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『忘却の都市』 それぞれの「始まりへ」
「あー、ゆ、悠人はどうするんだ?」
軽く咳払いをしながら、凛は悠人に尋ねる。
悠人はバイクの上で腕を組み、何か考え込んでいる。
そして、少しだけ空を仰いだあと、ふっと笑って答えた。
「俺もね、最初は故郷に帰るつもりだったんだよ」
——けれど。
「……今、決めた」
その言葉とともに、悠人は都市の方へ向き直る。
ついさっきまでいたはずの都市、その方向へと。
その横顔は、どこまでもまっすぐで、どこまでも本気だった。
「……本気なのか?」
凛の問いに、悠人は静かに頷く。
「凛、俺がこの都市に来た日のこと、覚えてるか? 大家さんから鍵を受け取る時間、間違えて、凜の家に入れてもらったあの日のこと」
あの時の記憶がよみがえる。 最初は迷惑な奴だと思った。
でも——それでも、誰よりも人間らしかった。 あのときの悠人の笑顔。
「……あの時、俺が言った夢を覚えてるか?」
「俺の夢は——」
その声は風に乗って遠くへ響いた。
「この都市で、素敵な奥さんと幸せな家庭を築くことだ!」
青空のもと、悠人は恥じることなく、真っすぐに未来を言い切った。
誰にも笑わせない。 誰にも揺るがせない。
それは、“願い”の声だった。




