A lost dragon's solo adventure
「プロ!……大変だ……どうしよう!警察は……ダメだし……魔法使いは……もっとダメだ!」
リチャードは頭の中で様々な想像を巡らせる。
その中には当然、プロの正体がバレてしまうようなことも考えられる。
そう思うとリチャードの精神は、より一層動揺した。
「リチャードさん、落ち着いてください。とりあえず探しましょう」
二人は家を飛び出すように出ていった。
「リチャード……アル……どこ?」
プロはロンドンの街中へ繰り出していた。
誰も家にいなかったプロは心細くなったので、リチャードやアルを探しに家の外に出ていた。
もちろん、探しているリチャードが既に家に戻っていることなど知る由もない。
漠然とリチャードの居そうな場所に向かっていて、気がつけば目的地も分からないまま大分歩いた。
そういえばリチャードがどこで仕事をしているのかすら分かっていない。
そのことに気がついて辺りを見回すと、普段リチャードと買い物に来るマーケットに辿り着いていた。
色とりどりに綺麗なファッションが飾られている洋服屋、子どもが目を輝かせるおもちゃ屋、便利な道具が所狭しと置かれている雑貨屋。
まるで欲しいものが全部、この一箇所に集中しているような風景だ。
そして、そんな中でも特にプロの目に止まったのが、虹色のわたあめだった。
「わ〜、きれ〜!」
プロは吸い寄せられるようにお菓子屋に入っていく。
「お嬢ちゃん、これ買ってくかい?」
レジからお菓子屋の男性が話しかけてくる。
レジ横ではわたあめを作る機械が稼働音を鳴らしていて、オーダーを受けるとその場で手作りしてくれるようだ。
「くれるの?」
「一つ五ポンドだよ〜」
「ごぽ?」
「五ポンド。ん?お嬢ちゃんもしかして……お金ないのかい?」
「おか……ね?」
「お・か・ね。おじさんはお金とこのわたあめを交換してるんだ。お金がないと、あげられないんだよ」
「おかね……」
プロは唖然とした。そういえばリチャードが必ず一緒だったので、一人で買い物をしたことなどなかった。
「プロ……おかねない」
「じゃあ、わたあめはあげられないなぁ」
お菓子屋は残念そうにそう告げた。
「そっかぁ……」
プロはそう聞くと、お菓子屋をトボトボと後にした。
残念そうにしていたお菓子屋の数倍は残念がっているような表情と歩き姿で、お菓子屋はその後ろ姿を見ていると心が苦しくなった。
「なあ、お嬢ちゃん」
「?」
「そのまま帰るのも可哀想だろう。これあげるよ」
お菓子屋がプロの手に渡したのは、小さな虹色のわたあめだった。
「え?でも……プロ……おかね、ない」
「今日だけ特別さ。次に来る時は、お金を持ってきて、大きなわたあめを食べれるようになろうな」
プロの表情がらしい明るさを取り戻した。
「やったー!プロ嬉しい!」
プロは一口でわたあめにかぶりつく。
ドラゴンらしい一口をしているプロは、その小さなわたあめを一瞬で口に収めてしまった。
口に入れると、雲のような軽い食感とザラメの優しい甘さが口いっぱいに広がった。
「ん〜、甘〜い」
「美味そうに食べるなぁ。そういやお嬢ちゃん、一人なのかい?お父さんやお母さんは?一緒に来てる人は?」
「プロ、リチャード探してる」
「リチャード?……って人が、一緒に来てる人?」
「リチャード、プロ好き。プロ、リチャード好き」
「迷子かなぁ……とりあえず、一緒においで」
「うん」
「プロ……ほんとにどこに行ったんだろう」
「今朝までいたんですから、変身さえしていなければそう遠くには行かないはずですが……どこに行ったか読めないのが怖いですね」
リチャードとアルはロンドンの街を探し回った。
時折街の人々に写真を見せたりして探してみるが──
「さあね、見覚えはないかな」
「ごめんなさいね」
「人が多くて一々覚えてないよね」
この大都会ロンドンと言うだけあって、やはりそう簡単に人を見掛けるのは難しい。
ドラゴン探しとは比にならないほどに情報がない。
「リチャードさん、プロさんが行きそうな場所に心当たりは?」
「いやぁ、どうだろうなぁ……待てよ?一つだけ心当たりがあるかも」
リチャードは進行方向を変えて、その目的地を目指した。
迷子センターに連れられて体感だいぶ時間が経った。
プロはさすがに不安感を隠せなくなってくる。
「リチャードォ……アルゥ……」
プロが不安に心を蝕まれているその時だった。
「うわあぁあぁあぁああ〜〜〜!!!」
大きな声で泣きじゃくる男の子が迷子センターにやってきた。
見る限り彼も迷子だろう。
迷子センターのコールが親を呼び出しても、男の子は一向に泣き止まない。
二人だけの空間で泣かれ続けると、うるさくて敵わない。
耳障りな子どもの声を聞かされ続け、ついにプロの我慢の限界が来る。
「うるさい!」
プロはうっかり大きな声を出してしまう。
その声は迫力が並のそれではない。
迷子センター中にドラゴンの咆哮のようにこだまして、男の子は驚きのあまり、涙が止んでぽかんと口を開いた。
大声が辺りを静寂に変えてしまった。
プロはその時ようやく、ドラゴンだとバレかねないので、外で大きな声を出してはいけないとリチャードから言いつけられていた事を思い出し、焦る。
「違う……プロ……普通──」
「すげー!ドラゴンみたい!」
男の子は目を輝かせる。
意外な反応だった。てっきり怯えられるものかと思った。
プロはその想定外の反応から子どもに問いかけた。
「ドラゴン……怖くない?」
「怖くないよ!そこら辺にいつもいるもん!」
「そう……」
「俺ね、大人になったらドラゴンを飼うんだ!それで空を飛ぶ!」
男の子は小さな体に似つかわしくない大きな身振り手振りで、子どもらしい大層な理想を掲げてみる。
プロは最早、無限の情報量がなだれ込んでくるような錯覚すら覚えて、半ばフリーズ状態になってしまう。
その時だった。
「プロちゃん、家族の人がお迎えですよ」
迷子センターのお姉さんがプロを呼ぶと、その後ろにはリチャードがいた。
「リチャード!!!」
プロは大好きなリチャードを見るや否や抱きついた。
「プロ……ほんとに、どうしてこんなところに居るんだ?俺心配したんだぞ?」
「みんないない……プロ、みんな心配」
「全く……俺がいない時は家から出ちゃダメだろ」
「ごめんなさい」
プロは緊張の糸も切れたように泣きながら謝った。
「それじゃあ帰ろうか」
「うん!」
そうして二人が迷子センターを後にしようとした時だった。
「お姉ちゃん……行っちゃうの?」
後ろから声が聞こえた。
さっきの男の子だ。
目が再び潤みだし、また泣き出してしまいそうでもある。
プロはさっきまで一人だったが、この男の子がいる間は、確かに孤独による不安を感じなかった。
そして今、彼は一人になろうとしている。
「ねぇ、リチャード……」
「どうしたの?」
「あの子……」
プロは男の子を指さした。
「あの子がどうかしたの?」
「あの子……お空飛びたい」
リチャードはなんとなくだが、プロの意図を理解した。
その日、マーケットを一人の魔法使いがほうきに乗って飛んでいた。
「すごーい!飛んでる!飛んでる!!!」
「アッハッハ、そこまで喜んでもらえて嬉しいよ」
リチャードは高所からマーケットを見渡す。
すると、明らかに不安そうな顔で周りをキョロキョロ見回している女の人がいた。
「あっ、ママだ!」
男の子が声を上げる。
「ママー!」
男の子が大きな声を出す。
その声に気づくと母親は辺りを見回し、そして上から我が子を乗せて降りてくる魔法使いに驚いた。
「ママ!」
「ティム!どこ行ってたの?」
「ごめんなさい……」
「ああ、無事でよかった……本当に、うちのティムをありがとうございます」
「いえいえ、俺は迷子センターに居たその子を、届けただけです」
二人を見送ると、リチャードは再び迷子センターに戻った。
迷子センターでは、プロが大人しくして待っていた。
今度は勝手にどこかに行ってはいけないというリチャードの言いつけを守った。
「お待たせプロ。それじゃ、俺たちも帰ろう」
「うん!」
普段よりも元気のいい返事が帰ってきた。
「リチャード、どうして、プロ見つけた?」
「アハハ、それはね……プロがこないだもう一回行きたいって言ってたハンバーガー屋さんがあって、そこに来てないか聞いたら、向かいのお菓子屋さんが、迷子センターに居るって……」
「わたあめ?」
「ん?わたあめ?」
リチャードがお菓子屋さんの様子を思い出してみると、確かに大きな虹色のわたあめが目を引く外装だった気がする。
「うん、わたあめ!また食べたい!」
「また食べたいって……食べたの?お金は!?」
「貰った!」
「はあ……ほんと、そんなによくしてもらって申し訳ないなぁ……今度お菓子でも持っていこう」
「リチャード、プロ、サンドイッチ」
「そうだね、寄って帰ろうか。そういえば、シャトとベルも、今日から一緒だよ」
「わーい!プロ嬉しい!」
二人の間にようやく平和な日常が戻る。
夕焼けの中、二人はようやく一緒に笑い合えた。




