『忘却の都市』 家族という名の光
「さて……」
静かに、けれど明確な意志を込めて、田中が声を上げる。
「城戸については——私と工藤が責任を持って預かろう。 元に戻せるとは約束できないが……出来る限りのことはしてみる」
その言葉には、嘘のない覚悟が滲んでいた。
「じゃあ、怜奈。本当にここでお別れね」
工藤の声に、怜奈がはっと顔を上げる。
「……はい」
その返事は、わずかに震えていた。
「こらこら、さっき泣いたばかりでしょう? 子どもじゃないんだから」
冗談めいた口調が、涙の余韻をそっと和らげる。
「それに今度は——お兄さんがいるじゃない」
その一言に、凛が思わず反応する。
ずっと気になっていた。 けれど、何をどう話しかければいいのか分からなかった。
工藤が微笑んで言う。
「あなたたちは、家族なんだから。仲良くしなさいね。 ——神崎凛君。怜奈を、頼んだわよ」
そう言って、怜奈の背をそっと押して凛の前へと連れてくる。
少し恥ずかしそうに、でも勇気を振り絞るようにして、怜奈が言った。
「兄さん……よろしく……お願いします」
凛の胸に、言葉がじんわりと染み込んでいく。
「……ああ、怜奈。待たせてすまない。一緒に、この都市を出よう」
「……はい」
たどたどしくも、確かにつながった言葉。
それは、長く離れていた二人の——再び始まる“家族”の、最初の会話だった。
そのぎこちなさこそが、優しく、 それでいて確かな安寧の予兆を映していた。




