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第三章完結です。
そして今回も間取り付。目黒の某お城ラブホの部屋とかです?
突然の静寂。
そして、
「わぁああああああっ! やったぁああああっ!」
爆発する歓声。おもに聞こえるのはマレーヤの声だが、みんな、アスタリもキアも、ヨハンナまでも声を上げていた。
「ふぅー」
源大朗も大きく息を吐き出す。
「何を騒いでおるのじゃ。むぅ……、はははっ!」
「あははは! すごーい、すごーい! イリスちゃんかわいいっ! 大好き!」
「こらっ! 抱き着くでない! き、キスするなぁ!」
「あははっ! やったぁ!」
騒がしいイリスとマレーヤを後目に、
「どうやった、の?」
キアが聞く。
「なぁに。あいつは自分の国から見捨てられたってことだ。王だとしてこっちの世界に来れば、いちおうは賓客扱いになる。が、オークの旦那はヤツを見限り、イリスと結婚するのに同意した。イリスが女王として認められ、やつはただの異世界人になった。しかもこの間逮捕された「使者」が、シャワランの命令でやった、って自供してる。これで詰み、だな」
「でも亡命するって」
「認められねぇよ。再入国するにしても、いったんは強制送還される」
「あ、でもイリス、結婚しなくちゃいけないんでしょう! 大変じゃん! せっかくあのヤなヤツがつかまってバイバイできたのに、こんどはオークだよぉ! ぅうううう、逃げようよ、絶対あっちへ戻っちゃダメだよぉ!」
マレーヤの心配はしごくもっともだった。
だが、
「心配いらぬ!」
「はい。条文を、読んでみてください。あ、エルフの文字ですから、わたしが読みますね。……結婚は、イリスが成人となったその日に成される。ですから」
「エルフの成人って、20歳? こっちじゃ、もう18歳が成人なんだっけ? イリスはいくつなの? でもあと10何年かで……」
「わらわは、六十歳じゃ」
「ん?」
あまりに斜め上な答えに、マレーヤの表情が「?」に染まる。アスタリやキアもだったが、
「ぁ……、エルフの人たちって」
「はい。わたしで、今年百八十歳なんです」
ヨハンナが微笑んだ。
「ざっと、10倍ってところか。オレたち人間の、な。逆にオークの平均寿命は五十歳もない。つまり、わかるな」
「すごぉーい! 源大朗、あいつらオークをだましたの?」
「ということになるな。まぁ、エルフの長命についちゃ、オークどももよく知らなかったんだろ。いつもただ奪うだけだし、種族によっても違うからな。けど、こっちもタダじゃない。あいつらだって待つ分、見返りを当然要求する」
「見返り……、なんなの」
キアの問いに、
「月に、百万円、です」
「百万! ですか、ひと月に!?」
アスタリも驚く。答えたヨハンナも不安そうだ。が、
「といってもこっちの紙幣やコインを送っても向こうで使えるわけじゃない。だから百万円分の物品、だな。具体的には、ハチミツ、だ」
「ハチミツ……」
「ああ。あいつらオークの大大大好物らしい。とくに上物はな。こっちの、ある最高級ブランドのハチミツを、あの豚司令官にもうサンプルで送ってあってな。すっかりトリコになっちまったってわけだ」
「それって、オークにとっての麻薬……」
「知るか。こっちの世界じゃ純粋純正なハチミツだ。異世界輸出品目の規制にも該当しない。なんでも毎日ハチミツにすっかり酔っちまってるせいか、エルフへの統治も緩んで来てるって、ウワサも聞く」
「でも、でも、百万円だよ! マレーヤたちのバイトだって、月に五万円くらいなのに、その……、ニ十か月分だよぉ! あ、でもひと月に、だし!」
指折り数えて青くなるマレーヤ。
が、源大朗はニヤリと笑って、
「それなら心配なさそうだ。……ン、そろそろか。ほら、な」
壁の一部を開いた。そこには窓があって、さらに開くと外の空気と音が飛び込んで来る。その外を指さし、
「見ろ」
言われたとおり、アスタリとキアが見下ろすと、
「あっ!」
歩道に人が溢れていた。
千人、二千人、もっと、道の向こう、大通りをずっと続いている列。
「こんなに……」
「ネットの力ってのはすごいもんだな。わずかひと月足らずで、イリスを大人気にしちまった」
「あ、じゃあ、レイチェルに頼んだのも?」
マレーヤも身を乗り出す。窓から覗く人影にさっそく反応して、下の群衆から歓声が起こった。
「ああ。ミナにもな、ラウネアに言って頼んでもらった」
レイチェルもミナも、かつての夷やの客だ。源大朗が紹介した物件にいまも住んでいる。レイチェルは人気マンガ家、ミナはファッションモデルとして有名で、大勢のフォロワーを持っていた。彼女たちが発信し、テレビや新聞などのメディアも取り上げて、瞬く間にイリスは、オーク軍に国を追われた悲劇のエルフ女王として有名になったのだ。
「それにしても、今日どうしてこんなに、ここに」
ヨハンナが訝しむ。
「あー、それはな、オレが追加で頼んどいたんだ。今日……」
「ほんとだ! レイチェルのつぶやき、今日、イリス女王の握手会&サイン会があるから、みんな目黒エンプレスに集合! だって。おっさん、これ!」
「おう! 人が多く集まれば、それだけ奴らも無茶はできないしな。こっちの兵隊だって、思ったんじゃないか。屋外に仕掛けたライブカメラにしっかり映ってるから、イリスとの会話の画像にかぶせて、向こうの世界に送ってたのさ。効果は上々、てな!」
異世界との直接会談も、回線は夷や経由。
ラウネアが操作していた。
「そら! 握手会の時間だぜ、女王様! ファンにはにっこり笑顔で愛そうよく、な!」
「なんじゃ? その握手会、とは!? ん? これからわらわが握手? この、何千人と? 名前を書くサインも? にっこり笑って、じゃと!? む、む、無理じゃぁ~~~!!」
*
「……」
「ん? スマホで何見てるんだ?」
いつもの夷やの店内。うららかな午後だというのに、客の入りはない。キアがじっと見ていたスマートフォンを源大朗がのぞき込む。
「イリスのネットチャンネル。毎日アップされる。すごいよ、閲覧数も一日で何十万も。フォロワーも百万人以上いるし」
小さな画面の中で、小さなイリスが快活にしゃべっていた。アシスタントのように、傍らにはヨハンナが。
もう更新回数も三桁を越え、慣れたのか、数分とはいえ、なかなかにツボを心得た愉しさが好評だという。
「ほーぉ、達者なもんだな。それでいて、ちょっと舌足らずな幼さもある」
「最近は、人生相談コーナーがウケてるんだって。イリス、けっこう毒舌なんだよ」
「そういうギャップがいいんだろうな。まぁ、安心したよ。これなら高級ハチミツもたっぷり買えるだろ」
「うん」
「お茶が入りましたよ。少し休憩にしましょうか」
ラウネアが湯気の立った湯飲みを並べる。お茶菓子をさっそく口に放り込んで、
「ま、ずっと休憩みたいなもんだがなー、今日は。んぐ、もぐっ」
「イリスたちのほうがずっと稼いでる、きっと」
「だなぁー。……あー、そうか」
源大朗、クッキーを手に、口をムッ、と結ぶ。
「どうしたんですか?」
「うらやましい、の?」
ラウネアとキア、ふたりを前に源大朗、腕を組んで、
「考えてみればあいつ、イリス、ああ見えて六十歳だぞ。オレたちよりもずっと年上じゃないか。人生経験……、エルフ生経験も豊富だろうし、人生相談なんざ、うってつけかもな。見かけによらねえ、ってのはこのことだ」
うなずく。
「たしかに、そうですね。うふふふ」
「六十歳。ヨハンナは百八十歳だった……」
虚を突かれたような、けれどしだいに笑いがこみ上げて来る。
夷やの店内の空気が、急に温まったようだった。
「まぁいい。しばらくは、オレが手配したあの目黒のラブホ……、もとい、ファッションホテルがあいつらの城だ。まだ帰化申請が通らないから、ウチが借り上げた物件に住んでるって態で、手数料も入るしな」
対シャワランで箔をつけるため、イリスに豪華な邸宅を用意しなくてはならなかった。
そこで源大朗が気づいたのが、目黒駅から徒歩十分、もう三十年以上の歴史を持つこちらも伝説のファッションホテル、目黒エンプレスだったのだ。
外から見ればエルフの国の城にも匹敵する佇まい。
第一候補の、ネズミの国の城にもいちおう引けは取らない。
イリスは満足らしく、いまも最上階を借り切っている。
(ホテル目黒エンプレス イリスの部屋上階)
(ホテル目黒エンプレス イリスの部屋下階)
「イリスの玉座が乗ってた一段高い円形の台ってあれ、回転ベッドだからな。もう使ってなかったのを引っ張り出してもらったんだ。気に行ったのか、今も使ってるんだと」
「……」
「まぁ、回転ベッドってなんですか? 楽しそう!」
顔をあからめるキアと、楽し気に声を弾ませるラウネア。
そこへ、
「ちわぁ! おっさんいるぅ? あ、キア! ラウネアさん、はろー!」
「こ、こんにちは」
招かれざるマレーヤとアスタリも顔を見せ、今日も夷やの店内は平常運転だ。
「またおまえらか。客じゃないのかよ。お客さんでもたまには連れて……、ま、いいか。ははっ」
明日も更新予定です。




