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墜落して来た・・もとい訪れた客はハルピュイア。
どんな部屋が希望なのか、果たしてそんな部屋はあるのかな。
どうぞお読みください!
「来やがったってなによー! かわいいJKメイドのコンビだぞー。殺風景な事務所に花が咲いたみたいじゃん!」
「花なら間に合ってる。とびきりのが二輪も咲いてるからな、ウチは」
「まぁ♪」
「……」
源大朗の言葉にときめくラウネアと、うつむくキア。けれどキアの頭の耳がフルッ、と震えるように揺れるのは隠せない。
そんな源大朗の返しにはまったくおかまいなく、マレーヤ、さっそくフレイヤを見つけると、
「あっ、お客さんじゃーん! すごいね、良かったね! えっ、なになに? 翼があるよぉ! もしかしてコカトリスの人ぉ?」
「ちげーよ! あたいはフレイヤ。ハルピュイアの一族だっての。そんな、コカトリスみたいにヘビとか混じってないっつの」
「え、そうなんだ! すごいすごい、すごーい! マレーヤはスピンクスだよ! こっちのアスタリも!」
「はじめまして。あの、騒がしくて、すいません」
「ねぇねぇ、ハルピュイアって、飛べるんでしょお! すごい! こんどマレーヤもいっしょに飛ばしてよぉ!」
「マレーヤ、無理言っちゃ」
「いいよ」
アスタリが制止するなか、当のフレイヤがあっさりと。
「けど、おまえ、何キロさ」
「へっ?」
「体重だよ。正確なところで」
「え、えーっとぉ……、四十キロ、くらいかなぁ。なになに、なんで? 恥ずかしー! おっさんは耳にタコ焼き突っ込んどいて!」
「なんでオレが耳に」
「それにマレーヤ、四十キロじゃないですよ。五十……」
「わー! わー! 聞こえない聞こえなーい!」
「おいっ! マジうるせえ!」
源大朗もとうとう怒りだす、というところ、
「五十キロは無理な。四十キロでもNG。あたいたちが抱えて飛べるのって、十キロがせいぜいよ。それもかなりきつい」
フレイヤ、意外と冷静に返す。
「飛ぶために、軽量でなくてはいけないのですね」
アスタリが。
「そう。だからあたいの体重なんて、二十キロくらいなの」
「二十キロ! ……ぅぅ、マレーヤの少しあげる」
「いらないよ。まぁ、そんなだから、マジレスするとそういうこと」
そう言うフレイヤ。これも軽量化のためか、服も薄手の、身体に張り付いたようなものだし、荷物も腰に小さなウエストポーチだけ。翼の幅に目が行きがちだが、小柄な身長は百二十センチほどしかない。
体重で消沈したのか、マレーヤが静かなうちに、というわけでもないだろうが、源大朗、
「ところでフレイヤ、いまなんの仕事だ」
尋ねる。返って来た答えは、案の定というか、
「宅配だよ。ハルピュイアの宅配便。その会社に登録してて」
「ぁ、「空からお届け! ハーピー便」ですね!」
「テレビでCM、やってる」
みんな納得の答えだった。
「けどさー、あの社長、あたいたちハルピュイアを伝書鳩くらいにしか思ってないんだよ。給料安いし、仕事きついし、時間指定とかマジ無理! てか、時間指定で行ったのになんで留守なんだよ、ありえない!」
フレイヤの言い分ももっともではある。
「亜人の労働環境とか、いま問題になっていますものね」
「いま住んでるのも会社の寮なんだけど、四人部屋だし狭いしうるさいし、あいつら汚すし、マジありえなくて」
「ぁ、ハルピュイアって」
「んー、貪欲に食べて、そこら中に汚物をまき散らす、って……、え、うそっ! ネット事典に書いてあるよ!」
スマホを見て愕然とするマレーヤに、
「んなことないよ! ……向こうの、つまりこっちからすると異世界の、あたいたちの故郷じゃ、住処も食べ物もぜんぜんこっちより遅れてるから、そんなふうに見えるかもしれないけど。だって、ゴミの回収とかあるだろ、こっちは。だからゴミが街からきれいに消えてくれるんだよ」
訴えるフレイヤ。
たしかに。ゴミ回収車が二週間も稼働しないだけで、この世界の街にもゴミがあふれるだろう。
ハルピュイアたちがとくだん不潔だったり不衛生というわけではないのだ。
ここで源大朗、
「まぁ、だいたいわかった。そこで部屋探しってわけだ。夷や不動産へようこそ! だ。成約したら、屋根の修理代はチャラでいいぞ」
我が意を得たりと。
「どんなお部屋がいいでしょう? こちら、記入してくださいね」
ラウネアもしっかり仕事モードだ。
ただし、フレイヤの手ではペンを使うのが大変そうなので、キアが代わりに記入する。
「そうだなぁ。まず、広いとこ!」
「広いとこ」
「広いって、どのくらいだ」
「うーん、よくわかんないけど、この店の、倍くらいは欲しいかなー」
「うちの店でも十坪はあるんだぞ。じゃあ、ニ十坪、七十平米未満ってとこか」
「配送の会社が池袋にあるから、この辺りの物件がいい」
「池袋周辺、ですね」
「それとそれと! すぐぴゅーっ、て飛び出したいから、すっごく高いところがいい!」
「高層マンション」
「じゃあそれで、ラウネア、候補を出してみてくれ」
「はいっ♪」
すぐにプリンターの音がして、物件ファイルのプリントアウトをラウネアがテーブルへ持ってきた。
「見せて見せて! あ、これなんかいい! 池袋東口徒歩十分。んー、電車乗らないからこの辺はどうでもいい、と。八十六平米。三十五階建ての三十五階! すごい、最上階だ! SRC造? 築三年。へー、新しくていいね! 家賃は、と、月四十二万円かぁ。……んっ? 四十二万?」
フレイヤの手が止まる。
「そのほかに、管理費二万五千円。専用ストレージ、つまり物置が八千円。駐輪場三千円。駐車場三万五千円」
キアが次々読み上げるころには、フレイヤの顔から血の気が引いていた。
「まぁ、駐輪場や駐車場は必要ないだろ。だいたい月四十五万てとこだな」
「ぁ、東南の角部屋だ。日当たりいいね! バルコニー広~い! いいな~!」
「内廊下で、ホテルみたいですね。高級マンションて感じです」
マレーヤやアスタリも口々に言う。
この間、フレイヤ、唇をプルプル震わせていたが、
「……は、は、払えるかー! 四十五万とか、そんなもん! 無理無理無理! ぜったい無理~!」
はぁはぁ、と荒い息に肩を震わせる。なぜだか目尻に涙も滲んでいた。
「じゃあ、こっちはどうだ。んー、池袋西口徒歩十八分。駅から遠くてもいいんだよな。どうせ電車は使わないんだから。六十二平米。十七階建ての十四階。ちょっと中途半端だが、バルコニーは広めだし、おっと北西向きか。夕方しか陽が入らないな。RC造、築十三年。家賃が……」
そこで源大朗が言葉を切ると、全員が固唾をのんで注目する。まるでドラムロールが鳴り響くような中、ついに、
「月二十万円。どうだ!」
「管理費一万二千円、駐輪場一台までタダ」
キアが諸条件を付け加える。しかし、
「二十万円超えてる! 無理ーーーーー!」
「では、こちらの物件なんていかがでしょう」
「もう、家賃から先に言って! 心臓に悪いから!」
「はい、では……、月十六万円です」
「無理!」
「月十五万六千円」
「無理!」
「月二十一万……」
「なんで高くなるのよ! 無理っ!」
「こっちはぁ? えーっとねぇ、月九万八千円だって! 十万円切ったよ!」
「ぅうううう、無理ぃい!」
そんなふうに、ラウネアが追加で出したプリントを全部見ても、フレイヤが無理、以外の言葉を言える物件はなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「これなんか月七万七千、管理費三千だぞ。これで無理なら、おまえいったいいくらまでなら出せるんだ」
源大朗の言う、その物件、もうタワーマンションでもなければ、専有面積三十二平米の、駅歩ニ十分だった。
「……五万」
「は?」
「だから五万円! ……給料、十万円もないし、遊びとか趣味とか、そういうお金もいるじゃない。スマホ代とか」
「いやまず食費だろ。光熱費、とか」
「ほかにもお金はかかりますし、たしかにお家賃代は五万円くらいが、ギリギリでしょうか」
「てか、五万で池袋駅近とか、高層マンション高層階とか、二十坪以上とか、よく言えたな」
源大朗の言葉どおり、ラウネアも、その条件ではフレイヤの希望物件をとうてい探しようがない。
「ダメなの?」
「ダメだ。その条件じゃ……」
「こんな物件になります」
「たとえば……、西武池袋線保谷駅北口徒歩二十分。ワンルーム。三階建ての二階。木造。二十平米。築二十五年。こんな感じの物件なら、いっぱいあるが」
「それじゃダメなの! 広いバルコニーがないじゃない。あたいが羽を広げられるバルコニーが、さ!」
「なんでバルコニーにこだわるんだ」
「指定のポート以外で離着陸が許されるのは、自宅など、他の人間が影響を受ける可能性が低い場所で、最大翼幅×最大翼幅の四分の三以上の面積を有する庭、バルコニー、などの個人専有スペースに限られる」
ネットから見つけて来た情報を読み上げて、キア。
「マンションの屋上も、たいていは共有スペースだしな。……いいじゃないか。ちゃんと正式な離着陸ポートを使えば」
「そんなの、この池袋かいわいだって数えるほどしかないんだよ!」
「だったら、ちょっと広いところでパーッ、って飛んじゃえば?」
「そういう有翼亜人の方、見たことあります」
マレーヤ、アスタリも言う。
ところがフレイヤ、ふだんはそうした、厳密には違法の離着陸も平気のはずが、
「ダメなんだ。さっきも言ったけど、あたいは十キロくらいしか持って飛べない。ゼロから飛び上がるのに、十キロの荷物でもそうとうきついのさ。だからある程度の高さのところが必要なの」
「荷物持って飛ぶのは仕事だろ、基本。自分の部屋じゃ……」
「だから、会社を辞めて、自分で仕事しようかな、って。どうせ荷物運ぶのは同じだし、だったら自分で請け負って自分で運べばよくない? いまだと、どれだけ運んでも給料変わんないんだよ!」
フレイヤ、どうやら独立、起業を考えているのだった。
「へー、事務所にもなる部屋ってことか。こう見えて、ちゃんと考えてるんだな、脳みそ」
「なにそれ、どういうこと!」
「鳥頭、って言いたいの、かな」
「なんだとー!」
「お客さまに失礼ですよ、源大朗さん」
店内が紛糾? する中、
「それじゃ、マレーヤ、帰るね! またねー!」
「失礼しました。ごちそうさまでした」
そそくさと引き上げるスピンクスのふたり。
「あいつらが帰るとこ、初めて見たぞ」
妙なところに関心する源大朗。
そして結局、
「……はぁー。ちょっと、考えてみる。また来る、かも」
肩を落とし気味に夷やを出るフレイヤ、だった。
明日も更新予定です。




