魔王、赤い亀を運転する。
魔王は、トラクターに足を踏み入れた。
赤いそれの甲羅は“運転席“という、トラクターを操縦するための場所らしい。運転席には椅子があり、それに腰を下ろす。周りにはいくつかの棒と丸い輪がついており、その前には針が数字を指し示している。
「こちらがハンドルと言って、左右どちらに進むかを決める操縦桿となっております。」
魔王の横、側近は一つ一つ指差しながら説明を続ける。
「足元にあるのがアクセルとブレーキです。アクセルが進む、ブレーキは止まると覚えて下さい」
一通り説明が終わると側近は椅子の後ろに立った。どうやらこのまま相乗りするらしい。
まずはブレーキから足を離し、クラッチペダルを徐々に上げていく。合わせてアクセルを踏み込めばゆっくりとだが赤い亀は進み始めた。
「そうそう! お上手ですよ魔王様!」
嬉しそうな側近は周りを見渡しているようだが、こちらにはそんな余裕はない。
ただその背後、進んだ道の分だけ土が呼吸を始めているのがわかった。しかし自身が耕した時とは何かが違うように感じる。
なかなかまっすぐ進めることはできなかったが、なんとか端まで操縦することができた。ブレーキとクラッチペダルを踏み締め、側近へ声をかけた。
「……で、この唸り声はどうにかならんのか」
側近が苦笑いを返す。何かを回し、抜き取ると鍵のようだった。途端にトラクターは鳴りを潜めた。静寂が帰ってくる。
ーーやはり、呼吸が違う。
確信した。カラクリ越しでは、何かが違う。確かめる必要があると考えていると、側近が声をかけてきた。
「お疲れ様でした、お食事にしましょう」
側近の腹が鳴る。トラクターはまだ微かに熱を持っていた。




