静かな部屋がほしかっただけ
主席合格。
歴代最高評価。
最悪だった。
周囲の視線が痛い。
「いたぞ……!」
「主席の……!」
「“沈黙の英雄”……!」
やめて。
本当に。
俺は人混みを避けるように歩いていた。
すると。
「レイくん♡」
王女。
来た。
しかも笑顔。
逃げたい。
「寮の部屋、 特別室を用意しましたわ♡」
嫌な予感。
かなり。
「静かで広くて、 王城級の設備ですの!」
それはちょっと魅力的だった。
静か。
重要。
かなり。
◇
王立学園の寮。
でかい。
豪華。
人多い。
疲れる。
俺は案内されながら、 ぼんやり廊下を歩いていた。
「こちらが特別寮ですわ」
王女が扉を開ける。
中を見た瞬間。
「……」
広い。
静か。
ベッドふかふか。
しかも防音。
最高では?
俺は少し感動した。
「……いい」
思わず本音が漏れる。
王女が嬉しそうに笑った。
「ふふっ♡ 気に入っていただけました?」
「しずか……」
「やはり……!」
なにが。
だが王女は完全に納得した顔だった。
「強者ほど孤独を愛するものですわ……!」
違う。
騒がしいのが嫌いなだけ。
◇
すると。
コンコン。
部屋の扉が叩かれた。
「失礼する」
入ってきたのは、 眼鏡をかけた男性教師。
真面目そう。
なんか疲れてそう。
「私はこの学園で一年を担当する、 クロードだ」
「……ん」
クロード先生は、 俺を見る。
そして一瞬だけ固まった。
なんで。
だがすぐ真顔へ戻る。
「……なるほど」
なにが。
「王女殿下が気にかける理由は理解した」
違う。
気にかけなくていい。
かなり。
するとクロード先生は書類を取り出した。
「本来なら入学初日には、 クラス分け試験がある」
嫌な予感。
「だが君の場合――」
その瞬間。
グラッ。
「……?」
先生が持っていた大量の書類が傾く。
落ちる。
俺は反射的に横へ避けた。
すると。
ヒュッ。
風。
開いていた窓から入る。
さらに。
パラララッ!!
飛び散りかけた書類が、 なぜか綺麗に机へ着地した。
しかも順番通り。
しーん。
沈黙。
俺は固まる。
……なんで?
クロード先生も固まっていた。
「…………」
王女は目を輝かせている。
やめて。
その顔。
クロード先生が震える声を出した。
「今のを…… 無詠唱で?」
違う。
避けただけ。
だが先生は額を押さえた。
「噂以上か……」
違う。
噂が間違ってる。
本当に。
◇
「レイくん」
王女が嬉しそうに微笑む。
「明日から授業ですわ♡」
嫌だなぁ。
かなり。
するとクロード先生が真面目な顔で言った。
「一応忠告しておく」
「……?」
「君は既に有名だ」
知ってる。
最悪だ。
「特に二年と三年には気をつけろ」
嫌な単語。
「実力主義の学園だからな。 上級生の中には、 君を認めない者もいる」
あー……。
面倒そう。
かなり。
俺は静かにベッドへ倒れ込んだ。
せめて部屋だけは、 平和であってほしい。




