目立ちたくなかっただけ
試験会場は、 まだざわついていた。
「水晶を壊したって本当か?」
「いや、模擬戦もやばかったぞ……!」
「王女殿下が直々に……」
やめて。
聞こえてる。
かなり恥ずかしい。
俺は廊下の端を歩きながら、 静かにため息を吐いた。
帰りたい。
本当に。
◇
「待って」
「……?」
突然、 後ろから声をかけられた。
振り返る。
そこにいたのは、 銀髪の少女だった。
細い目。
無表情。
背も少し小さい。
だが。
なんか怖い。
静かな圧がある。
「お前」
「……なに」
「本当に偶然だと思ってるの?」
ギクッ。
初めてだった。
勘違いしない人。
俺は少し警戒する。
「……ぐうぜん」
「嘘」
即答。
怖。
少女はじっと俺を見ていた。
「模擬戦」
「……」
「普通、あんな綺麗に転ばない」
その通りである。
俺もそう思う。
かなり。
だが少女は、 なぜか少し考え込むように黙った。
「でも」
「?」
「あなた、自分でやってる自覚なさそう」
え。
俺は固まる。
少女は真顔だった。
「……変」
ひどい。
◇
「フィア様!!」
遠くから誰かが駆け寄ってくる。
メイドっぽい人だった。
「また一人で歩かれて……!」
銀髪少女――フィアは、 小さくため息を吐いた。
「うるさい」
「ですが――」
なんか大変そう。
するとメイドが俺を見て固まる。
「えっ」
嫌な予感。
「こ、この方が……!?」
やめて。
その流れ嫌い。
しかしフィアは興味なさそうだった。
「別に普通」
初めて言われた。
普通。
なんか嬉しい。
かなり。
だが次の瞬間。
ガタガタガタッ!!
「!?」
廊下の窓が急に揺れた。
風。
強い。
しかも近くには、 高く積まれた書類の山。
まずい。
崩れる。
俺は反射的に一歩下がった。
すると。
ヒラッ。
風で飛ばされた紙が、 偶然窓へ貼り付く。
風の流れが変わる。
さらに。
グラッ……。
崩れかけた書類が、 絶妙なバランスで止まった。
しーん。
沈黙。
俺は天を仰ぎたくなった。
……またか。
メイドは震えていた。
「い、今のを瞬時に……!?」
違う。
偶然。
だがフィアだけは、 じっと俺を見ていた。
「……やっぱり変」
だからひどい。
◇
その後。
試験結果発表。
巨大な掲示板の前に、 大量の受験生が集まっていた。
人多い。
帰りたい。
「きゃああ!!」
「主席だって!?」
「ありえねぇ!!」
嫌な予感。
かなり。
人混みの隙間から、 掲示板が見える。
そこには。
【主席合格 レイ】
終わった。
完全に。
しかも。
「筆記・実技ともに歴代最高評価……?」
「化け物かよ……!」
「やっぱり王女殿下の……!」
違う。
落ちる予定だった。
本当に。
すると。
「おめでとうございますわ♡」
王女。
いた。
なんで毎回いるんだ。
さらに反対側から。
「……おめでと」
フィア。
いた。
逃げ場がない。
俺は静かに思った。
学園生活、 絶対平和じゃない。
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