Reappear 前編
「本当にいいんですね?昨日のこと、聞いてしまっても……」
「ロイヤーくんこそ、覚悟して聞いてほしい」
「これだけ焦らしたんです。しょうもないことだったらつまらない。それだけの覚悟はしているつもりですよ」
「じゃあ……言うね?」
机を挟んで、ロイヤーとリチャードが向き合っていた。
お互いの眼差しは真剣そのもの。
覚悟ができているかをお互いに探っているような視線だった。
そして口を開き、リチャードはあの赤い魔法石を見せながら、ロイヤーにあの異形の魔法石の精神世界で起きたことについて細かいところまですべて話した。
ロイヤーは時折驚きから表情を崩すことはあったが、その動揺を制御することはできていた。
「なるほど……確かに僕に知らせたくないわけだ。魔法石を移植されていたとはいえ、僕は人間を斬ってしまったという訳ですね」
「そう思っちゃうと思って、言えなかった。言いたくなかったんだ。ごめんね、ロイヤーくん」
「なんでリチャードくんが謝るんですか。君はなにも悪くないですよ」
「うん……でも、よかったよ。もっとガッツリ落ち込んじゃったらどうしようって、本気で心配したんだよ?」
「君の落ち込みっぷりを見たら、落ち込むのがバカみたいです」
「相変わらずいい性格してるね……」
「それより気になるのは、魔法石の移植でしょう」
「アルも言ってたんだ。こんなレベルの医療技術ができるのは、相当すごい技術がないとって」
「それもそうですし、二人の願いを叶えるためだけに、こんな技術を生み出しているのも不自然です。なにか、裏がありそうっていうか……」
「この事件は、まだ終わってない」
二人は事件の解決のために再び立ち上がった。
「でもこれだけじゃあ証拠がない。ねえ、君たちはなにか知らない?」
リチャードは赤い魔法石に話しかけてみる。
「よく覚えていないですが、フィラとずっと一緒になれて幸せだったことだけはよく覚えています」
「フィラも一緒!ゼノと一緒になれて、とーっても嬉しかった!」
手がかりになりそうにない。
「そうですね。まずは犯人の特徴を分析しましょう」
「そうだね」
二人はホワイトボードを出すと、それぞれ青と黒の水性ペンを手に取った。
「まずは再三言いますが、魔法石ほど大きなものを心臓という精密な臓器に移植して、魔法石も人も殺さないほどの技術力を持った人というのは絶対に外せませんね。そして、このような闇の研究に手を出せてしまう倫理観の人間であることも条件でしょう。あとは……」
「魔法石に精神世界があることを知ってる人物……とか?」
「……なるほど、それは見落としていました。ということは魔法使いとしても素質があったのかもしれませんね」
二人は推理を加速させていく。
「この医療技術を持ち合わせていて、尚且つ魔法石に詳しいとなれば、そんな大掛かりなことができる場所は限られる。それこそ、魔法使いの医療も可能な大病院、辺りになるでしょうか」
「大病院は三つ……ここを片っ端から捜査すれば、犯人にありつける!」
二人は準備を初めた。
「どこから行こうか」
「じゃあ、ヴァージルさんのいる病院にしませんか?」
「えっ……」
「なんですか?」
「いや、なんか珍しいなって」
「なにを想像してるかは分かりませんが、これは合理的な判断ですよ?ヴァージルさんのいるあの病院が黒幕の居場所だと都合が悪いので、早く潰しておきたいだけです」
「うんうん、分かったよ。じゃあお土産も買っていかないとね」
「……憎たらしくなりましたね、リチャードくん」
二人は会社を出る。
テムズ川沿いの大病院。
ゲスト用のネームプレートを首からかけて、二人はまずヴァージルに会いに行った。
病室ではヴァージルがニヤニヤしながら待っていた。
「聞いたぜ?お前ら臨時でバディ組んでんだってな?」
病室のベッドの上でヴァージルがウキウキで話す。
「それで?どうなんだよ、二人で動いてみてよ。色々ぶつかったりしてんのか?」
「いえいえ、リチャードくんが"僕の考えに合わせて"くれるので、とてもやりやすいですよ」
「ほーん、そうかよ」
ロイヤーが妙な強調をする。
それを聞いたヴァージルは少し意外と言わんばかりの表情。
そして、彼が水を口に含んだその時、ロイヤーが再び口を開く。
「これなら、リチャードくんとずっとバディでいたいくらいですねぇ」
その言葉を聞くや否や、ヴァージルは口に含んだ水を吹き出す。
「ちょっ、大丈夫ですか?」
「ゲホッ……ゲホッ……悪りぃ、気管入った……」
ロイヤーは咽るヴァージルと、看護師さんにタオルを貰いに行くリチャードを見ながらにんまりしている。
「お前……絶対わざとだろ?」
「なんのことか分かりませんねぇ」
リチャードはロイヤーがなにを言ったのかは聞き取れなかったが、とりあえず入院患者に対しても容赦が無いことは伝わった。
「タオルどうぞ」
「悪ぃな」
「それで、どのくらいで退院なんですか?」
「リハビリも順調だからよ。明日か明後日には会社に復帰するぜ」
「そうなんですね!」
リチャードは期待に胸膨らませたように声のトーンが上がる。
「今日は来てくれてありがとうな」
ヴァージルが二人を見送り、二人は病室を出る。
「元気そうでよかったね」
「そうですね。それで、なにか怪しいところはあったりしました?」
「見当たらないよ。白って断定することはできないけど、普通の大きな病院って感じだ」
「そりゃそうですよねぇ」
「とりあえず保留にして、次の病院に行こうか」
「そう……ですね……」
二人は病院を出る。
入口の自動ドアが開いてリチャードは外へ出る。
だが、ロイヤーはドアが開いても足が前へと進まない。
「ロイヤーくん?」
リチャードがロイヤーの奇行を訝しむ。
「リチャードくん、なにか引っかかりませんか?」
「……手掛かり?」
「いえ、そういう訳では……ないですが……」
「とりあえず、中で話そう」
ロイヤーとリチャードが病院内に再侵入したことで、長い解放時間を終えた自動ドアが閉じる。
二人は受付で再びゲスト用のネームプレートを貰うと、奥へと進んで行った。
「やっぱり……」
「見つけた?」
「疑念が確信に変わりました。この病院、スタッフが揃いも揃ってゲストのプレートを掛けています」
リチャードがその発言を聞いてから周りを見渡す。
すると確かに、ネームプレートの紐の色が揃いも揃って青く、名前も手書きだ。
「なんでゲスト用の色って分かったの?」
「最初は全員こういうものだと思っていました。ですがこの病院に来てから二人だけ、紐の赤い先生がいたんです。その二人はICカードでしたが、見てください、辺りにいる先生を」
リチャードが促されて目をやると、先生だろうが看護師だろうが、もっと言えば見舞いの人だろうが青い紐に手書きのネームプレートだ。
「これだけ人がいるのに、全員紐の色が同じ。だとするとむしろあの赤い紐の先生は余程の権力者なんです」
「じゃあ、詳しいことは……」
「その先生が知っているということになるでしょう」
二人はバレないように、病院内を探った。
すると、赤い紐の白衣の男性が目に留まる。
他の大多数が青紐故か、赤紐の医者は目に付きやすい。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
医者はにこりとお辞儀をする。
「お見舞いですか?」
「いえ、少しお聞きしたいことがありまして……」
「はぁ、どのようなご要件で」
「最近この病院で、変な動きをしている人物が居たりしませんか?」
「変な動きの人物ですか?」
「一人じゃなくても構いません」
「……思い当たりませんね。この病院はいつも通りです」
「そう……ですか……」
「詳しいことが分からないので……こちらも詳しいことが聞ければ」
「すみません、詳しくは話せなくて……」
「でしたら、私たちは何も……」
そうして、情報は掴めなかった。
二人は途方に暮れる。
「ここはやっぱりハズレじゃない?」
「ですかねぇ……」
「他の病院を当たった方がいいんだろうね」
「そうですね。それでは、向かいましょうか」
その時だった。




