142/152
『忘却の都市』 過去に縛られた者
聞かされていたはずだった。
それでも、目の前の男の姿は、その予想を上回るものだった。
人工AIが解かれ、記憶という鎖が外された先に待っていたのは——
虚ろな目。意味を成さない言葉。ただ立ち尽くすだけの存在。
それは“崩壊”としか言いようのないものだった。
自分たちが選んだ決断。その決断の重さ。
今さらながら、その現実が胸に圧し掛かる。
理解ではない——実感だった。
それが、皆の背筋をわずかに震わせた。
田中が、凛に問いかける。
「城戸が……何を言ってるのか分かるか?」
田中の問いに、凛はうなずいた。
「最初は聞き取れなかったんですが……意識を集中すると、はっきり聞こえました」
「『……美由、桜……すまない』」
その名前を口にした瞬間、田中と工藤の表情が凍りついた。
目が合い、互いの顔を見合わせる。言葉にならない、重い沈黙が流れる。
——やがて、田中が重い口を開いた。
「本来であれば……被験者の過去を公にすることはない。」
「でも、君たちには——“知る権利”があるだろう。」
そして彼は、“城戸 守”の記憶を語り始めた。
——それが、これまで語られることのなかった城戸の歪んだ使命の、始まりだった。




