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『忘却の都市』 遠い呼び声
俺は何も考える気力が湧かなかった。
複雑な思考も、感情の整理もできない。
今の霧崎に残されたのは、ただ巡回に戻るという単純な行動だけだった。
この仕事に就いたばかりの頃は、わからないことばかりで右往左往していた。
だが、今は一人での巡回も難なくこなせるようになっている。
——あの優秀な指導員のおかげだ。
まだ短い関わりとはいえ、あの夏希の背中が、自分に何を教えてくれたのか。
ふと、あのときの彼女のまなざしを思い出す。
(……あんなふうに信じていた相手が、突然……)
反乱。死。
そんな重すぎる現実に、夏希がどんな想いを抱いているのか、想像するだけで胸がざわついた。
そんな想いを胸に抱えながら、俺は淡々と巡回ルートを歩き続ける。
日々の単純な作業だけが、彼の思考を打ち消してくれた。
そして——巡回がちょうど終わりに差しかかろうとした、そのときだった。
端末に通信が入る。
それは、通常の業務連絡ではなかった。
暗号化された短いメッセージ。
少し時間をかけて解読し、内容を読み終えた霧崎は、息を呑む。
> 例の場所に——今すぐ来て。
送り主は、夏希。
その文面には、ふだんの飾り気も、言い回しの柔らかさもなかった。
それだけの言葉が、強い“意志”となって、まっすぐに彼の胸を打った。




