【あっち こっち そっち どっち】
〈チュンチュン、チュンチュン〉
「んぁ…やば…そのまま寝ちゃってたか。ていうか異世界にも雀っているのか」そう言いながら振り返ると、真後ろで女神がチュンチュン言っていた。
「あのさ…朝から何してんの?」
「すずめがみ」
「え?」
「雀と女神ですずめがみ」
「あー、ちょっと待って。頭回らない」
「すずめがみ!」
「だーっ、うるせぇな!わかったよ!すずめがみ!」
「・・・」
「・・・」
沈黙のあと、見合せた顔にこらえきれなくなり「プッ…」と口から空気が漏れ笑い合う。
「まったく…朝から笑わせるなって」
「だってあの雀ってのが可愛かったんだもん」
「可愛かったから何?」
「真似してた」
「あぁ…そうっすか…」
「つうか、可愛かったなら真似なんかしてないで外行って見てくればいいじゃん」
「ちがーう!そういうことじゃないし!」
そう言いながら片手に持っていたパンを口に運ぶ。
「んー?よくわかんないけど見たい訳じゃないんだ?」
「モグモグモグ…別に…モグモグ…見なくていいし…モグモグ…そもそもいないし…ゴクン…雀」
「食べながら喋るな、よく聞き取れなかったけど最後何て言った?」
「いないよ、雀」
「この町にはいないってこ…」
「この世界にいないよ」
「そう…なのか…当たり前にいるもんだと思ってた。そりゃそうだよな…元いた世界とは違うって認識改めないとな」
「それにしても、普段は何とも思わなかったのに見れないとわかると見たくなるな、雀」
「あー、あれよね、無くしてから気付いても遅いってやつ?」
「そうそう。まぁ雀は見れなくなったけど…」
「んー?雀は?というか何もいないけど?」
「え?」
「そもそも、わたしはあんたの記憶みるまで人間しか知らなかった訳だし」
「動物…いないの?」
「木とか葉っぱはあるよ」
「そんなこと聞いてないんだわ」
「んー、分かんないけど何かはいるんじゃない?」
「自分が作った世界なのに分からないって…あっ…!」
「え、なに?」
「一つ問題が発生した」
「な、なによ?」
「非常にヤバイかもしれない」
「そ、そんなに?」
「俺が昨日食べた肉は何だったのか…」
「・・・やっぱ、あんたの話は適当に聞いおく方がいいみたいね」
「何でだよ!何の肉か分からないの怖いじゃん?!」
「あ、そっすね」
「真似すんなよ、あーどうしよー死ぬかもしれない…そういえば何か身体も痛いし」
「はぁ…あんたも大概うるさいわね。それに身体が痛いのは、昨日そんなとこで寝てたからでしょ」
「…いや、けど、やっぱ体調が」
「もう、わかったわよ!店主に聞きに行こっ、それでいいでしょ」
話を聞いてみると、女神も知らない、よく分からないが動物自体はいるらしい。
そしてその日は[色々あって]時間をすぐに過ぎ去らせる。
-翌日-
ザッザッザッ…。
「着いたっぽいなー」
「はぁ…疲れた…ここが森の入り口かな?」
「多分そうだと思う、俺も言葉分かればもっと詳しく聞けただろうけど」
「だ、大丈夫! わたしを信じなさい!」
今、俺達は二人で町からけっこうな距離のある森の入り口の前に立っている。
「それにしても木でっかいなぁ…」と見上げる。
「うん、町とかその近くじゃこんな大きな木は無かったもんね」
「…木がでかいからか巻き付いてる蔓も太いな」
「蔓?あの紐みたいなやつ?」
「そうそう、まぁ丈夫な植物ってことくらいしか知らないんだけどね」
「ふーん…何か…この世界に来て何度か思ったんだけど」
「なにを?」
「わたしが作った世界なのに、実際に来てみると結構違う感じがするなって」
「みんな生きてるんだから、最初はどうだったか知らないけど、成長するのは当たり前なんじゃない?」
「成長か…考えたこともなかった」
昨日は宿屋の店主に話を聞いた後、宿屋に泊まらせてもらう代わりにと、そのまま頼まれ事や手伝いをしたのだが…。
そんな都合よく事は運ばないことを知った一日となった。
そして今日は昨日とは違い動植物を集めてくれと頼まれた。
「やっぱやめない?危ない感じするし」
「でも他に出来そうなことなかったじゃん?主に俺じゃなくてメガちゃんが」
「黙れ!」
「心配して言ってるんだから、たまには本気で話聞きなさいよ」
「って言ってもな…お金無いんだから手伝えるものは手伝わないと」
「だからって…これは危険なんじゃない?ちょっと考えようよ」
「時間もったいないでしょーが。 普通は、料理も掃除も接客もできない、仕舞いには寝落ちって、怒られてもいいレベルだからな」
「あれでも一生懸命手伝って…」
「そうかもだけど結果的には邪魔にしか…」
「うるっさいな!やったことないなりに頑張ったのに……そんなにボロクソに言わなくたって良いじゃん!」
持ってた荷物を放り投げ森の中に走り去っていく。
「あっおい!1人で行くなって…」
(はぁ…言い方ミスったな…)
荷物を拾い集めたりなどして準備を整え、走り去った方に向かい小走りになる。
森の中-。
落ちている細い木の枝は時折パキッと乾いた音を鳴らす。
「…何にも知らないくせに!何もあんなに言わなくたって…」そう言って無言になる。
徐々に歩く速度を落とし「違う…」と呟くと足を止め女神の周りの音も止む。
「わたしは記憶見て彼を知ったけど、わたしのことは話しすらしてない…」
しゃがみ込み「…ど、どうしよ…でも、先ずはわたしから謝らなきゃ」と一人言を言っていた時-。
〈「オ…」ガサカザッ…〉
突然後ろから音が聴こえ同時に背後を何かが通る。
背後を向くことが出来ないまま、声を漏らさないように自然と手は口を塞いでいた。
しばらくそのままでいると、通った何かは動きを止めたのが分かった。
恐る恐る振り向くと、
二足で立ってはいるが背中をこれでもかと丸め、その腕はブランと垂れ地面に着きそうなほど。
皮膚は鈍色の魚鱗のようなものに覆われてる。
その獣とはかけはなれた物体は何かを探すように辺りを見渡しはじめた。
見渡す中で明らかに自分も視界に入ったはずなのに気付かれなかった。
(もしかして目が見えてない?)
「…たく、どこまでいったんだよ」
女神が走っていった後を追うように走っていると、フッと視野の端に異様さを感じ足を止めそっちを見る。
「…んー」と目を細めゆっくりと見ていくと、しゃがんでいる女神が見えた。
「おーい」と呼び掛けるのを途中でやめ近くの茂みに入る。
女神の近くを見知らぬ生き物が立っていたからだ。
「なんだあれ…つうか何であんな近くでしゃがんでるんだよ」
[どうする]という言葉だけが頭を埋め尽くす中で、少し落ち着いてきた脳の思考を切り替える。
その生物の正体は分からない。
女神に向かいながら、生物の情報を得るため行動を注視しているといくつか分かった。
[あの距離の女神がわからないなら目視できないんじゃないのか]
[さっき一瞬だけあげた俺の声や、今も木の枝を踏む音にも反応しない]
「視覚、聴覚以外で今確認できるのは…」
地面に転がる石をいくつか拾いその生物に向け投げる。
「きゃっ?!な、なに?」
生物に当たらず地面に落ちた石は女神の近くに転がる。
「一回で当たるハズないか…でも石に気付いた様子は…は?」
今までその場で周囲を探るように首を回していただけのそれは、明らかに女神の方で頭を止めている。
何かを考える間もなく再び石を投げる。
「ドンッ」と鈍い音を鳴らしたそれの動きや反応は変わらない。
「触覚もないのか?というかじゃあ女神の何に反応したんだよ」
そこで気付く。今はあの生き物より女神の動きの方が重要なんじゃないかと。
発見した時と、今とで何が違う。
思い返す-。
しゃがんで…口に手を当てアレを見上げていたな…。
今もしゃがんでいるのは同じ。
けどさっき俺が石を投げた時に驚いたのか、今は口から手を離している。
なら口に手を当ててることに何か…。
音が違うなら声ではないはず。
その他といったら…息…なのか?
その生物の顔を正面から見てしまいそして気付く。
その顔にあるのは口のみだった。
だが、目も鼻も耳もあったであろう場所は赤黒いシミのような形跡があった。
小さく「ヒッ」と言うと女神は目を閉じ顔全体を手のひらで覆い、震わせる体を丸め込み更に小さくなる。
だがそれが良かった。
再び手は口を覆ったことで生物は女神に近付き始めてた足を止め、先程までのようにまた首を回し始める。
「ウッウッ…一緒にいてくれるって言ったのに…ばか…」
「悪かったな」
「…えっ?」
僅かに光が見えるがそれでも夜になったかのような暗闇の中にいた。
「あんま動くなよ、狭いんだから」
「狭い?」
それを聞いて手を伸ばすと伸ばしきる前に何かに触れた。
「何これ…?」
「ん?籠だよ、宿屋のおじさんが持たせてくれたやつ」
「え、今籠の中にいるの?」
「そう」
「あ、あのさっきは…」
「あー、そんなのあとあと、それよりアイツ動いてるな」
ガサガサと音が聴こえる。
「ど、どうするの?こんな籠なんてすぐに壊されちゃうよ」
「んー、多分大丈夫、ほら音よく聴いてみな」
静かに聴いていた音は徐々に小さくなり、しばらくすると聞こえなくなった。
「ふぅ…とりあえず一旦は凌げたか」
「う、うん、いなくなったみたい。ねぇ何であれは襲ってこなかったの?」
「ここまで来る間に分かったことがある」
「弱点が分かったってこと?」
「弱点…ではない。あんなの倒すとか絶対無理だし」
「じゃあ何?」
「弱点じゃなくて、アレに対しての強みなら分かった、それは…」
「ちょっと待って、それより足がそろそろ限界…」
俺の肩に手を置き立ち上がろうとするも、痺れた足には力が入らないのか小鹿みたいに足をプルプルさせる。
「お、おい大丈夫か?」
「あ、無理かも」
そう言うと力なく足は崩れ胡座をかいてる足にお尻を落とす。
「あっ…」
「どこ座ってんだよ」
「じ、事故だから!それに狭かったからこっちの方がいいでしょ!」
「声でかいって」
「あっ、ごめん。大丈夫かな?」
「まぁ声は大丈夫だろう。恐らくアレは呼吸というか、息にしか反応してこないと思う」
「なんでそんなこと分かるの?」
「見る、聞くが出来ないのは分かってたか?」
「それは何となくは」
「それプラス、触れるのも多分反応しないと思う」
「?」
「さっき石投げてアレに当てたけど無反応だった」
「・・・あっ、あの石ってあんたが」
「そうそう、外れてメガちゃんの方に転がったでしょ?」
「はぁっ!?」と言いたげな顔でこっちを見る女神に、
「悪かった、でもあれがあったからここまでこれたわけだし」
「どういうこと?」
「石が転がってきたとき声だしただろ?」
「うん」
「その時、最初は声に反応して動きが変わったのかと思ったけど、」
「その後顔を手で覆った時、また動かなくなったんだよ」
「え、そうだったの?」
「そう、それで顔を覆ったとき口も一緒に覆われて」
「あっ!そういうことか」
「確かに…言われてみれば口塞いでたわ…それでこれからどうするの?」
「本当はすぐにでも森を出たいけど、何かそのまま出れるとは思えないんだよな…だから少しこのまま様子見」
「うん、わかった、とりあえずじゃあ」と言いながら頭をこっちの胸に寄せると、スゥスゥと寝息を立てはじめた。
「そりゃ疲れたよな……俺も疲れたわ…」
森の中に不自然に置かれた籠の中。
頭を寄せ合い眠りにつく二人の空間は、
外とは断絶された安らぎに包まれる。
~次回~
【旅は道ずれ、世は情け知らず】




