『忘却の都市』 灯火を継ぐ声
しばらくの静寂を破ったのは、ふと漏れた笑い声だった。
「ふふっ……」
怜奈の笑顔。どこまでも自然で、澄んでいて——
「悠人さんって、初めて会ったときからですけど……ほんと、面白い人ですよね」
その一言に、悠人は胸を押さえたまま絶句し、なぜか顔を赤らめた。
「や、やめてくれよ……なんか……今の、ズルいって……」
戸惑う悠人を見た凛は、すかさず彼と怜奈のあいだに入り込むようにして視線を塞ぐ。
「おい、悠人。……分かってると思うが」
普段見せない、無言の圧。目だけで語る“兄”の威厳。
「……分かってるって!」
悠人は即座に手を上げて、降参のポーズをとる。
それを見て、皆の笑いがこぼれた。
ただの冗談——だけど、そこには確かに“家族”の匂いがあった。
やがて笑いが落ち着いたころ、悠人が口を開いた。
その表情は、驚くほど真剣だった。
「……あと、な」
少し言葉を選ぶようにして、静かに続ける。
「俺はさ、凛たちとは違って、本当に“外部”から来た、何も知らないただの人間だった」
「でも……そんな俺が、この都市の崩壊に関わる一因になった。 さっきの城戸って人の姿、頭から離れなくてな」
風が、言葉の間をさらっていく。
「……俺たちのやったことが、間違ってたとは思わない。 それは自信を持って言える」
「でも……それでも。ここから先、俺にできることがあるんじゃないかって、思ったんだ」
その言葉には、冗談ひとつない、真摯な熱がこもっていた。
——けれど、その静けさも一瞬だった。
悠人は唐突に笑い、勢いよく声をあげる。
「ま、それは“ついで”だけどな! 俺は、自分の夢を叶えるためにこの都市に戻るんだ!」
再び、青空に響いたその宣言。 誰よりもまっすぐで、どこまでも自由な宣言。
「……本当に、おまえはいいやつだな。」
凛は心から、そう思った。
(さっきはああ言ったけど……)
(……もし、怜奈が本当に悠人のことを好きになるなら—— それはそれで、悪くない気がする)
ありがとう。
凛はその思いを、言葉にはせず、心の中でそっと悠人に告げた。




