【異世界転生なんて都合よく上手くいくハズがない】
ある日、俺、御川馨は見知らぬ場所で意識が覚醒した。
「え…?どこココ…何これ…夢か?」
見渡す限り真っ白な世界。
聴こえるのは水の音のみ。
いる場所も行く宛もないことから自然とそちらに足が向く。
キョロキョロしながら「確か家に帰ってすぐに睡魔が襲ってきたから少しだけ寝ようかなって考えて…」と思い返すように一人言を呟きなから、水の音の方に歩いていくと目の前に何かが見えてくる。
「噴水?」
巨大な彫刻のような真っ白な噴水から溢れる水が下に貯まっている。
何の気なしに水面を覗き込む。
そこに映る自分の顔を暫く見ていると、水面は徐々に揺らぎを大きくしグニャグニャと形を変え始める。
やがて自分の顔が映っていた水面下から何かが出てくる。
頭、体、足と順に…姿を現したのは女だった。
「初めまして、よく来ましたね。私はあらゆる世界を繋げることの出来る女神です」
「・・・」
「…驚かせてしまうのも無理はないでしょう。これまで幾人もの者達がここに来ましたが皆揃ってそういった反応になります。突然こんなことを聴かされ困惑すると思いますが…貴方は選ばれたのです。ですのでこれは現実なんだと信じていただき」
「あー、そーゆーのいいわ、信じる信じる」
「・・・はい?」
「いや夢でも現実でもいいんだけど、その『よくぞ来た』・『選ばれし者』みたいなのいらんて」
「…ゴホン、貴方は中々に見処がありますね」
目の前の女が何か言っているが、そんなことより再び周囲を見渡す。
「何をそんなに辺りを気にしているのですか?」
「んーどっから帰れるのかなって」
「…残念ですが、ここに来た時点で帰る道はありません」
「はぁ?あんたさっき『あらゆる世界を繋げることが~』とか言ってたじゃんか」
「ええとですね…まず初対面であんたと呼ぶのはいかがなものかと」
「いやいやいや、自称女神だっけ?つか完全に名前負けしてんじゃん、自分から言ったことも実行できないんじゃ」
「…申し訳ありません。・・・貴方とお話するのはとても、とても楽しいのですが、こちらも時間があまりありませんので、納得していただけなくてもこのまま話を続けますね」
「はぁ役に立たねぇの…あ、話は勝手にどーぞ」
「チッ…」
小さく舌打ちしたように聴こえたけど、きっと噴水から出る水の音を聞き間違えたのだと思い込もう。
「で・は!貴方にはこの先必要となるであろうスキルと呼ばれるものを与えましょう。どういったものが良いかなどお好きなものを仰ってください」
「んなもんいらんから元の場所に戻れない?」
「いえ、それは」
「はぁマジで困るんだけどー。つーか今何時?」
「あなたのいた世界の時間は分かりかねます。そもそも私達のような存在に時間という概念はなく」
「あ、そっすか…はぁ、日跨いでたら最悪なんだけど…」
「…元の世界で何かあったのですか?」
「ん、あー今日忙しくてログインしてなかったから継続途切れるの嫌だなって」
「ログイン?よく分かりませんが、貴方にとってそれは余程大事なことなのですか?」
「いや気分的に?嫌だなって、ゲームの話だし」
「ゲームというとあなたのいた世界での娯楽の話…ですか?」
「そうだよ、女神なのにそんなことも知らないのかよ。あーあ、こんなことになるなら眠いの我慢してでもログインしとくんだったわ」
「・・・」
「で何だっけ?スキルがどうとか言ってたのは」
「はい!私の力で貴方が別世界にいった時に必ずお役に立つ特別な、と・く・べ・つ・な力です!これは私にしか出来ないことで貴方も実際に体験すれば私に感謝をしてもしきれないほど…」
「あ、そ。で女神的にはどんなのが良いのよスキル。つーか俺どこに行くとか分かんないからさ。おすすめは?」
あーだこーだ言っていると女神の様子がおかしくなる。
「…な?」
「え?」
「様な?」
「サマナー?」
「女神様な!さっきから何呼び捨てにしてんねん!」
「えっ、なに急に?!」
「クソ人間が!ちんたらちんたらやりやがって!挙げ句に呼び捨てだぁあ?舐めてんのか!」
「あ、いえ、なんか、その、色々とすんません…?」
「誠に申し訳御座いませんでした、な?」
「ま、誠に申し訳御座いませんでした…」
「あー、そうだ、スキルってのでタバコだせる?タバコ吸いたいんだけど」
「タバコ?」
「俺のいた世界にあるんだけど、あれ吸わないと頭スッキリしないんだよね~」
「少々頭に触れてもよろしいですか?」
「なんで?」
「いちいちうるせーな!テメーの記憶を読むんだよ!」
「あ、はい…」
「フムフム、タバコがどういうものかは分かりましたが、これは毒ですよね?」
「毒だね、でも吸いたい!」
「・・・あのですね、そんなもの別世界では何の役にも立ちませんよ?それに普通はもっと有用な…例えば過去にあったのでは『誰にも負けない絶対的な力』とか『使ってもなくならないほどのお金』とか、あ、あとは『周りを異性で埋める』などもありましたが」
「タバコ」
「へ?」
「力とか金とか女とかどーでもいい。タバコ…と酒」
「あの、なんか増えてません?」
「タバコと酒が欲しい!」
「・・・何と言いますか、そんな物で私の絶対的な力を使われるのは非常に不愉快で受け入れがたいです。とりあえず今吸いたいのですね?」
「うん、とりあえず今吸いたい」
「ではどうぞ」
「お、さすが女神じゃ…女神様じゃん!」
「今さら無理に様つけなくていいです」
女神からタバコの箱を受け取りながら、履いているポケットを探る。
「お、あったあった。着替えないままだったからライター持ってて良かったわ~さてと」
タッタッタッ…
「?なぜわざわざ私から離れて吸うのですか?」
「んー、なんか副流煙?っていって、周りにいる人もタバコの煙吸っちゃうんだって~スゥー…フーーッ。
だからタバコ吸わない人がいるとこでは吸わないって決めてるの~
スゥーー…フーーッ」
「・・・貴方、意外に常識があるのですね」
「あんたはなさそうだけどねスゥー、そーゆーのフーッ…」
「前言撤回…ところで…あの…私もそれを吸ってみたいのですが」
「え?いや人間じゃないんでしょ?無理じゃない?」
「バカにしないでください。一時的に人の身になることなど造作もありません」
「ふーん、まぁ何でもいいけどさ、でも毒だよ?」
「今吸ってる口がよく言いますね」
ではいただきます、と言うと女神はバカみたいに吸い込みブハッと大量の煙を吹き出す。
「な、何ですかかこれは!?まさか私に毒を盛ったのでは?!」
「盛ったのではって言うか、毒とは話してたじゃん…あと一気に吸い込みすぎな」
「ゆーっくり少しだけ吸ってみなよ」
「スゥ……フー…あ、頭がクラクラします」
「そうそう初めて吸ったりするとそうなるんだよ、気分悪くなったら横になっときなよ」
「何ですか、優しくするフリを装い私が横になったらよからぬことを」
「めんどくせーな…ダイジョブだって、そんな見境ないこと考えるの自体めんどくさいわ」
「…すいません…知ってました。さっき貴方の記憶を見た時に…貴方の人間性を見ましたので…その…人間にしてはとても信用できると。勝手にすいませんでした」
「良い趣味してんね~…まぁ別に謝ることじゃないでしょ、初対面の人間を何もなく信用できると言われる方が気持ち悪いわ」
「変わってますね…あなたのこれまでおこなってきた善行、悪行全て把握しています」
「ふーん…」
「ふふふ」
「なに?」
「いえ…貴方が行ったと感じている悪行の中に、間違えて踏んだ虫を偲び、今もなお歩くときに気を付けているというのが入っていたのに驚きまして」
「う、うるせーな別に良いだろ、それより酒は?」
「それも毒では?」
「酒は少量なら逆にいいまである」
「まぁいいでしょう、わたしも久しぶりに飲みたいですし」
「え?」
「驚くほどのことではないでしょう。ほとんどの神はお酒が好きですし」
「へぇ、そうなんだ。まあ確かによくよく考えたら実家でも神様に酒とかあげてたな」
「お酒自体は悪くありませんからね。それに惑わされるのが罪であるだけで、自我と理性を保てれば私も良しと考えております」
微妙に意気投合し始めた女神と日本酒を飲み始め2時間。
「ぷはーっ、おい、お前ももっと飲め!」
「いや、さっき『自我と理性を』とか言ってたやつの態度じゃないぞ…しかもクソ弱いし」
「何をブツブツ言っている!そうだそうだ!忘れる前に決めておこうじゃないか、お前のスキルを」
「だからそういうの興味ないから好きなの決めていいってば」
「ふんっ、じゃあ私が勝手に決めてしまうからな!」
それから8時間後ー。
「おーい、そろそろ起きろー」
「う~っ、うるっさいなぁ…頭が痛い…」
「さっさと元の身体に戻れば治るんじゃない?」
「むりぃ~精神不安定じゃ使えない~」
「普通の酔っ払いより質悪いじゃねーかよ」
「うっ…ぎもぢわるいっ」
「まてまてまて、袋とかないぞ!」
「だ、だめ、もう無理かも」
慌てて噴水の水溜まりに連れていく。
場所が噴水だからか女神がマーライオンに見えてくるほどに勢いよくリバースする姿を見ながら思った。
俺が逆の立場だったら神辞めるくらいの醜態だな、と。
「どうだー?少しは具合良くなったか?」
「うぅ…私は何てことを…」
「ま、まぁそういう時もあるって。誰にも喋らないし、な?」
「も、元はと言えば酒とか言い出したお前が悪いのであって、私は悪くない」
「うわぁ…責任転嫁しだしたよ…まぁそれでいいけどさ」
「よしっ!そろそろ戻れそうだ」
女神の身体に戻ったようだ。
「つかさ、やっぱりマジで別世界行きは変わらない感じ?」
「変わりません」
「どうしても?」
「どうしても」
「そこをどうにか女神の力で」
「無理なものは無理」
「いやちょっと、頑張れば」
「あーもううるっさいなぁ、さっさとどっかの世界にいけよっ」
そう言い放った女神は手を何もない空間に向けると、小さな渦が出始めどんどん人が通れる程の大きさになる。
渦の前にいきそれを見ながら、「へーやっぱ女神なんだー?すげー」とか言っていると、その渦に向けて背後からドンッと衝撃が走りその勢いのまま渦に吸い込まれる。
海で波にさらわれたように上下左右が分からない感じでフワフワしていると、やがて明かりが見えてきた。
そこに吸い込まれると次の瞬間、別世界の空中に中途半端に開かれた穴から吐き捨てられるように地面に落ちる。
尻から落ちたのが幸いして怪我をしなかったのは良かった、とパンパンと汚れをはたきながら辺りを見渡す。
「落ちたとこより背中がいってぇ…あの酔っ払い蹴りやがったな。…てかマジか…ホントに別世界なのか?」
見慣れない町並み。
見慣れない服装で歩く人。
ー 飲み会中 ー
「お前には超特別にいつでもここにこれるというスキルをやろう」
「…ん?いやそれ意味ある?」
「私が楽しい」
「えぇ…」
「何も私にだけ特があるわけじゃないぞ?ここにくればタバコも酒も自由だぞ」
「う、うぉおおぉ女神様さいこー」
ー 現在 ー
タバコが吸いたくなり早速女神の所に戻ろうとし、ふと気づく。
「つか、スキルってどうやって使うんだ?」
これまで適当に過ごしてきていた現世。
そしてこれから先も同じように適当に過ごせればと考える異世界。
場所は変わっても考えや行動が変わるわけではない彼に、果たして何かしらの目的は見付かるのだろうか。
進む過程で何を経験し何を成すのか。
そして女神が異世界に人を送る理由とは一体…。
~次回~
【分からないものは仕方ない】




