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ラスワンです。次回完結!
ラミアーのお客様に紹介する物件、源太郎、気が点いた?
「さぁ、入ってくれ」
そう言って源大朗が表戸を開ける。もちろんここは夷や。そして入って来たのも、
「あの、おじゃま、します」
リーアだった。ズリズリッ、腹板を使ってゆっくり動く。
「まぁっ! いらっしゃいませ、どうぞ。今日ふたり目の、ラミアーのお客さまですね。初めてです。ステキです♪」
ラウネアの声も弾む。さっそくお茶とお茶菓子、希望条件記入シートがテーブルの上へ並べられた。
「それにしても、一日ふたりだぞ! 夷や始まって以来の千客万来だな!」
「ふたりで、万来」
キアの皮肉にも気づかないほど、上機嫌な源大朗。さっそくリーアの記入した用紙を手に取って、
「なになに、池袋直通十五分圏内。駅歩十分以内。鉄筋コンクリート造。ワンルーム約六十平米以上。一~三階。床暖必須。浴槽広め。築年数問わず、か。ラウネア」
「はい」
すぐにラウネアが自分のデスクに戻り、パソコンを操作する。不動産会社が加入するプロ用物件サイトから、たちまち希望条件に合致したものを選び出して、プリンターから出力していく。
出て来る先からキアがテーブルに運んで来た。
「どれどれ。これなんかどうだ。下板橋徒歩九分。いま居る上板橋より四つも池袋寄りだぞ。五十八平米だが希望どおりのワンルームだ。一階。築十六年。RC造。風呂は、この手のじゃふつうの広さの、ひと坪大のバスルームだな」
「へーぇ、いいですね! すごい!」
「月十九万。管理費五千円」
「えっ」
キアに言われ、リーア、プリントを受け取って目が丸くなる。
みるみる顔から血の気が引いていく。もしかすると、そろそろ気温が下がって体温も下がり気味なのかもしれない。
「無理、です……」
「じゃあ、こっち。練馬十一分だけど、四十六平米ワンルーム。三階。RC造。築三十年。家賃は、月十二万円」
「十二万、は、無理、です」
ここに来て源大朗たちも気づく。
「ところで今の家賃っていくらなんだ。えーっと」
それも用紙に記入してあった。
「五万六千円」
と、キア。
「です。それもちょっときついんですけれど、いえ、バイトなくなっちゃったし、だいぶきついんです。けど、そのくらいです、出せて」
「その家賃じゃ、希望の条件は難しいぞ。というよりはっきり無理、だな」
「はぁ……、です、よね」
ますます消沈するリーア。シッポの先が力なく、ぺとんっ、床に落ちる。
「まぁ、そう言うな。条件を絞ればいいんだよ。まず広さだな。いまは、ええと、十六平米か。広くはないな」
「はい。わたし、シッポの先まで七メートル以上あるんです。これだと、いまのアパートの部屋、いるだけでいっぱいになっちゃって」
「それじゃ、ニ十坪くらいは欲しいな、たしかに。細かい部屋数より、大きなワンルーム、か」
「お風呂も、そういう意味で広いところがいいんですね」
「でもお風呂は最悪シャワーだけでも。たまに銭湯に行ければいいので。ぁ、ただ、床が丈夫でないと困るんです。いまいるアパートだと、とにかくちょっと動くだけで下の部屋から怒られて」
「いまいるアパート。あー、ライオンパレスか。あそこ壁も床も薄いんだよな」
「くしゃみが、隣に聞こえる、って」
「それと、床暖か」
「見てのとおり、わたし、変温動物なので、冬はもちろん春秋も寒い日は、身体を温めないと。暖房も入れますけど、床暖の床に張り付くのがいちばんで」
「ホットカーペットじゃダメか」
「いまはそうなんですけれど、引っ越すならちゃんとした床暖がいいかな、って」
リーアの希望条件はどれももっともで、贅沢などではない。
しかし、
「この条件だと、この家賃じゃ難しいぞ。都心からそうとう離れても、もう山ん中、くらいでないと無理だな」
源大朗の言葉も、無理からぬものがある。
「そう、ですよね。やっぱり……」
力なくうなずくリーア。
笑おうとするが、その目からはぽろぽろと涙がこぼれ落ちて、テーブルの上のプリントを濡らした。
「お、おい」
「いまのアパート、出なくちゃいけなくて、新しいお部屋探さなくちゃならないのに今日バイトもクビになったし、やっぱり帰るしかないんですぅぅぅ! もとの世界の村に、わたしみたいなラミアーばっかりで、BL小説なんてぜんぜん売ってないし、読めない、その村に帰りますっぅぅう!」
「BL?」
「小説……」
ここで一同、固まる。
「なんだBLって、バスケットボールリーグか?」
「ボーイズラブ」
「男性どうしの恋愛を描く作品ジャンルですね。小説やコミックがあって、それぞれ人気があるようですよ。熱烈なファンも多いとか。リーアさんも、そのひとりでしょうか」
さらっと答えるキアと、なぜか詳しいラウネア。
「あー、つまりそのBL? が好きでこっちの世界に来たのか」
「それだけじゃありません! でも、故郷の村にはBLはないですし、自分で小説を書いても誰も読んでくれないし」
「やっぱりBL目当てじゃねえか」
「小説をお書きになるんですね。ステキです!」
「BL作家」
「でも初めて応募した作品は二次選考どまりで、作家なんて夢のまた夢で」
まだまだ自傷的なセリフが口をついて出そうなリーアだったが、
「えっ」
ハッ、として顔を上げる。
「ほぉ。二次選考も通ったのか。すごいじゃないか」
「小説自体、初めて書いたのですか? それで二次選考まで通るなんて、すごいと思います。才能ありますね」
「あと一歩。次はもっと行ける」
「は、はい……、はい! ありがとうございます、ありがとう……! うれしい……、こんなにうれしいことって、初めて、です」
声を震わせるリーア。また涙があふれて、顔を手で覆ってしまう。
「こっちの世界に来て、よかった……、ぅぅ……、BLを好きでよかった、BL小説書いて、よかった……!!」
最後のところはちょっと退くレベルに。だが、
「んー、まぁ、そうだな。次の作品を書くためにも、新しい部屋を探して決めないとな」
源大朗の言葉に、
「は、はい。でも」
「条件、厳しい」
結局はまた、ラミアーの習性も住み心地も二の次三の次に、ごくふつうの狭いアパートを借りるしかないのだろうか。
理想はともかく、現実の壁に誰もが声を出しかねていた。そのとき、
「ぅん? なんだかこんなことあったな。ついこないだ、いや、昼間」
何かを思い出す、閃く源大朗。
「昼間の、ハルピュイアのフレイヤさんですよ。ちょうど合った物件が見つからなくて」
「ああそうだ、あいつも広いベランダがないとダメだの、条件厳しかったな。最後は家賃で全部ダメだった」
「そういう方も、いたんですね。やっぱりわたしたち亜人は……」
「待て! ちょっと待て。……もしかすると、ぅん、こいつは、イケるかもしれねえぞ!」
明日も更新予定です。




