『忘却の都市』 崩れゆく象徴
「……システムが停止した瞬間、俺と夏希は——抗えない衝撃に襲われて、意識を失いました」
エレベータ-の中。
先ほどまで自分たちがいた場所へと向かいながら、凛が静かに口を開いた。
その言葉に、夏希が黙ってうなずく。
「でも——そのとき、城戸隊長は……」
言葉を選ぶように、凛は視線を落とす。
「まるで何事もなかったかのように、立っていたんです」
薄れる意識の中、それだけがはっきりと焼き付いていた。
身体は重く、視界は揺れ、現実すら朧気になっていく中で—— ひとつだけ確かだった。
彼——城戸 守は、揺るがずそこにいた。
「なんとか手を伸ばして止めようとした。……でも、届かなかった」
どれほどの時間が流れたのかは分からない。 一分か、一時間か、ほんの数秒だったのか。
ただ——
「意識が少しずつ戻ってきて、ふらつきながら立ち上がって前を見ると……まだ、そこに……城戸隊長が立っていたんです」
同じ場所で、同じ姿勢で。
まさか、もうすでにシステムはこの男に掌握されてしまったのか。
そう思いながら、彼をもう一度見ると——
「その時にはすでに…この状態でした。」
空虚。無音。無意味。
どこか虚ろな目で遠くを見ている。
口元が微かに動いていた。 何かを呟いている。
ただし、それが“言葉”として成り立っていたかどうかも、分からない。
——自我の崩壊。
誰よりもこの都市を知り、 誰よりもこの都市に適応し、 誰よりも冷静であった男。
その男が、“立っているだけの存在”になっていた。
その光景に誰もが、言葉を失った。




