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16回目。ここから第四章。
なにやらいつもの、亜人のお客さんが来て物件を紹介、というのとは違うような……
「じゃあねー、ばいばーい!」
「またなー、明日!」
男女さまざまな声が交錯する、下校時の学校玄関。
キアはひとり、自分の下駄箱を開ける。
「……」
手が止まった。視線も下駄箱の中から動かない。
一分ほどもそのままだったろうか。
カタン。下駄箱の蓋を閉める。
「んっ……」
セーラー服の襟元をちょっと直す。キアはコンクリートの土間に降りると、他の生徒たちに交じって、玄関を出ていった。
そのキアの後姿。
制服のスカート裾から短いシッポがはみ出していて、歩くたびにフルフル揺れる、そんなさまをじっと見ている者がいた。
「ふぅーん♪ あれかー」
「まぁ、なかなか、いんじゃねー」
「ネコ耳にシッポ。ケットシー族、ね……」
三つの影が、校舎の暗がりに溶けていくように消えた。
*
帰り道。キアが歩いていると、
「ぁ、キアだ! やっほー!」
道の反対側から声がした。振り向くと、
「マレーヤ」
駆け寄って来る。マレーヤと、
「いま帰り?」
こっちは歩いて、アスタリ。スピンクスのふたごの姉妹だ。
「うん」
答えるキア。三人並んで歩く。三人とも、歩くたびに頭のケモノ耳と、スカート下のシッポが弾む。
「キアが学校行くようになってもうひと月? 早いねー!」
「もう慣れた? 学校は楽しい?」
異世界から来た亜人専門の学校。
正式には認可学園で、行政から補助が出ているため、生徒の授業料など負担も軽い。
「楽しいとか、わからないけど、授業は、好き……、きゃぁっ!」
キアに突然、抱きついたのは、
「うーん! かわいいかわいいかわいい! 制服のキア、超ウルトラかわいいんですけど! チューしていい? チュー!」
と、いつものマレーヤだった。
迫るマレーヤの、尖らせた唇をキア、
「ごめん、ちょっと」
手で遮る。
「ほら、いい加減に。キアが困ってるでしょう」
アスタリが言い、キアもコクッ、とうなずく。
「なんでー! いいじゃーん! ぅー、マレーヤたちも中等部だったら、キアといっしょのクラスになれたのにー! もー、JCになりたーい!」
学園は、初等部、中等部、高等部に分かれているが、それぞれ三十人程度のひとクラスずつしかない。東京に二校設置されているといっても、人間の年齢に比定して未成年の亜人だと、二百人(体)、ほどなのだ。
「でも、セーラーもいいですね」
「そうそう! マレーヤたちは高等部からだったからぁ、セーラー着てないんだぁ。高等部でもセーラー、着ていいのかなぁ!」
立ち直りの早いのはマレーヤのいいところ。もうキアのセーラーカラーをさわったり、プリーツスカートをつまんでみたりしている。
「ダメよ、マレーヤ。……でもいま帰るの、少し遅くない? キア、部活、やってたんでしたっけ?」
「ううん」
アスタリの言葉に、首を振るキア。といってもまだ午後三時半を過ぎたころ。真っすぐ帰るにはちょっと遅いが、友だちとしゃべっていたりすればすぐに経ってしまうくらいの時間だ。
「高等部はブレザーになるからさー。でも、ブレザーも似合いそうキア! リボンよりストレートタイのほうが似合うかもねー。選べるんだっけ」
「ネクタイは男子だけれど、希望すれば女子も選べるかもですね。靴も……」
そこまで言ってアスタリ、言葉を切る。
「あれ? キア、それ上履きじゃん。どうしたの?」
マレーヤも気づく。
キアの足元。履いているのは定められている茶のローファーではなく、白のズック靴。キャンバス地のスリッポンスニーカーだったからだ。
「ちょっと、間違えた」
答えるキア。
「間違えた、って」
「へー、キアも間違えるんだー。マレーヤも! 玄関でおしゃべりしてたら履き替えるの忘れて、そのまま帰って来ちゃったことあるんだー。あはは、どんまい!」
笑うマレーヤに、
「うん」
キアもちょっと笑う。アスタリが何か言いかけたとき、
「おう。いま帰りか」
源大朗に声を掛けられた。ちょうど、夷やから出て来たらしい。もうそんな近くまで帰って来ていたのだ。
「おー! おっさん、はたらいてるー? いいところで会ったからさー、マレーヤたちにアイス、奢ってくれてもいいよ!」
「アホ! 暑い中、額に汗してはたらいてる勤労青年……、じゃない、中年、んー、勤労者が、だな、なんで遊んでるようなJKに奢るんだよ」
「はぁー、なによケチー! こんなかわいいJKやJCとしゃべれるだけでも幸せだってのにー。大事にしないとバチ当たるよー!」
「抜かせ。だいたいおまえ、アイスだのケーキだのばっかり食ってるとなー、太るぞ!」
「へへーん! マレーヤはぜんぜんへーきだもん! 太ったスピンクスなんて、見たことないし!」
「それは向こうの、異世界での話だろ。こっちの甘くて高カロリーのエサばっか食ってるとな。たちまちだ。ん? なんかケツがでかくなったんじゃないか? スカート、きつくないか?」
「ぎくっ!! な、なんでおっさんが。……んー!」
「こっちを見ないで! わたし、そんなにお尻大きくないの!」
アスタリまでが顔を赤らめ、カバンでお尻を隠す。
「ほぉ、アスタリ、おまえ」
「だ、だから見ないでください、お尻!」
たちまち起こる喧騒。
そのただ中にあってキア、
「……」
黙って聞いているだけ。けれどその口元は、わずかに微笑んでいる。
「ん。いつまでもおまえらいじっててもしゃあねえ。だいたい、管理物件の保守に行くところだったんだ、オレは」
そう言って源大朗が背を向けると、
「行く」
キアが続こうとする。
「ぁ? キア、おまえ、いま帰って来たばかりだろ。カバンも置いてないで。夷やへ帰ってろ。ラウネアが待ってるぞ」
「いい。メールするから。いいでしょ、行っても」
「そりゃ、ダメじゃないが」
「へぇー! 制服の美少女JCといっしょとか、変な関係に間違われないようにね! おっさん!」
「ぁ、でも。親子と思われたりするかも」
ここでまたマレーヤとアスタリ。
「やめろ! そんなんじゃねえ。てか、せいぜい兄妹にしとけよ、アスタリも、ったく。ほら、行くぞ」
ようやく源大朗、歩き出す。
「……」
その横に、半歩遅れてついていくキア。そのふたりを、
「いってらっしゃ~い!」
「気をつけて」
笑顔で見送るマレーヤとアスタリ。
後姿からなかなか目が離せずにいると、
「ねぇ、おっさんっていくつだっけ」
マレーヤ。アスタリが答えて、
「正確にはわからないけれど、三十代半ばくらいって、聞いたような」
「キアは?」
「十四歳。……ぁ」
「じゅうぶん親子じゃん! ねー」
「ですね……」
明日も更新予定です。




