【分からないものは仕方ない】
ここは町…か?
周囲には、そこそこの大きさの家がいくつか密集しブロック毎に分かれ建てられている。
チラチラと人も見かける。
パッと見はヨーロッパ系のような顔立ちで、通りすぎる人達は俺を横目で見ながら足早に去っていく。
そりゃそうだ、そもそも着ている服が全く違うんだから。
そんな風に考えていると立ち話をしている人達の会話が耳に入ってきた。
そちらに意識を傾け聞き耳を立てると、全く理解の出来ない言葉を話していた。
「マジか…英語とかそういうレベルの話じゃないぞ、何だよあの言語…アーとかウーとかしか言ってなくないか?」
どうしたものかと考えている中で別の疑問が浮かんでくる。
(てゆーか、よくよく考えたら異世界にきたのは一旦受け入れるとしてもだ…一体俺は何をすれば良いんだ?)
再びウ~ン…と考え込んだ挙げ句に出た答え…。
「おーい!酒癖悪いゲロ吐き めが…」と叫けび始めるとブワーンと空中に歪みができる。
その歪みの穴から頭と腕を出した女神は
「おいお前、ちょーっとこっちこい!」
と襟首を捕まれ穴に引っ張られると、さっきまでいた空間に戻される。
「オイコラ、公衆の面前で何叫ぼうとしていた?」
「あははは、いやほんの冗談のつもりで、叫んだら出てくるかなぁって」
「本っ当に信じられない人間だな。で、何か用なの?」
「まぁそれもそうなんだけど、その前になんか性格変わった?」
「むしろこれが飾り気無しの本来の私ですけど、なにか?」
「あー…、そうなんすねー…まっいっか。でさメガちゃん、俺って結局何すればいいのさ?」
「誰がメガちゃんだ!あとあんたが何をするかなんて私が知るか」
「何だよそれ…うーん、じゃあとりあえずさ言葉とか通じないと話になんないから何とかしてよ。あれ理解できないよ」
「あんた確か日本とかいう国にいたんだよね?」
「そうだけど?」
「あんたのいた世界には日本以外にも他の国があったでしょ?」
「だね」
「突発的に知らない国に飛ばされたらどうする?」
「そりゃあ困るでしょ、文字も言葉も分からないのは難易度高過ぎ」
「じゃあ仮にもしそうなったら?」
「うーん、身振り手振りで伝えるかな?」
「それと同じようなものじゃん?」
「いやそうだけどさ…言いたいことは分かるけど。でもさ何か出来るでしょ?女神の力的なもので」
「本来は出来たけどね。事実これまでここに来たやつにはそうしてたし」
「え、じゃあ俺も」
「あー無理」
「何でだよ」
「無理なものは無理!」
「だから何でだよ」
「あんたに与えたスキルは強大なものなの」
「え、こんなゴミみたいなのが?」
「何がゴミだ!嬉しいだろ私に会いたくなったら会えるんだぞ!特権だぞ!喜べよ!」
「・・・いや、他の人だったらもしかしたら喜ぶ奴もいるかも知れないけど、俺はここに興味すら」
女神はスッとタバコを差し出す。
「っぱ女神様しか勝たんよなー」
タバコに火をつけフーッと一服してから話を再開させる。
「まぁ言語はともかく、俺はあの世界で何すればいいのかだけ教えてよ」
「私もそれは分からない」
「…んーとさ、他の…過去に来た人らは何してた?」
「知らない」
「何で」
「私の役目は適当にスキル与えて異世界に放り出して終わりだから?」
「…あ、そうすか…。フーッ、じゃあさとりあえずタバコ持ってっていい?」
「あーそれも無理。この世界で生み出されたものは持ち出し不可でーす」
「マジで厄介なんだけど。はぁあ特にやりたいこともないしとりあえずあの世界で何か仕事見つけるのが先か」
「何でよ!?」
「いや仕事しないと食う寝るにも困るだろうし……ん?あれ?待てよ…」
「なによ?」
「…あのさこの世界ならメガちゃんって何でも出せるん?」
「メガちゃん呼びはやめないのね…もうそれでいいわ。まぁできるよ」
「なるほど!じゃあ食う寝るは安心か」
「え?」
「お腹空いたらここにくる、眠くなったらここにくる」
「・・・」
「い、いやそんな睨まなくても…えーっと、そうだほら、女神様は慈悲深くそれに負けないほどの美貌、そして人間風情の話にも耳を傾けてくれて、まさに神!ゴッドオブゴッド!」
「・・・ふ、ふーん、生意気なのはあれだけど、あんた中々分かっているじゃない」
「チョロすぎだろ…」
「何か言った?」
「え、いや流石だなぁと」
「ふふーん、よし特別にスキルの使い方を教えてやろう」
「特別?いやそれは最初に教えてくれないと」
「なにか?」
「いえ、是非聞かせてください」
「女神様に会いたいって心の中で願え」
「ん?それだけ?」
「それだけだが?」
「そっすか…あ、あのさ~、例えばなんだけど、他になんか別のスキルとトレードとか出来ませんかね…?」
「無理。というか何?そのスキルになにか不満でも?」
「ないです」
「よしっじゃあ行っていいよ」
「はぁ…とりあえず適当にやってくるよ」
「そういえば…」
「ん?」
「ちょっと聞きたいんだけど、あんた達人間のほとんどがさ異世界転生って聞いてもあんまり驚かなかったのは何でさ?」
「んー?あれかな、そーゆーのが漫画とかアニメとかであるからかな?」
「漫画?アニメ?」
「そういうのが日本では文化みたいになって存在してるんだよ」
「ふーん、なるほど、だからか」
「なにかあった?」
「日本の人間に限って驚きが少なかったことに合点がいったってこと」
「まぁ人にもよるだろうけどね」
「まぁそれはそれで…」
「?」
「あ、いやね、過去に送った奴の大半は大変な目にあってるだろうなぁと」
「何で?」
「私が与えるスキルと送られる異世界は比例しているからかな」
「比例?」
「そう、簡単に言えば数多ある異世界の全ては色んな神が作っているものなのさ。
転生する先の世界はランダムだけど、それでもあるものが基準になっているんだよ」
「なるほど…スキルか…」
「そそ、あんた頭の回転早いね。まっ例えどんなスキルを与えられても、行き着いた先の世界では、その理の中でしか生きられないってことさ」
「んー?」
「例えどんなに強い力、理不尽な力、権力、財力などを得られるスキルでも、そのスキルの程度に見合った世界に飛ばされるのが前提なのさ。分かりやすく言えば与えられたスキルと同等以上のスキルを持ったものが普通にいるってこと」
「何それ、なんかの罰ゲーム?」
「失礼な。そもそもホイホイ好き勝手できるわけないじゃん、当たり前でしょ」
「神ってか悪魔じゃねーかよ…」
「何が悪魔だ!そんなに都合よく物事が進むなんて有り得ないでしょ。
それにね神は意地悪いのが多いんだよ。
そんな奴らが作った世界だよ?力のインフレとかご都合展開なんて許すわけないし喜ぶわけもない」
「まぁ理解はできなくもないけど」
「まっでもその点あんたはラッキーだったじゃん!」
「ラッキー?」
「ふっふっふー、聞いて驚け!さっきあんたがいった世界は何を隠そう私が作った世界なのだ!そして異世界レベルは下の下だ!」
「異世界レベルってなんだよ、しかも下の下って」
「異世界レベルについては追々教えるとして、何にせよあんたが行った世界は全てにおいてレベルが低いから、あんたでも何とかなるって話」
「何とかならないと困るわ、こっちはゴミスキルしかないわけだし」
「何がゴミスキルだ!」
「つーかメガちゃんが作った世界なら目的くらい教えてよ」
「だーかーらー無いんだってば!」
「じゃあなんのために異世界つくってるんだよ」
「そんなの暇潰しに決まってるじゃん。中にはアレコレ細かく設定とかしてるのもいるけど、私はそういうの面倒くさいし…あっそうだ、一つだけあったわ目的」
「お?」
「あっごめん、人間じゃなくて神側の話ね」
「・・・」
「コホン…では気を取り直して……その目的とは!異世界を作った神を楽しませること!」
「…しょうもねぇな」
「あんたね、ホントその口悪いの直しなさいよ!」
「あーハイハイ、でメガちゃんは俺が何したら楽しめるん?」
「え~っとね、特にないかな私は」
「その回答だと話が振り出しに戻るぞ?」
「だってしょうがないじゃん、別に何も求めてないんだし」
「つーかさ思ったんだけど、メガちゃん、あの世界歩いたことある?」
「何で私がそんなことを」
「もったいなくない?ここも悪くないけど、何て言うか『生きてる世界』の空気っていうのかな…風とか景色とか、自分の作った世界だからこそ見たいとか思わない?」
「・・・そんな風に考えたことはなかったかな…」
「そっか…よしそれじゃあ、とりあえずあの世界旅してみなよ」
「はぁ!?」
「俺だったらウキウキだけどな、自分の作った世界の中を見て回れるなんて」
「…本当に変わった人間だね」
「そうか?ずっとここにいるのも悪くないけど、ここはいつでも戻れるじゃん?何なら一緒に旅しようか」
「あ、あんたは私と一緒にいてくれるのか?」
「ん、俺が誘ってるようなものだし…それに一人より二人のほうが楽しいじゃん?」
その繕わない笑顔に女神は少しだけ見入ってしまう。
「はぁ…私も焼きが回ったものだね…いいよ分かった、あんたの旅に付き合うよ」
「お、マジで!?言ってみるもんだね~」
「だがこれだけは覚えておいて。私でさえ異世界に入れば力は限られる。身体も人と変わらなくなる。それに、この場所のように好きなものを具現化できたりとかは出来ないからね」
「え?タバコも?」
「当たり前だろ?」
「・・・」
「お前まさか…」
「よ、よしっ早速いこうか!」
「ちょっと待て!まだ話は終わってないぞ!待てって」
「ほら早く早く」
「良い度胸だな…後でゆっくりと話をさせてもらうからな」
「あ、そうだっ…今のうちに…」
こうして人間と女神の奇妙な旅が始まりを迎えるのだった。
~次回~
【どんなことにも限度はある】




