落ちたかっただけ
王女が帰ってから数日。
家の空気がおかしかった。
「レイ、王都ではどんな生活したい?」
「制服、何着必要かしら♡」
完全に、 学園へ行く前提で話が進んでいる。
違う。
俺はまだ諦めてない。
落ちればいいんだ。
試験に。
それなら王都へ行かなくて済む。
静かな生活継続。
完璧だった。
◇
そして。
入学試験当日。
王都。
人。
多すぎる。
「うっ……」
俺はすでに帰りたかった。
巨大な門。
豪華な建物。
騒がしい受験生たち。
全部疲れる。
「レイ〜♡ 頑張ってね♡」
「力を隠しすぎるなよ!」
両親はやる気満々。
違う。
今日は落ちに来た。
本気で。
すると。
「まあ!」
聞き覚えのある声。
嫌な予感。
「来てくださったのですね!」
王女だった。
なんでいるの。
しかも周囲がざわつく。
「王女殿下……!?」
「誰だあの子……」
「まさか特別推薦……?」
やめて。
目立ちたくない。
かなり。
王女は嬉しそうだった。
「あなたの活躍、 とても楽しみにしておりますわ♡」
落ちる予定なんだけど。
◇
試験会場。
まずは筆記だった。
「……」
俺は問題を見る。
普通。
たぶん。
でも満点取ったら目立つ。
だから。
適当に間違えよう。
それでいい。
俺はわざと簡単そうな問題を外し始めた。
これなら自然に落ちるはず。
完璧。
――だったのに。
「試験終了!」
試験官たちが答案を回収していく。
その途中。
一人の試験官が、 俺の答案を見て止まった。
「……ほう」
嫌な予感。
かなり。
試験官は震える声で呟く。
「わざと初歩問題だけ外している……?」
やめろ。
「応用問題は全問正解……だと……!?」
周囲がざわつく。
違う。
偶然。
いや違うな。
これは普通にミスった。
なんでバレるんだ。
試験官は真剣な顔だった。
「基礎を解く時間すら惜しみ、 効率を優先したのか……!」
違う。
落ちたかっただけ。
すると別の試験官まで頷き始める。
「しかも答えの書き方が簡潔すぎる……」
「無駄が一切ない……!」
やめて。
褒めないで。
俺は静かに頭を抱えた。
◇
次は実技試験だった。
広い訓練場。
受験生たちが並んでいる。
試験内容は単純。
魔力測定。
まずい。
俺、自分の魔力とか知らない。
そもそも使った覚えないし。
すると試験官が説明を始めた。
「この水晶へ手を置け」
嫌だなぁ。
本当に。
俺の番が近づく。
帰りたい。
かなり。
「次!」
終わった。
俺は重い足取りで前へ出る。
そして。
そっと水晶へ触れた。
――その瞬間。
ピキッ。
「……?」
ヒビ。
次の瞬間。
バキィィン!!
水晶が砕け散った。
しーん。
会場が静まり返る。
俺は固まった。
……え。
なんで?
試験官たちは顔面蒼白だった。
「ま、魔力測定水晶が……」
「王国製だぞ……!?」
「ありえん……!」
いや知らん。
むしろ俺が知りたい。
すると遠くで、 王女が目を輝かせていた。
「やはり……!」
やめて。
本当に。
俺は悟った。
落ちるの、 無理かもしれない。




