『忘却の都市』 空の下、明日へ歩く
上階の研究所へ戻ると、そこには慌ただしく動き回る研究者たちの姿があった。
白衣の隙間から飛び交う声、端末に指示を送る手、走る足音。
——この都市で、今まさに生まれようとしている“再構築”の現場だった。
怜奈は少し緊張しながら、工藤から預かっていたICカードを一人の研究員に差し出す。
すると、すぐに別の担当者が現れ、都市外部へ通じるルートと、数日分の水・食料、移動手段までも準備してくれた。
すべて、きっちりと4人分。
——俺、怜奈、夏希、そして悠人。
一体いつから想定されていたのか。
ただ、研究員たちにとっては「いずれ必ず来る」と分かっていたのだろう。
俺たちが、この結末にたどり着くことを。
数ヶ月しかいなかったはずの都市。
けれど、外に出る瞬間は、まるで数年ぶりの帰還のように感じられた。
外の空気は、少し乾いていて、心地よい風が吹いていた。
「……夏希と悠人は、これからどうするんだ?」
都市から少し離れた所で止まり、俺は二人に尋ねた。
夏希が、バイクの上で風に揺れる髪を押さえながら答える。
「私はね……一度、故郷に戻ろうと思ってるの。 正直、行きたくなんてなかったけど…… お母さんと暮らした場所を、もう一度ちゃんと見てみたいの」
その声は穏やかで、どこかふわりとした寂しさを含んでいた。
だが——すぐに、いたずらっぽく俺の方を見て言った。
「ま、本当は凛について行ってもいいんだけど。怜奈ちゃんがいるからやめとくわ…“今はね”。」
「……まさかお前ら……いつの間にそんな関係に!?」
声を上げたのは悠人だった。
「おいおい、やめろ。 夏希とは……ただの仕事仲間だ。そうだろ、夏希?」
そう否定した俺に、夏希はふっと笑って——
「……そうね。冗談よ」
と、静かに答えた。
その頬が、ほんのわずかに赤らんでいたのを、怜奈と悠人は見逃さなかった。
怜奈はその様子をじっと見ていたかと思うと、なぜかムスッとした表情を浮かべ、
俺の背中に、しがみついてきた。
「……?」
理由を尋ねる前に、背後から聞こえたのは、悠人の長い——そして悟ったような、ため息だった。




