『忘却の都市』 静かなる終端
工藤と田中の声が都市全域に響いたそのとき——
そのアナウンスは、最前線にいる三人の耳にも、はっきりと届いていた。
神崎と夏希は、無言でうなずき合い、数歩だけ身を引く。
目の前に立つ城戸が、次に何をしてくるか予測ができなかったからだ。
同時に——自分たちの身に襲いくる衝撃に備え、身体を構える。
神崎はすでに、これから訪れる影響について戦いのさなかに、夏希から知らされていた。
記憶の解放と、それによってもたらされる精神的苦痛。
それでも、彼はその選択に迷いはなかった。
もし自分が同じ立場でも——同じ道を選んでいただろうと、静かに納得していた。
そして神崎の心には、今、明確な“感謝”が浮かんでいた。
この責務を共に担い、苦しみを背負いながらも選択した研究所の責任者たち。
そして、彼らを信じて動いてくれた悠人と——妹の怜奈。
そのすべてに、深く頭を下げるような気持ちだった。
一方で——
城戸は、ただ静かに立っていた。
まるで、何かを待ち受けているかのように。
神崎と夏希は沈黙のまま、その姿を見つめていた。
やがて——
「……まさか、君たちがここまでの覚悟を持っているとはね」
ぽつりと、城戸が口を開いた。
「完全に予想外だった」
長く吐き出すように、ため息をつく。 それは敗北の吐露か、それとも——諦念か。
「認めよう。……今回は、私の負けだ」
“今回は”。
その言葉に、神崎と夏希の表情がわずかに強張る。
だが、城戸の口元にはもはや笑みすら浮かばなかった。
「私はね……すでに、ほとんどの記憶が戻っている。 システムが停止しようと、私への影響はほとんどない。今の君たちも、おそらくそれほど影響は受けないだろう」
落ち着き払った声で、淡々と続ける。
「だが……君たちは私よりも確実に長い間、意識を手放すことになる」
「——その間に、私は地下へ行く。 そして、都市のシステム権限を再び掌握する」
「たとえ時間はかかっても、今度こそ“完璧な秩序”を実現してみせる。 それが、私に課された“使命”なのだから」
その言葉を最後に——




