【旅は道連れ、世は情け知らず】
眠ってしまっていた二人を起こしたのは微かな音だった。
「ねぇ、起きて…起きてってば」
「…ん、あ、ごめん、寝て…」
「シーっシーっ、静かにして外聴いてて」
耳を澄ますと微かに音が聴こえてくる。
「…これ何の音?」
「見えないから分からないけど、何か歩いてる?」
「…ぽいね…さっきのが戻ってきたのかな…」
「うーん、どうすっかなぁ」
「どうもこうも動いちゃダメだからね」
「いやでもさ」
「絶対ダメだからね」
「わかったって」
「んー…気のせいかな…何か足音多くないか?」
「…多いかも知れない。でも何か…」
「違和感、あるよな?」
「うん」
「あ、そうか」
「何かわかった?」
「これ、四足歩行じゃないか?」
「あぁだから同じようなタイミングで歩いてる感じがしたのかぁ」
「出す足のテンポがズレて聴こえたのはゆっくり歩いているからかな」
「じゃあさきのとは違う別の何かかな?」
「恐らくは…けど、どっち道いつまでもこうしてはいられないな」
「ど、ど、どうするの?」
「メガちゃんは籠の中にいなよ?」
「な、何でよ、私だって」
「俺、一般人」
「うん?」
「さっきのと戦うのも無理だし、何かあっても助けてやれない。だから分かるでしょ?」
「…わ、わからない…!」
「あのねぇ」
「一緒にいてくれるんでしょ。だったら…最後まで一緒にいなさいよ」
「…はぁ、今それ言うの反則だろ」
「言われたくなかったら傍にいなさいよ」
「わかったよ…とりあえずそれなら…うーん確かこの辺りに…」
籠を少しだけ持ち上げ、できた隙間から手を出し右へ左へと動かす。
「んー…確かこのあたりに……お、あったあった」
籠に引き入れた手には鎌とロープがつかまれている。
「あ、それ、そんな近くにあったんだ」
「そ、急いでたから近くに放っておいたんだよ」
「それどうするの?」
「まずこのロープをメガちゃんに結びます」
「はい?」
「俺が引っ張るからメガちゃんは籠被ったまま着いてくればいい」
「い、いやあんたはどうするのさ」
「え、もちろん外に出て」
「一人で危ないでしょ、一緒に」
「二人で籠入ってたら前見えないでしょ」
「それはそうだけど…」
「大丈夫、これあるし」
得意気に鎌を見せる。
「そんなのであんなのと戦えないでしょ」
「うーん、まぁそうだろうね、でも何もないよりはマシでしょ」
「…よし、結べたからいくか」
女神の腰にロープを結び終え立ち上がり、自分だけ籠の外にでる。
「とりあえずはいなそうかな……俺が引っ張り始めたら歩き始めなよ」
「うん、わかった」
女神から少し離れてロープを張り合図を送る。
(さて、息を止めながら歩かないとな)
少ししたら籠に戻り息を整え、また外を歩くを繰り返す。
しばらく何事もなく歩いていると、
後ろからロープを引っ張られ振り向く。
「…!?」
そこには下から籠の中を覗き込むようにしているソレがいた。
ヤバいと思ったのと同時に身体は女神の方に向かおうとすると「イヤァァァア」とアホほど大きな叫びが籠の中からし、次の瞬間ソレが吹き飛んできた。
よっぽどビックリしたんだろう。
咄嗟に足を出しソレの顔を蹴飛ばしたことが、ソレの顔見てすぐに分かった。
口に女神の履いていた靴が刺さっている。
「メガちゃん、ナイス!」
すぐさま籠をとり、苦しそうにバタバタしているソレの頭から籠を被せる。
「あとは全力で走るよ!」
女神に巻き付けてたロープを鎌で切ると、手を引いて無我夢中に走り出す。
だが片方の靴がなくなり走りにくくなったからか流石に速度が落ちる。
「よっ…と、しっかり掴まってなよ」
そう言うとお姫様だっこをして走り出す。
「ちょっと、何してんのよ!?は、恥ずかし」
「そんなこと言ってる場合じゃない」
「・・・」
そうこうしているうちに前方の視界が開けてくる。
「も、もうちょっと…」
「あ、後ろきてるきてる!」
「あと、どのくらいで追い付いてきそう?」
「えっと…出口の方が近いからこのままいけば…え」
「な、なに?」
「と、とんだ…」
ジャンプして飛び掛かってくることが想像でき、すぐさま目前に迫っていた出口へ向けて女神を放る。
「何してるのよ!」
そう言いながら森の外に出た女神を見て、今度は出口付近にあるデカイ木の下を指差し言う。
「そこに蔓があるから引っ張って!」
森に入る時に見ていた太い蔓。
先に女神が入っていったあとに、念のため準備をしていたもの。
蔓の巻かれていた木から、その反対側に立っている木へと…そう、森の出入り口を塞ぐような形で蔓を伸ばして垂らしておいた。
気付いたらしい女神は蔓の端を手に取り思いっきり引っ張ると、走って向かう俺の目の前に蔓がピンと張られる。
その時すぐ背後に気配を感じ、すかさずスライディングの形をとる。
蔓の下へ滑り込むと、後ろで鈍い音と共に「ビィィギィィィャ」と声が聴こえバッと振り向くと、ソレは地面に倒れ首を押さえバタバタしていた。
ここしかないと思い手にした鎌を振り上げた時、ソレの顔を見て手が止まった。
「な、なんでやめるの!?今が」
そう言いかけた女神も言葉が止まる。
「え…顔がある…?」
「だね、それに…何て言ったらいいか分からないけど、何か悲しそうな感じがする」
「…」
「どうするの?」
「どうって…こんな表情見せられたらなぁ…それにこいつはもう襲ってこない気がする。」
「うん…わたしもそう思っちゃった」
「…お、たまには意見あうじゃん!」
「は?そもそもいつもあんたが間違ってるんだからね!まったくもう…」
「さて、と…それじゃあ帰ろっか!流石に疲れた」
「うん、帰ろう…一緒に」
「いやぁそれにしてもあれ何だったんだろうな」
「全く分からないね…あ、あのさ」
「まさか俺が食べた肉あれのじゃないよな?嫌だよあれだったら」
「…そんなことより、さ…」
「早く帰ってとりあえず風呂だな!メガちゃんも…っていきなり何だよ」
2、3歩後ろを歩いていた女神が急に背中に飛び乗ってきた。
「あ、靴片方ないの忘れてた、足痛かったか」
「…」
「ん?」
女神の額が背中にピタリとつく。
「どうした?なんか…」
振り向こうとして何か言われる。
「…………るな」
「え?何て言った?」
「こっち見るな」
「何で?どうかした?」
「うるさい…みるなよぉ」
弱々しく、少しだけ震えている声。
「…なんかあったのかー?」
「もう……無理しないでほしい」
「いや、あれくらいなら」
「死んだかと思った!」
「さっき出口で追いつかれて…死んだと思った…」
「そんなに簡単に死なないって」
「約束して」
「ん?」
「もう絶対あんな無茶しないって」
「んー…俺だけだったらしないかな」
「…」
「はぁ…メガちゃんが無茶しなければ俺も無茶はしない、それでどう?」
「…今はそれで納得してあげる…あと、ごめんなさい」
「え、なになに?ある意味一番恐いんだけども」
「どういう意味?」
「素直に謝るとか恐怖だろ…」
「・・・もういい!あんたはこのままおんぶしてなさい!」
「しょうがいなぁ…それにしてもあの時の蹴りスゴかったな」
「…言わないでよ!」
来たときは二つだった影…そして今、町へと向かっている影はたった一つ。
けれど二つだった時よりも大きくなった影は、まるで二人の絆を映しているかのようだった。
町の入り口に着くと勢いよく背中から飛び降りた女神。
「やっと帰ってこれたー!…ってあれ?あいつどこ…あ、いた」
「おーい、そんなとこで何してんの」
「ん、あぁ、あそこに子供いるじゃん?」
「んー?ああ、あの女の子?」
「そう。何かさこの町の子じゃないなぁって」
「なんかキョロキョロしてるね」
「迷子かな?」
「あのさ…あんたが優しいってのは分かってるけど、あんまり余計なことに首突っ込まないほうが良いんじゃない?」
「でも迷子だったら余計なことって割り切れないじゃん?」
「あー、もう、わかった、声かけてみよう」
「メガちゃんも優しいじゃん」
「う、うるさいなぁ、近くにいるやつのお人好しが移ったんじゃないですかね!」
「いつになったら素直になるのかねぇ」
「何か言った?」
「んーん」
あたりを見渡している少女に声をかけようとして女神に止められる。
「声かけるのはいいけど、あんた言葉通じないでしょ」
「あ…そうだった、どうするかなぁ」
「…たぶん一度だけなら使えるかも」
「ん?」
「いいから着いてきて」
「少しいい?」
「はい?わたしですか?」
「うん、あのねいきなりだけど少し目を閉じてもらえるかな?」
「え?」
「あー、変なことはしないから安心して!わたし実は…」
少女から俺に視線を変え聞いてくる。
「ねぇ、何て言おう?」
「…無策で突っ込んでくのやめてくれない?」
「い、言うこと忘れただけですが?」
「あ、そ。とりあえずお祈りとか言っとけば?」
「あー、コホン、私は色々な人にお祈りしてるの。だからあなたが嫌じゃなければさせてもらえる?」
「あ、はい、ありがとうございます」
「すげぇな、俺、神が嘘付くの初めて見たわ」
「うるさいわね!ものは言いようなの!それよりもういいよ」
「何が?」
「この子だけなら普通に会話できるよ」
「ホント?」
「話してみて」
「何か困っているのかな?」
「あっ、す、すみません、少し道が分からなくて」
「お兄ちゃん達もまだ来たばかりでまだ全然分からないけど、一緒に探そうか?」
「え、いいんですか?」
「人数増えたほうが楽しいじゃん?」
何故かムスッとする女神が呟く。
「せっかく二人での旅だったのに」
「お兄ちゃんの名前はカオルっていうだけど、お嬢ちゃんは何て呼べばいいかな?」
「あ、遅くなりました、私はセシリア・ティールです。呼び方はお好きに呼んでください」
「あ、そう?じゃあセティにしようかな」
「おい、セティってなんだ」
「セシリアの セ とティールの ティ で」
「なるほどそうゆう…って違う!私の名前とえらく違くないか?」
「あ、あのお姉ちゃんの名前は?」
「あ、こっちの彼女はメガ…」
口を塞がれる。
「なんだよ!?」
「メガちゃんはやめろ」
「だって名前ないんでしょ?」
「いい、自分でつけるからあんたは黙ってて」
「私の名前は…ブツブツ…えーっと、あ、そうだ!私の名前はミルだ」
「ミル?なんで?」
「ゴニョゴニョゴニョ…」
「あ~なるほど?…ていうか何で最初と最後を」
「ふ、ふん、聞きたいか、しょ、しょうがないなぁ」
目をつぶりながら得意気に話はじめる。
「いいか、あんたの名前の最初と最後をとったのは、あ、あれだ、一緒にいると言ったんだから、それはつまり、あんたの全ては私のものって意味で」
パッと目を開けると目の前に知らない男が困惑した表情で固まっている。
「え……?あんただれ?」
「え?つ、通行人ですかね?」
「…もういっていいよ」
「え?」
「早くどっかいきなさいよ!てかあんの野郎はどこいった!」
「おー、すごいなセティは特別な力があるんだな」
「いえ、水を少しこの杖から出せるだけで」
「いや、すごいって。俺もなー道具があれば口から煙を出せ…」
「おいこら…」
「あ、メガちゃ」
「いたいっ!グーはダメっ!」
「うるさい!名前はミルだ!ってそうじゃない、あんた何黙って移動してんのよ!」
「あ、いやさセティが水だせるって聞いて、そんで花に水上げて…」
「あんた本当にいい加減わたしを適当にするのやめなさいよ!何で知らない人に『あんたの全ては私のもの』とか言わなきゃいけないのよ!」
「え…何してんの…」
「いや、あんたのせいなんだけど!?ばかなのか!?」
「何をそんなに怒ってるんだよ…ちゃんと聞くから話してみなって」
「だれが話すか!二度といわないわ!」
「フフ、お二人を見ていると何だか楽しい気持ちになってきます」
「セティ、こいつにはあまり近付くなよ、バカ!が、うつるからな」
「・・・そろそろ一回泣こうかな」
「…はあ、で、花に水上げてそれで?」
「あ、えっとですね、お兄さんもわたしみたいに道具があれば口から煙を」
「あーーっ、セティ、ほらこっちの花見てみなよー」
「…うん、やっぱあんたダメだ」
「と、ところで、名前の話だったじゃん?気に入ったんなら俺は良いと思う!」
「聞いてなかったやつは黙ってろよ?」
「はい…」
「ミルお姉ちゃんと、カオルお兄ちゃんは夫婦なんですか?」
「ん?まさかそんなわけムグゥ!」
「あんたはしばらく喋るんじゃないよ」
「ンーンーンーンー」
ウンウンと首を縦にふる。
「さて……セティ…いいかい、私達は、い、今はまだ、けけ、結婚は、して、してな」
「・・・」
「うるさい!黙ってろ!」
「何も言ってないだろ!?」
「いーや、顔が何か言ってた」
「んな無茶苦茶な…」
「フフ、とても仲が良いんですね」
「仲が良いっていうか」
「それ以上くだらないことを喋るならもう二度とタバコは吸えないと思えよ?」
「…お兄ちゃん達はね、とーっても仲が良いんだよ~」
「こいつ…本当にプライドないな…」
「いいな…わたしも…」
「ん?」
「あ、いえ、何でもないです」
「…セティは、一人で旅してるのか?」
「はい、わたしの役目なので」
「役目って?」
「色々な町や村を回って、そこでこの杖から出る水を蒔けば、その土地は100年は豊かになるというお話があって」
「へぇ、そんな伝承?神話みたいな話があるんだなー」
「お兄さん知らないんですか?」
「うん知らないよ、初耳」
「そ、そうですか」
「ふーん、じゃあこれからまた違う町か村に行くってこと?」
「はい、この町でのお務めは終わりましたので」
「なるほどなるほど…」
「ちょっと待ちなさいよ、すごく嫌な予感が」
「ミル!セティと一緒に回ってみよう!」
「…っはぁーーーー、わかってたわよ、そう言うんじゃないかって」
「いいじゃん、それに俺達も目的あった方が旅しやすいだろうしさ」
「…わかったわよ、いいけどキチンと守りなさいよ、私とセティを」
「え、あ、うん」
「なんだその不服そうな顔は」
「ううん、別に何でもないですよ?」
「い、いいんですか?着いてきてくれるのは嬉しいけど…」
「まっ、この人が良いっていうんだから甘えていいと思うよ」
「そうだよ、子供は甘えれるうちに沢山甘えればいいんだよ、メガ…じゃなくてミルだって甘えてくるんだから」
「んーっ!?あんた何言ってんのよ!…まぁでも何だか子供ができたみたいで…」
「これで旅するのに一番の問題だった水は困らなくなるな!」
「・・・もう何も言えないわ」
宿屋の夫婦に道具のことを謝罪し、それから三人で町を出た。
どうやらそんなに離れていない場所にもう1つ町があること聞き、そこへと向かっていた。
「どうしたセティ?」
「い、いえ少し疲れちゃって」
「確かに子供の体力じゃ厳しいよな」
「セティ、おんぶしてあげるから少し休みな」
「ダメ!」
「何でミルが出てくるんだよ、てかいきなり元気になったな」
「そうだ、だから元気な私がおんぶする」
「え?」
「な、なんだよ、わたしだってそのくらいは出来るんだぞ!」
「まぁ俺はどっちでもいいんだけどさ、セティどうする?」
「…あ、あのじゃあミルさんお願いしてもいいですか?」
「ふっふーん、任せなさい!」
「へぇ、マジでおんぶ出来るんだな」
「はぁ?当たり前でしょ!」
「んじゃもう後少しだろうからゆっくり行くか」
「おー」
「でさ…何、この状況…」
「え?」
「いや何で、おんぶしているお前を俺がおんぶしてんだよって話」
「え、だってセティはおんぶされたい、わたしもおんぶされたい、その結果的な?」
「くそぉ…騙された気分だよ…」
「はて?嘘は何一つついてませんが?」
「今日はもう町見えてきたから諦める。でも次はないからな!」
「眠い…」
「いや、もう着くから起きてろよ!つうか寝たらセティ落ちるだろうが」
「あー、もう小さいことで騒ぎすぎですよー?」
「ちょっと大人しくしてな、喋る体力さえも勿体ないわ」
「はーい、じゃあ頑張ってね」
「おんぶのおんぶとか意味わかんねぇな…」そう言った言葉とは裏腹に、この重さが嫌じゃないってことを感じていた。
~次回~
【誰が為の選択か】




