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魔王、紫の空を見上げる
側近は、トラクターに積んでいたバスケットを取り出した。
それを手に井戸の近くに座りこんだ。それに倣う。
「人間国から少し分けていただきました」
取り出されたのは、丸く黒いパンだった。手に持つとずっしりと重い。押すと固さが返ってくる。一口大にちぎって口へと運ぶ。
「……」
「あまり良いものは食べてないみたいですね、人間も」
側近は無言で何度か噛んだ。何度か噛むと麦の香りがするが、それだけだ。
ただ口に運ぶだけで腹は満ちた。手についたカスを払い、同様に服についた土埃を払う。
空は紫へ染まり、まもなく夜が訪れることを示していた。
「城へ帰りましょうか」
側近は呟いた。
***
城への道すがら、一つ村を通った。ここには十数人の大人とその子供たちが住んでいたはずだった。今はもぬけの殻である。
老婦人が育てていた花壇には雑草が生え、花々は肩身狭そうに咲いていた。
世話する者がいなければこうなるのが自然とはいえ、やるせない気持ちになる。
他にも、世話を放棄された牛や羊の亡骸、枯れ果てた畑、荒れた家が目に入る。
亡骸は空へ帰し、畑は焼いた。
だが、家だけはそのままにしてあった。
「……いつか」
小さな呟きは側近には聞こえていないようだった。




