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静かに暮らしたいだけなのに周囲が俺を天才扱いしてくる  作者: 花梨


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9/17

早く帰ってほしかっただけ

 王女。

 その単語を聞いた瞬間。

 俺は思った。

 終わった。

 完全に。

 静かな人生、 もう無理かもしれない。

 ◇

「突然の訪問をお許しくださいませ」

 金髪の少女――王女は、 優雅に頭を下げた。

 いや絶対偉い人だ。

 オーラが違う。

 しかも後ろには護衛までいる。

 怖。

 父親と母親は完全に緊張していた。

「お、王女殿下がなぜこのような場所に……!」

「れ、レイ! 失礼のないようにね!?」

 いや、 一番帰ってほしいと思ってるの俺だから。

 王女はゆっくり俺を見る。

 赤い瞳。

 真っ直ぐな視線。

 なんか圧がある。

 疲れる。

「あなたがレイですのね」

「……ん」

「噂は聞いておりますわ」

 やめて。

 その流れ嫌い。

「“沈黙の英雄”」

 本当にその名前広まってるんだ。

 恥ずかしい。

 かなり。

 ◇

 王女はソファへ座った。

 その瞬間。

 ミシッ。

「……?」

 ソファが軋む。

 やめて。

 嫌な予感。

 だが今回は壊れなかった。

 良かった。

 本当に。

 俺は少し安心した。

 すると王女が口を開く。

「単刀直入に言いますわ」

「……?」

「王立学園へ来てくださいませ」

 やだ。

 即答したかった。

 だが。

「あなたほどの方を、  地方に埋もれさせるわけにはいきません」

 違う。

 埋もれたい。

 かなり。

 しかし王女は真剣だった。

「王都では既に、  あなたの話題で持ちきりですの」

 なんで。

「森の主を退けた件も聞きましたわ」

「……しらない」

 本当に知らない。

 なんか勝手に爆発してただけだ。

 だが王女は目を細める。

「隠すのですね」

 違う。

 説明してる。

 ◇

 その時だった。

 グラッ。

「……?」

 王女の持っていたティーカップが傾く。

 危ない。

 熱そう。

 だが次の瞬間。

 パシッ。

 近くにあった布が偶然滑り、 カップを支えた。

 さらに。

 コロン。

 落ちたスプーンが絶妙な位置で止まり、 紅茶が広がるのを防ぐ。

 しーん。

 沈黙。

 俺は固まった。

 ……またか。

 王女も固まっていた。

 護衛たちも絶句している。

 すると王女が、 ゆっくりこちらを見る。

「……今の」

「しらない」

 先に言っておく。

 知らない。

 だが王女は、 なぜか感動したように呟いた。

「私に恥をかかせないよう、  瞬時に空間制御を……?」

 違う。

 偶然。

 本当に偶然。

 しかし護衛の一人が震えていた。

「なんという精密な魔力操作……」

 だから違う。

 魔力使ってない。

 たぶん。

 ◇

「……やはり」

 王女が静かに立ち上がる。

 嫌な流れ。

「あなたは本物ですわ」

 なにが。

 俺は疲れた顔になる。

 すると王女が微笑んだ。

「ますます興味が湧きました」

 やめてほしい。

 本当に。

「入学試験の日、  楽しみにしていますわ」

 楽しみにしないで。

 かなり。

 そして王女は帰っていった。

 ……帰った。

 やっと静かになる。

 俺は心の底から安心した。

 だが。

「レイ……!」

 母親が感動で震えていた。

「王女殿下に認められるなんて……!」

 父親も遠い目をしている。

「とうとう王家まで……」

 違う。

 何も始まってない。

 俺は静かにソファへ倒れ込んだ。

 疲れた。

 本当に。

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