『忘却の都市』 旅立ちの余韻
「で、肝心なお二人はどうするんだ?」
悠人が凛に問いかける。
その声には、ほんの少しの寂しさが混じっていた。
「……俺たちは、しばらく旅をしてみるよ」
そう答える凛の声は、どこか晴れやかだった。
「俺と怜奈は、故郷から一度も出たことがなかったからな。 外の世界って、実はほとんど知らないんだ」
「だから、昔話でもしながら、寄り道して、色々な景色を見てみたい」
その横で、怜奈も静かに頷く。
今の彼らは、誰がどう見ても“仲の良い兄妹”そのものだった。
「……じゃあ、そろそろお別れだな」
悠人の声が少しだけ掠れて聞こえた。
ふだんの明るい調子とは違っていて、それがかえって別れの重みを伝えていた。
「そうね。でも……」
夏希がやさしく笑いながら、悠人に視線を向ける。
「またこの都市に来れば……悠人に会えるってことよね」
その言葉に——
「……い、今なんとおっしゃいましたか……?」
悠人は硬直していた。顔が真っ赤になり、目元が潤んでいる。
「え? “またここに来れば悠人に会える”って言ったけど」
「は、はいっ! もちろんですとも! ついに……ついに名前で呼んでもらえた……感激です……っ」
まるで涙がこぼれそうな勢いで胸を打つ彼の姿に、夏希はクスッと笑った。
「……前に凛が言ってた通りだったわね。」
「おい、凛!お前何を言ったんだ!?」
苦笑混じりに返す悠人だったが、その目元はどこかうれしそうだった。
「しばらくは、戻ってこられないと思うけど……またいつか、みんなでここで会えたらいいわね」
夏希の言葉に、誰もが頷いた。 未来の約束が、言葉にならない希望を繋いでいく。
そして——
「……じゃあ、みんな元気で。また会おう」
凛がそう告げると、それぞれが自身の決めた道に向かって進んでいく。
忘却から抜け出し、未来ある希望に向かって——
それぞれの「始まり」へと、静かに旅立っていった。




