逃げたかっただけ
王立学園の入学試験。
一ヶ月後。
最悪である。
しかも。
「レイなら余裕ね♡」
「うむ。むしろ試験官が心配だ」
両親が完全にやる気だった。
違う。
俺は行きたくない。
静かに暮らしたい。
なぜ誰もそこを理解しないのか。
◇
数日後。
俺は本気で悩んでいた。
どうすれば試験を回避できるか。
答えは一つ。
逃げる。
これしかない。
俺は荷物を見つめる。
パン。
水。
毛布。
……うん。
完璧だ。
「レイ〜?」
母親の声。
まずい。
俺は急いで荷物を隠した。
「な、なに?」
「今日、お出かけしない?」
断りたい。
かなり。
だが。
「試験用のお洋服も見ましょうね♡」
終わった。
逃げるしかない。
◇
その夜。
家が静かになった頃。
俺はそっと窓を開けた。
風が気持ちいい。
よし。
今ならいける。
俺は静かに外へ出る。
成功だった。
このまま森の方へ行けば――。
ガサッ。
「……?」
茂みが揺れた。
次の瞬間。
黒い影が飛び出してくる。
「ギャオッ!!」
狼型魔物。
しかもでかい。
なんでいるんだ。
怖。
俺は反射的に後退する。
すると。
ガンッ!!
足が石に当たった。
「あ」
石が飛ぶ。
カツン。
近くの木へ当たる。
すると。
バキィッ!!
木の上の枝が折れた。
さらに。
ドサァァッ!!
大量の果実が魔物へ直撃。
「ギャンッ!?」
驚いた魔物が暴走。
そのまま森の奥へ突っ込んでいく。
――そして。
ドゴォォォン!!
遠くで爆発音。
え。
なに。
しばらくして。
「なんだ今の!?」
「森の魔物の群れが逃げ出したぞ!!」
街の方が騒がしくなった。
嫌な予感しかしない。
かなり。
◇
案の定。
数分後には衛兵が集まっていた。
「森の主が消えた……?」
「ありえん……」
「まさか誰かが倒したのか……!?」
いや知らん。
俺も怖い。
だが。
「黒髪の子供を見たぞ!」
終わった。
誰だ見たの。
衛兵たちの顔色が変わる。
「まさか……」
「“沈黙の英雄”……!」
その名前、 そろそろ法律で禁止してほしい。
すると衛兵隊長が真剣な顔で呟く。
「王都へ報告しろ」
やめて。
「予定を早めるべきかもしれん」
なにを。
聞きたくない。
◇
帰宅後。
当然、逃亡はバレた。
「レイ♡」
母親が笑顔だった。
怖い。
「どこへ行こうとしてたのかしら♡」
「……さんぽ」
嘘ではない。
たぶん。
だが父親は深く頷いた。
「試験前に精神統一か……!」
違う。
逃げようとしてた。
しかし次の瞬間。
コンコン。
また扉が叩かれる。
嫌な予感。
父親が扉を開く。
そこには。
豪華な制服を着た少女が立っていた。
金髪。
赤い瞳。
明らかに偉そう。
「こちらに“レイ”という方がいますわね?」
……誰?
すると父親が青ざめる。
「お、王女殿下……!?」
え。
なんで。




