『忘却の都市』 記憶の静寂、心の輪郭
「……城戸がどこまで都市の計画に気づいていたのかは分からない」
「ただ……彼はこの都市に来たときから、誰よりも協力的だった。 記録にもそう残されている」
AIによる誘導だったのか。 あるいは、彼自身の意志だったのか。
だが、凛には分かっていた。
恐らく——いや、間違いなく、それは彼自身の意志だと。
脳裏に蘇るのは、最後に城戸が言った言葉。
『私は……ほとんどの記憶が戻っている』
だが、そうなると——やはり納得できないことがある。
「なぜ……城戸隊長は、あんなふうになってしまったのでしょうか」
夏希の声が、凛の内に浮かんでいた問いを代弁する。
自分たちと比べて、彼の“記憶の衝撃”はむしろ軽いはずだった。
過去よりも長く、この都市で存在し続けていた男。 その彼が、なぜ崩壊したのか。
答えたのは、工藤だった。
「……これは、あくまで仮説だけどね」
慎重に言葉を選びながら、彼女は城戸のほうをそっと見る。
「城戸は……おそらく、自力で記憶をほとんど取り戻していた。 この都市に来る前の、自分の過去を」
「でも……その中で、“家族の記憶”だけは、無意識のうちに封印していたんじゃないかと思うの」
その言葉に、誰もが息を詰める。
「彼の中では、“罪を犯した者を変える”という強い使命が残っていた。 それが、家族との記憶を意図せず上書きしてしまった」
「でも、記憶が解放された瞬間—— 封じていたその記憶が、一気に流れ込んできた」
工藤は、そっと目を伏せる。
「……城戸にとって、家族と過ごした時間は…… この都市での何十年よりも、何倍も濃く、何倍も深くて、何よりも痛かったのよ」
言葉は静かだったが、そこに宿る感情は深く、重かった。
そして、彼女は凛と夏希へと目を向ける。
「あなたたちが、こんなにも早く戻ってこれた理由……私には、正直まだ分からない。 でも——あなたたちは、過去をすべて受け入れた。 きっと、それが城戸との違い」
その声には、理解ではなく“敬意”が滲んでいた。
——そして、長く続いたこの戦いに、静かに幕が下りた。




