寝てたかっただけ
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三歳になった頃。
俺はあることに気づいていた。
この世界。
静かな場所が少ない。
街は騒がしいし、 家では親が騒ぐ。
唯一落ち着けるのが――。
「レイ、また裏庭?」
「ん」
家の裏にある木陰だった。
風が気持ちいい。
鳥の声も悪くない。
そして何より。
静かだ。
最高である。
◇
俺は木にもたれながら、 ぼーっと空を見ていた。
平和だ。
前世では、 こういう時間なんてほとんどなかった。
だから今は、 なるべく何もしたくない。
働きたくないし、 目立ちたくもない。
静かに暮らせれば十分だ。
そう思いながら、 少しずつ眠くなってきた時だった。
ガサガサッ!!
「……?」
茂みが揺れる。
次の瞬間。
ドンッ!!
大きな猪みたいな魔物が飛び出してきた。
「ブモォォ!!」
うるさい。
かなり。
しかも怖い。
俺は反射的に後ろへ下がった。
すると。
ズルッ。
魔物の足が滑る。
「ブモッ!?」
勢い余って木へ激突。
さらに。
バキバキバキッ!!
木の上にあった大量の果実が落下。
ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!!
魔物の頭へ連続直撃した。
「ブモォォ……」
そのまま気絶。
しーん。
俺は固まった。
……えぇ。
なにこれ。
すると騒ぎを聞きつけた父親が走ってくる。
「レイ!!」
母親も青ざめていた。
「大丈夫!?」
「……だいじょうぶ」
本当に何もしてない。
だが二人は、 気絶した魔物を見て固まった。
「…………」
「…………」
そしてゆっくり俺を見る。
やめろ。
その目をするな。
父親が震える声で言った。
「まさか……迎撃したのか?」
「してない」
「しかも無傷で……!」
話を聞け。
母親はレイを抱きしめた。
「レイ……怪我なく倒すなんて……!」
だから違う。
転んだだけだ。
というか、 俺が一番驚いてる。
◇
問題はその後だった。
なぜか近所の人が集まってきたのだ。
「魔物を倒したって本当か!?」
「三歳で!?」
「天才だ……!」
違う。
本当に違う。
だが父親は誇らしそうだった。
「いやぁ、うちのレイは昔から凄くてな!」
やめろ。
盛るな。
母親まで嬉しそうに話し始める。
「赤ちゃんの頃から空間把握能力が高くて♡」
なんだそれ。
空間を把握したことなんてないぞ。
俺はそっと家へ戻ろうとした。
しかし。
「待ってください!」
知らない男が駆け寄ってきた。
革鎧を着ている。
たぶん冒険者。
「君が倒したのか……?」
「いや――」
「謙遜まで……!」
違う。
なんで誰も話を聞かないんだ。
◇
その夜。
俺はかなり疲れていた。
精神的に。
「レイ〜♡」
母親が頭を撫でてくる。
「今日は頑張ったわねぇ」
「がんばってない」
父親も真剣な顔で頷いた。
「力を誇らない……実に大物だ」
だから違う。
すると父親がふと思い出したように言う。
「そういえば、王都の学校の話なんだが」
嫌な単語が聞こえた。
「優秀な子供を集める場所があってな」
絶対面倒なやつだ。
俺は察した。
そして確信した。
静かな人生が、 どんどん遠ざかっている
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