『忘却の都市』 静けさの裂け目
怜奈は、ふいに自分の口から出た一言の意味を理解し、顔を真っ赤にして俯いた。
と、その沈黙を破るように——
「あ! そういえば!」
大きな声が響く。振り返ると、それは悠人だった。
三人の視線が彼に集中する中、悠人はきょとんとした顔で続けた。
「霧崎……じゃなくて、凛と夏希さんはどうなるんですか? 彼らもちゃんと助かるんですよね?」
その言葉に、工藤は微笑みながら頷いた。
「もちろん。彼らにも都市の外に出てもらうわ。 私たちが責任を持って対応するから、安心して。あくまで私たちの予想だけど、あの段階まで記憶が戻っているようならそれほど大事には至らないはず」
一息置いて、少し照れ笑いを浮かべる。
「……せっかくだし、エレベーターの前まで一緒に話しながら行きましょうか。 誰かさんのせいで、気まずくなっちゃったし」
その冗談めいた一言に、みんなが小さく笑いながら頷く。
そして、静まり返った制御室を後にし、一行はエレベーターへと歩き出す。
廊下は相変わらず人気がなかった。
田中の協力者たちが半数以上を占め、残りの者は—— もうこの都市に“未来”がないと察し、すでに逃げ出しているのだろう。
歩きながら、工藤が切り出す。
「さっきの続きだけど……恐らく、神崎君と進藤さんの近くには城戸がいるわ」
その言葉に、田中が後を継ぐ。
「万が一、城戸がすでに目を覚ましていたら、君たちに危険が及ぶかもしれない。 だから彼らの救出は、私たちに任せてくれ」
心配そうな表情の悠人が、疑問をぶつける。
「でも……城戸って人、ものすごく強い人なんじゃなかったでしたっけ? 大丈夫なんですか?」
田中は苦笑を浮かべながら答える。
「ああ。その通り、恐らくこの都市で最も危険な男だろう。 でも——これは城戸も知らないことなんだが……」
「強化デバイスを装着した人間は、研究員に対して直接攻撃ができないようになっている。 これはさっきのシステムとは別の制御プログラムだから、今でも有効なはずだ」
その説明を聞いて、今度は怜奈が声をあげた。
「えっ、でも……私、進藤さんに拘束されましたよ?」
その問いには、工藤が軽く肩をすくめながら答える。
「それは、あなたを“研究員”として正式に登録してなかったからよ。 何かあったときに、怜奈はあくまで“無関係な人間”として外に逃がすつもりだったの」
その言葉に、怜奈の胸が再び熱を帯びる。
「……だから、私たち二人が行くなら問題ないの。 あとで会わせてあげるわ。あなたの——お兄さんに」
その一言に、怜奈の唇が震えるように笑みを浮かべた。
——気がつけば、彼らはすでにエレベーターの前にたどり着いていた。
田中が操作盤に手を伸ばそうとした、まさにその瞬間。
カチリ
無人のはずの操作盤が、勝手に反応を示す。
「……え?」
工藤がすぐに顔をしかめた。
エレベーターが——動いている。
扉はまだ閉ざされたままだ。
だが、確かに感じる。
何者かが、上から——降りてくる。




