
「軍の捜索によって、かつて村の中心地だった場所で、これを発見した」
そこに写っていたのはボヤけた黒い塊だった。
「これは…なんですか?」マギーが言った。
「写真では、このようにボヤけた黒い靄の塊に見える。だが、実際に人間の目で見ると違うものに見えるのだ」
次に映し出されたのは描画だった。まるで楕円体の岩が描かれていた。その大きさが分かりやすいように、その側に人が描かれている。人の身長の三倍強と言った大きさだ。幅は一番広いところで6人ほどの身幅といったところか。
「似たような絵画をどこかで見たような気がする」マギーはディスプレイに顔を近づけて、凝視する。
「ルネ・マグリットだっけ?」とミランダが言った。
「そう、それ」
「なぜ、目と写真とで違うのですか?」ライオネルが言った。
「おそらく、この霧の中で電子機器が使えないことと関係しているのではないかと思われます」とシン中尉。「人間の脳は電気と化学反応によって情報を処理しています。この電気的な処理過程でなんらかの影響を受けていると思われます」
「それって、精神障害を起こしかねないのでは?」とイ。
「今のところ、記憶障害や身体行動障害などの人体に大きな影響は確認されていません。トラウマ的な状況も確認されていませんが、時間経過によって影響があることも想定されますので、この霧の区域にいる間は、私を含めた医師が定期的な問診を行います」とフセイン中尉。
「次の映像を見てくれ」とライオネル
「えっ?これって……」とドニー。
ディスプレイに映し出されたのは、消えた村の映像だった。しかも今までの静止画と違って動画だった。
「これは向こう側の映像だ」メイヤード少佐
「向こう側?」
メイヤード少佐は頷いて、「おそらく、次元的な変異というか別の空間につながっているのではないかと思われる」と言ってデイヴィッドを見た。
「アインシュタイン=ローゼン・ブリッジ」とデイヴィッドが言った。
「アインシュタイン…何?」とイ。
「ワームホールなら聞いたことあるかい?」
「あのスター⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎のワープとかの話ですか?」
「まあ、その一種だな」
「軍の物理学者も同じ見解だ。だがそれを証明する術がない。観測ができないのだからな」
「しかし、物が通り抜けられるほどの安定したものが存在するとは…。つまり村は、ワームホールに飲み込まれてどこか別の空間に飛ばされたということですか?」とデイヴィッド。「村人も一緒に……」
「おそらく、その通りだ。先ほどの岩のように見える物の片面は平面に切り取られたように見えて、その平面の中に入ることができる。いま見てもらっているのは、UGVで自動探索している範囲の映像だ。見てもらった通り向こう側では、電子機器も使用可能だ」
「何か荒れているけど、人の姿は?」とライオネル。
動画に映される電柱が倒壊していたり、建物の窓や壁がところどろ破壊されているのが窺える。火や煙は確認出来ないが焦げ跡も見られる。
「人の姿は確認されていません。建物などに破壊痕がありますが、これがこの空間に飛ばされた時に起きた痕跡か、その後、治安的になんらかの混乱があったのかは分かりません」シン中尉が答えた。
「今現在、UGVで周囲の捜索が行われている。その結果問題がなければ、人を投入しての捜索救助へ移行する予定である。この捜索救助に諸君等に参加してもらう」
「つまり我々も向こう側に行くと?」
「その通りだ。特にジョーンズ大尉には、村出身者として、地理的なアドバイスもお願いすることになる」
「人は通れるの?」とドニー。
「牛は無事に通って、戻ってきている。生体が通り抜けても問題はないと予測される」メイヤードは時計を見て「現在11:00、レンジャーアルファ班が現地に突入し、大気の採取や安全確認をしているはずだ。その採取された大気の分析が終わり、帰還したレンジャーの健康診断などで安全が確認されたならば、作戦が実行に移される。早くて、明日の実行になるので、それまでの間、チームの連携を図り、村の地図の確認とそれぞれの装備の受け取り備えることにする。…と堅苦しいことはこれくらいにして、とりあえず皆で昼食を取ろうではないか。食堂まで案内しよう」とメイヤード少佐は笑顔で席を立って、皆を食堂まで案内した。




