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『忘却の都市』 失われた記憶
霧崎は、強烈な頭痛に耐えながら、朦朧とした意識の中で“幻”を見ていた。
今にも意識が途切れそうになる——だが、必死にそれを繋ぎ止める。
今、この場所で意識を手放すわけにはいかない。
——何故か、そう強く思った。
幻の輪郭が、次第に輪郭を持ち始める。
目の前に広がっていたのは——白い、無機質な空間。
……病院だろうか。
診察用のベッドがいくつも並び、その上には——男女が一人ずつ、静かに寝かされていた。
静かに響く声。
「……これが、今回の被験者か。」
「なぜ二人いる? 一人のはずでは?」
「……まだ、子供じゃないか。」
ざわめき。
まるで確認し合うように、周囲の人間が口々に声をあげる。
やがて、空気が静まり——
「では、男性の方は——いつも通り、処置を行う。」
「女性の方は……目を覚ますまで、ここで待機。報告通り問題がなければ、衣食住の提供を。」
淡々と、何かが決定される。
そして——
男性が、ゆっくりと別の部屋へと運び込まれていった。
そのとき、一瞬—— 彼の手が、眠る黒髪の少女に向けて、わずかに伸ばされたように見えた。
その指先には、かすかな“迷い”が滲んでいた。
そして今、霧崎の中で——失われていた記憶の断片が、静かに目を覚まそうとしていた。




