『忘却の都市』 秘密の連携
「……来たか」
重い静寂を破ってエレベーターの扉が開く。
その扉の奥に立っていたのは、一人の男——田中 樹。
「田中先輩!? どうしてここに……」
驚きの声を上げる怜奈。
その問いに、隣にいた工藤が代わりに応じた。
「私が連絡したのよ。今日、すべてを終わらせるって決めたから」
怜奈は目を見開いたまま黙る。
「実はね……進藤さんや神崎君が何かしようとしているの、気づいてたの。 私も田中も、ずっと見てきたから」
知らされていなかった事実に、怜奈の顔に混乱の色が浮かぶ。
「そして早川君を上のフロアで見た時に確信したわ。これは今日、動くって。」
「それで、あなたと早川君をあえて二人きりにしたの。 この状況を彼なら、うまくまとめてくれるんじゃないかって。」
ちらりと悠人に目をやり、工藤は続けた。
「そして、予想通り——進藤さんが現れて、すべてを話してくれた」
そこまで語って、工藤は一度だけ深く息をついた。
「……最初はね、怜奈だけ逃がしてあげればいいって思ってた。この子は何も知らずに巻き込まれただけだし、この先どれだけ“実験”に使われていくかを考えると、どうしても……嫌だった」
「でも、あなたたちの言葉を聞いて思った。 私たち研究者こそ——逃げてはいけない。 犯した罪は、自分たちの手で清算しなきゃいけないって」
その言葉に、田中も静かに頷いた。
「……そういうことだ」
「怜奈、早川君。君たちを巻き込んでしまって本当にすまない。 でも、あと少しだけ——力を貸してくれ」
田中は深く頭を下げた。そこには、真摯な謝意がにじんでいた。
その後、表情を引き締め、改めて告げる。
「目的地は、中央奥の制御室だ。 このフロアにいる研究員たちには、すでに“外部からの視察が入る”と伝えてある。しばらく離席させておいた」
「だから、そのまま制御室までは問題なく辿り着けるだろう」
田中の視線が悠人に向く。
「そして——その扉を開けるには、外部の人間の手が必要だ。 申し訳ないが、入り口のセンサーに触れてくれ、早川君」
そして、続けて怜奈を見つめる。
「扉が開いたら、次は怜奈だ。 中央制御システムを起動し、停止手続きに入ってほしい。必要な指示はその場で出す」
最後に、田中と工藤が一拍の間を置いて、声を揃える。
「そして、最後の承認は——私たちが行う。 それで、この都市のシステムは止まる」
——静かだが、確かにそこには“決意”があった。




