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TOKYO異世界不動産 2軒め  作者: すずきあきら
第五章 ハルピュイアは高く羽ばたきたい
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5

まったく別の亜人どうしがルームシェア?

それはたしかに家賃は半分にできるけど、ホントに大丈夫なの?


「で、なに? あたいの気に入るいい物件でもあったわけ? 言っとくけど、月五万、こみこみでも六万しか出せないからね」


「あの……、わたしも関係あるんでしょう、か」


 翌日の午後。


 夷やの店内にはフレイヤとリーアがいた。お互い初対面の挨拶を済ませたあと、ソファーのテーブルを挟んで源大朗、


「フレイヤ、リーア、おまえたちふたりでルームシェアをするんだ」


 そう言うと一枚のプリントを広げる。


「ルーム?」


「シェア、ですか? わたしと」


「そうだ。ハルピュイアとラミアーのルームシェアだ!」


 自信まんまんな源大朗。しかし目の前のプリントの物件は、間取りなどもごくふつうのもの。


「なになに、曙橋徒歩十七分? 微妙ね。三階建ての三階。五十二平米のワンルーム。けっこう広いかな。ん? ルーフバルコニー三十平米? すごい、広い!」


「そうですね。いまのアパートの三倍くらい……、ぁ、でもシェアだと半分、ですよね。お家賃……、十二万八千円!」


 物件概要の家賃を読んで、声を上げるリーア。フレイヤも、


「倍以上じゃない! こんなの払えない! 昨日と同じよ!」


 話にならない、とかぶりを振る。


「まぁ、待て。さっきも言ったろう。おまえたちふたりでルームシェアだ、って」


「源大朗さん、お客様におまえ、はいけません」


 ラウネアが咎めるも、


「あたいならかまわないよ。それより、なんでふたりでルームシェアなの。そりゃあ、家賃が半分になるのは助かるけど、今日会ったばかりの、それも、ぜんぜん違う種族の亜人とシェアなんて」


「わたしも、不安です。ここは広いですけれど、わたしの身体だと半分くらいすぐいっぱいになってしまうし、そうしたら、フレイヤさんにも迷惑だと思うし」


 ふたり、やはりダメか、と顔を見合わせる。


「そうですね。昔からのお友だち、というのでも難しいと言いますし、共同生活は」


「お互いのメリットが」


 ラウネア、キアも利点を見いだせない。


 しかし源大朗、ニッ、と笑って、


「部屋を間仕切りする、と思ってるんだろう。そうじゃない。いや、仕切るは仕切るがな、水平に仕切るんだ!」


 拳の親指を突き出した。


*


「これ、って……」


「すごいです。ほんとにシェアされてます」


 出来上がった部屋を見て、フレイヤ、リーアが声を上げる。


「さぁ、入った入った! といっても、ここから「ふた部屋」に分かれるんだがな」


 玄関ドアの前で源大朗。


 そのドア、開けたところから、ちょうど一メートルと少しのところに、水平の板があって、玄関ホールはもちろん、そこから先の部屋がちょうどまっぷたつに、水平に区切られているのだ。


挿絵(By みてみん)


「じゃあ、あたいは上に」


「わたしは下ですね」


 ひょい、と飛び上がってフレイヤが「上のフロア」へ。リーアは「下のフロア」へ潜り込む。


「オレたちはどうするかな」


「とりあえず、下」


 源大朗とキアは下へ、床に手をつきながら入っていく。


 およそ一か月まえ。


『部屋を分ける?』


『えっ、水平に? ですか』


 フレイヤとリーアを夷やに呼んで、源大朗が説明したときのこと。


『そうだ。ふつうのルームシェアは部屋ごとに分けるが、水平に割ることで同じ間取りをふたつ作る。広さは倍。欠点は、天井高が半分になること。この物件は古いマンションにしては天井が高いが、設ける中階床の厚みもある。それぞれ一メートルちょっとになるだろう』


『そんなに低いのですか。それだと』


『生活できない』


 ラウネアやキアも懐疑的だ。


『リーア、ふだん部屋で、どうしてる。いまみたいに身体……、人間と同じ部分をこう、ちゃんと持ち上げて動いたりしてるのか』


『いえ。これはみなさんと合わせるためで、ふだんは、身体と同じように這っています。手を使わなくても、移動できますし。……ぁっ』


 言いながらリーアが気づいた。源大朗がニッ、と笑う。


『部屋の中程度なら、ラミアーの移動は身体ごと腹這いでかまわないしストレスも不自由もない、てのをどこかで見てな。なら、生活空間は縦方向にぐっと低くできる。フレイヤは小柄だし、部屋の中で羽ばたくことはないだろ。広いルーフバルコニーがあるからな。ふだんはそこから直接出入りできる』


 これにはリーアのみならず、フレイヤも大きくうなずく。


『あたいは部屋じゃ寝るくらいだしな。仕事を自分でするようになれば、荷物の置き場所なんかに場所は必要だけど。それよりこのルーフバルコニーがあれば、うんと楽だよ。三階でちょっと低いけど、地べたよりはぜんぜんいい! ここで寝たいくらい!』


 笑顔に白い歯が覗いた。


『じゃあ決まりだな! 工事は基本、床を途中に設けるだけだからすぐに入れる』


『ぁ、でも、おトイレとかお風呂とかは、どうするんですか?』


『キッチンも』


『そういう設備はシェアするしかないな。ドアなんかはそのまま残すから、ドアノブはふたつ要るが、上と下から入って使う。時間で決めたり、ルールを作ればやっていけるんじゃないか』


 源大朗の提案に、


『うん!』


『はいっ!』


*


「おー、ちゃんとできてるじゃないか。床の強度を出すのに、柱は仕方ないな」


 一見床下のような、下のフロアを奥へと進みながら、


「なんとかしゃがんだまま歩けるじゃないか」


「天井高、一メートル十センチ」


 慣れれば移動もそう苦ではないだろう。けれどこの部屋の住人は、源大朗のような人間でもキアのような人間型亜人でもない。


「わたしはとても快適ですよ♪ 高さはふだん要りませんから! それにこの洞窟みたいなのが、落ち着くんです」


 そう言ってすいすいとヘビの身体をくねらせるリーア。声が弾んでいる。部屋の中には、丈の短い家具がいくつかあった。


「そっちはどうだ! 上の、フレイヤ!」


 呼ぶと、


「こっちもいいよ! すっごく広い! ちょっと天井低いけど、天井にさわれて新鮮かも! あははっ!」


 と楽しそうな声が帰って来る。


 床自体は板材とクッション材程度なので音はほぼ筒抜けだ。キッチンなどの開口部でも繋がっているし、仕方がない。


「風呂は、どうだ」


「こっち」


 ふたりでしゃがみながら進む。


「この低さ、人間なら台車があるといいかもな、ケツを乗せて移動できる」


「ぁ、いいですね、お客様用にあると。うふっ」


 すっかりリーアも楽しそうだ。


 洗面スペースにたどり着き、引き戸を開ける。そこから先は、


「よ、っと! ふぅ、ふつうに立てるな、ここは」


 振り返ると、源大朗の胸の高さくらいの床の上、フレイヤが顔を出す。


「お風呂、けっこう広いね! あたいは水浴びくらいしかしないけど。リーアはだいじょうぶなの? この広さ」


「ぁ、はい。全部は入りませんけれど、今のアパートよりはずっと広いのでうれしいです。ほんとにシッポを伸ばしたいときは、健康ランドのお風呂、行きますし」


 さっそく上と下で会話。


 なんだか二段ベッドのようだ。


「ここはもともと1LDKだったのが、アルゴス族の男が借りるってので、ワンルームにした物件なんだ。アルゴスは巨人族で、ベッドだけでも三メートル以上のが必要だからな。そういうわけでもともと改造物件だったんで、さらに改造するのもハードルは低かったってわけだ。亜人の住居に関する行政の補助もあるから、ほとんど工事代はタダだしな。家賃も十二万まで下げた。ひとり六万ジャストだ」


「ほんと、助かったよ! おっさん! いや……、源大朗!」


「ありがとうございます、源大朗社長さん!」


 ふたりの礼には心が籠っていた。


「あとは、ふたり、仲良くやれよ!」


*


「あ、あの! サンドイッチ、作ったんですけれど、お昼、いっしょにどう、ですか?」


 リーアが下から話しかける。


「え、ほんと、いいの? うれしい、ありがとう!」


 休日の、ふたりいっしょのランチ。


 ハルピュイアとラミアーの、奇妙なルームシェアだ。


「あの、中身は生肉なんですけど」


「いいよ、あたいも主食、生肉だし、ラミアー族もだよね。他にも食べられるけど。でもいいよぉ、気を使わなくて。疲れちゃうでしょ。ぁ! おいしいっ!」


「ありがとうございます。スパイスちょっと効かせてあって。ぁ、でもいいんです、この間、新しいバイトも決まって。少し余裕もできてうれしくなって」


「そうなんだ。どんなバイト?」


「品川区にある、上神明高祖神社っていうところなんですけれど。ヘビを祀っているんです」


「ヘビ! あー、それで」


「ええ。そこの、お手伝いを。そうしたらお参りに来る人に受けが良くて。それでこんど、イメージキャラみたいなこともしてくれ、って」


「いいねー! そのうちご神体になっちゃうんじゃない? あはっ」


「そうですね、それは困りますけど。うふふっ」


「でもよく見つかったね、そんなバイト」


「はい、あの不動産屋の社長さんが紹介してくれたんです。なんでも知り合いのお医者さんから教えてもらった、とか」


「へー! あの社長か、源大朗のおっさん、いいとこあるじゃん!」


「そうですよね。こんな広いお部屋も工夫してくれて。ほんとう、感謝しています。それに、けっこう、その……」


「ん?」


「い、イケてます、よね!」


 なぜかリーア、顔がみるみる赤くなる。


「ほぇー、なになに? リーアって、ああいうおっさんタイプ? そうかぁ! いやいや、まぁ、あたいも、悪くないなって、口は悪いけど、仕事はできるしさ。あ、そうかぁ! うん、いいねいいね!」


 目をキラッ、と輝かせるフレイヤ。囃したくて仕方ないといったふうだ。


「そ、そんなんじゃ! わたし、小説を書いているので、源大朗社長みたいな感じ、キャラにいいかな、って」


「えー、小説書いてるの? すごいすごい!」


「ぜんぜん、です。まだ、採用されたことないんです」


「でもいいよね、夢があるって。あたいも自分で宅配便、本気で始めないと。じゃぁさぁ、こんど読ませてよ、小説! どんなの?」


「ぁ、あの、BL、っていって」


「ビーエル? B……ボウケン、ロマン? じゃないか。ま、いいや、できたら読ませてよね! ぜったい!」 


「ぜ、ぜったい?」


「そうそう、面白そうじゃん! あのおっさんが出て来るビーエル! ん、どうしたの?」


「あ、あの、あの……、無理、です、ごめんなさい! 読ませませんっ!」


*


 そのころの夷や。


「ぶわっくしょっ!」


「あらあら、風邪ですか、源大朗さん、気をつけてくださいね」


 大きなくしゃみのあと、鼻をすすって、源大朗、


「誰かがウワサしてやがる。どうせろくなもんじゃないだろ。まったく」


 ラウネアが差し出すティッシュを取り、洟をかんだあと、


「風呂、行って来る」


 立ち上がる。


「お風呂のあとのお酒、ほどほどにしてくださいね。公園のベンチで寝たりしちゃダメですよ」


「んなこたぁ……、わかった」


 それだけ言って、店を出た源大朗。


 しばらく背後に、店先から見送るラウネアの視線を感じていたが、辻を曲がって、ふと空を見上げる。


 そこにいつもよりもずっと大きな赤い月を見たとたん、


「うっ!」


 まるで撃ち抜かれたような衝撃にたたらを踏み、思わず電柱にもたれた。頽れそうな身体を必死に支える。


 全身に汗が噴き出す。異常にズキズキと痛むこめかみ。


 そしてこみ上げる、たったひとつの想い。


「オレに嫁と、娘が……?」


 ありえない。だが確信しかない。揺るがぬ、記憶、それが……。


 急速に消えていく。


 想いではない。確からしさ、真実味が、足元の砂が崩れ、流れ落ちるように心もとなく危ういものになっていった。


「……なわけねえだろ。なわけ、ない」


 すっかり頭痛も身体の熱も消えている。


 バリバリと頭をかくと、源大朗、夜の路地へといつものように歩き出す。


 気付かずに、血が滲むほど唇を噛みしめていた。



(了)



お読みいただきありがとうございました。

本作はこれで完結です。

また別の新たな作品でお会いできる日を楽しみに!

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